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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
10章 正道擲つ渇望
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205. 紅の未来

 宴の後、静寂が訪れる。夜の帳が楽園を覆っていた。

 場に残ったのは創造神とイージア、片付けを行うダイリード。そして酔い潰れているウジンだった。


「さ、これで片付けも終わりだ。二人ともお疲れ様。帰ってお休み」


「承知しました。では」


 ダイリードは頷き、大広間を後にする。しかしイージアはどうしたら良いのか分からず、そこに立ち尽くしていた。


「あ……そっか。イージアの家を作っていなかったね」


「家?」


「僕は創造神だからね。家なんて簡単に作れるから、この楽園に住む皆の家を建てているんだ。君の家も建てるつもりだったけど……明日にしようか。今日は適当な所で寝るといい。何ならそこに転がってるウジンと一緒に寝ても良いよ?」


「酒臭いから嫌だ」


 床に転がるウジンを一瞥し、彼はどうしたものかと考える。彼はまだ悪夢を振り払えた訳ではない。時折魘されることなく寝れるようにはなったが、悪夢を見てしまう時は多い。


(この楽園を歩いて夜を明かすのも悪くないか)


「分かった。では、失礼する」


「ああ、おやすみー」


「……おやすみ」


 彼の後ろ姿を見送った創造神は、床に転がるウジンを担ぎ上げる。そして椅子に寝かせ、大広間を出て行った。


                                      ----------


 朧月を見上げる創造神。彼の瞳には黄金の光が煌々と映し出されていた。


「なに黄昏れてんだよ」


「ウジン。起きたのかい?」


「ああ……まだ頭はちと痛いがな」


「はは……飲みすぎだよ。酒好きは昔から変わってないね」


 夜になり、気温は少し冷え込んでいる。ウジンは身震いしてその場にへたり込んだ。


「……ナドランス。私が何故転生したのかは分からぬのか」


 既に彼は創造神ナドランスへ、自身の正体が転生した虚神である旨を伝えていた。創造神はその事実を聞いた時、特段驚いた表情を見せなかった。昔からずっとそうだ。彼は全てを見透かしているように事実を受け入れる。


「分からないねー……何かしらの因果に導かれたのだろうけど。そもそも君はアテルに滅ぼされた筈だから、転生を呼ぶ因果の拗れもなく消滅したはずなんだけどね?」


「まあ……色々あるのだよ」


 しかし、ウジンは未来で蘇った旨は伝えていない。創造神の認識では、虚神は遥か昔に創世主に滅ぼされたところで止まっている。

 ウジンは思う。ナドランスは自身が破壊神となる未来を見通しているのだろうか、と。


(……愚問か)


「はあ……ま、そのうち分かるだろうさ。そんじゃ、おっちゃんはそろそろ寝るぜ」


「うん。良い夢を」


 創造神は去りゆく彼の背を眺め、静かに目を閉じた。

 彼の瞳に何が映ろうとも、見えるものは変わらない。ただ未来に進むのみ。


                                      ----------


 翌日。楽園、神殿南東部にて。

 大きな敷地に皆が集まっていた。


「さて、イージア。君の家を建てよう! どんな家がいいかなー?」


「そう言われてもな……」


 彼は考え込む。別に家など何でも良いのだが……お任せすると答えれば、変な家が建てられてしまいそうだった。


「私は緑豊かな家が良いと思います! 木々に囲まれた家なんて素敵ではありませんか?」

「流石はアリス様。センスがありますね」


「いや、空に浮かぶ家はどうだ! かっこいいだろ!?」

「うんうん、レヴィーみたいに空飛ぶ家とかどう?」


「お前らなあ……無難な家が一番だぜ? 素朴にログハウスなんてどうだ? ちなみに、おっちゃんの家には酒蔵が付いてるんだぜ」


 意見があまりに違いすぎる。周囲から意見を大量に押し付けられ、イージアは当惑する。

 アリスとリグスの家は北部の森林にひっそりと居を構えている。ゼロは西部に、サーラは東部の海岸線に浮かぶ家を建てている。ウジンは南部で何の変哲もない酒蔵付きの家に住む。ダイリードは神殿暮らしだ。


「まあ、いつでも造り直せるからね。思いついたのを言ってくれればいいよ」


「では……ウジンが言ったように普通の家で良いのだが、一つ欲しいものがある」


「何でも言ってくれ。大体の物は作れるよ」


「庭に林檎の木を植えてくれないか」


 彼の言葉を聞いた一行は意外な表情を浮かべる。

 林檎の木。それが彼にとって何か特別な意味を持つのだろうか。そう考えながら。


 彼は林檎が好きだった。同じ赤色の実でも、トマトは大嫌いなのだが。


「分かったよ。じゃあ、こんな感じで……」


 創造神の身体から神気が溢れ出す。滾る光が地へと流れ込み、地上に満ちる神気と融合する。

 魔力や邪気と同様に、もしくはそれ以上に普遍的な変化が可能な神気。徐々に形を形成し、一軒の家が建つ。傍には真紅の果実を実らせる林檎の木があった。


「これは……」


 素晴らしい技術だ。本来、神気を以てしても生命を創ることはできない。しかし創造神は生命の祖と呼ばれる存在。林檎の木を創るなど造作もない事なのだろう。

 おそらく創造神は自身の身体も容易に変形できる。神気の扱いにかなり慣れているのだ。対してイージアはまだまだ神気の扱いに慣れていない。形成できるのは人間の身体のみで、魂にも未だに人間の魂が混じっている。


「どうかな?」


「ああ、素敵な家だよ。ありがとう」


 彼は満足し、家の中へと入ってみる。

 大きさも丁度良く、ある程度必要な家具も一瞬で創造してくれたようだ。木造建築の一軒家で、一人で生活するには十分な広さを持つ。


「なんか普通の家だなあ……イージアはこういう家が落ち着くのか?」


 ゼロが彼に続いて入って来て、無遠慮に椅子に座った。


「そうだな。住めればそれで良い」


「そっか。たまに遊びに来てもいいよな?」


「もちろんだ。私もゼロの家に行ってみよう」


「おう、待ってるぜ! 俺の家は空に浮かんでんだ!」


 彼は再び家の外へ出て、木を見上げる。

 色鮮やかな林檎が実り、陽光に照らされていた。


「イージアはりんごが好きなのかい?」


「ああ。まあ、それはどうでも良いさ」


 別に感傷に浸りたくて木を創ってもらった訳ではない。ただそこに在るというだけで、安堵できるというだけの理由で創ってもらったのだ。


(……この楽園もいずれ壊されるのだろうか)


 未来を知る彼は思う。

 彼の前に立つ創造神。穏やかで柔和な彼が破壊の権化となる未来がある。とても残酷で、とても昏い未来……彼は思考を放棄する。

 目的は復讐。創造神を心配している余裕はない。

 そう考え直し、彼は林檎の木から目を逸らした。

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