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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
9章 晴天の霹靂
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188. 破滅と青嵐

 青き霧が炎を呑む。

 波打ち、地を覆い尽くす。カラクバラの炎が地上の太陽だとすれば、それは地上の空。ルトの瞳には、青に支配された光景がひどく懐かしく映った。


『この霧は……』


「馬鹿な……何故……!?」


 一人の男が居た。仮面を被った、奇妙な男。彼が青霧を作り出した張本人であった。

 カラクバラは身震いする。一度は殺した筈の男が生きていることに、得体のしれない恐怖を感じた。そしてその恐怖は千年前に味わった恐怖とどこまでも似通っていたのだ。


「ルト。これ以上争いを広げる訳にはいかない。この剣で君と共に戦わせてはくれないだろうか。共にカラクバラを止めてくれ」


『……無論だ、イージア。我がお主の足となろう。その技は不死をも断つ。お主は我が爪牙となれ』


 ルトはイージアを背に乗せ、カラクバラへと向かう。何故イージアが青霧騎士の技を継承しているのか、何故カラクバラが殺した筈の彼が生きているのか。

 全てが不可解である状況で、魔族王はただ運命の巡り合わせというものを感じる。


「おのれ……我が大願、邪魔立てはさせぬ!」


 呪術により配下の影魔族から力を吸収したカラクバラ。彼の力はもはやルトを上回っている。しかしイージアの力が一縷の望みとなった。

 降り注ぐ炎槍を避け、ルトは疾走。躱し切れない炎はイージアの剣によって打ち払われる。


煉陽転輪(ラルジガーン)……!」


『破道霜牙!』

「晴嵐の撃、『飛燕』」


 再び迫る炎の鞭を退け、彼我の距離は縮まる。

 霜と炎の相克を縫って、青き刃が飛来。僅かにカラクバラの身体を掠めて毛を刈った青き刃は、中空で翻って再度襲い掛かる。掠めた場所には青い痣ができ、傷が治ることはない。時間という概念を斬り裂き、恒久的に傷を与え続ける技をカラクバラは露骨に恐れていた。

 不死たる者が前にする死。たとえ眼前の存在が塵芥であろうとも、自らを死に至らしめる毒を持つ者をカラクバラは許しはしない。かつてエプキスから受けた畏怖が否が応でも蘇る。


「煉陽狐火・大獄!」


『来るぞ、イージア!』


 大気が揺らぎ、八の獄炎が爆ぜる。

 ルトは咄嗟に距離を取り、イージアに注意を促す。仮面越しに彼は壮絶な炎を見る。凄まじい威力だ。神転しない限り、凌ぎ切ることは不可能。それでも他者の目がある場所で神転を使うのは憚られる。

 逡巡。カラクバラに傷を付けられる晴嵐の撃ならば或いは凌げるかもしれない。


「晴嵐の撃、『遠揺』……!」


 青き霧が広範囲に広がり、炎へと向かう。

 八の獄炎の内、四の炎が相克し消滅する。しかし、同時に青霧も消滅してしまう。


「……!」


 迫る四の炎。技を出した後の硬直の所為で続けて大技を出せない。

 彼を背に乗せたルトは危機を察知し、霜の壁を作り出す。数秒の拮抗の後、炎が壁を破り再び迫る。


 その数秒間、刹那の出来事。

 イージアは仮面の奥から世界の停滞を見た。本人はこの瞬間、何が起こっているのかを理解していなかったが、正しく言えば力の開花が起ころうとしていた。危機的状況で生命は進化を迎える。

 今まで扱ってきた剣技の集約。剣の実力の臨界点に達してもなお、磨き続けてきた過去が。

 己の昏き情を振り払う様に剣を振るってきた過去が。

 未来に繋がろうとしていた。

 そして彼は刹那の夢を見る。


                                      ----------


 二人の男が、炎の中に立っていた。景色がぼんやりとしていてイージアには二人が誰なのかは分からなかった。

 炎の渦が天に逆巻き、凄絶な地だ。しかし彼らは楽園に居る様な心地で、和気藹々と語り合っている。


「ううむ……感服だ。これほどの腕前を持つ剣士がこの世に存在したとは……」


「お前も中々にやるな。私も久方振りに強者と渡り合った。楽しいものだな、互いの力を認め合うのは」


 二人の声は歪んでいて、所々途切れている。しかし話の内容だけは明瞭にイージアの思考に流れ込んできた。片方の者の声はどこか聞き覚えのある声だ。


「不可思議な技だな。その青い霧は何かの因果を持つ技なのか?」


「因果……? 何のことやら、よく分からないな。私は生まれた時からこの力を持っていた。異能の類だろうか? 私からすれば、お前の技の方が珍しい。見たことのない型だ」


「これは俺が独自で編み出した型だからな。名前すら付けていない。物理と魔術を受け流す事に重きを置いた型で……どうだ? お前が初めての継承者になってみないか?」


「はは……いや、私も歳だからな。もう戦う気はない。もっと若い者に継承させてやってくれ。だが、私の青霧剣術とお前の型は親和性がありそうだ。一つ考えてみるか」


 青霧剣術。その言葉を聞いた時、片方の男の正体が分かった。

 イージアが幼少期より文献を漁っては技を得ようとしてきた、青霧騎士エプキスその人である。何故自分が過去に生きた人物を見ているのか。分からないまま、彼は漫然とその光景を見ていた。


「私の技は大体の物を斬ることが出来る。斬ろうと思えば、魂すらも。原理としては己の感情を放出しているらしい。感情が昂っている時ほど強い霧が出せる」


「それは恐らく混沌の因果を放出しているのだろうが……まあ、どうでも良いな。俺の技は力を一瞬で蓄積して受け流す……青霧剣術とやらとは真逆の性質を持っているな。だが、性質が異なる程に相乗効果は生まれる」


 ただただ、不明瞭な会話を聞いていた。

 周囲の炎から火の粉が飛んで、激しく弾けるが彼らは気にすることなく話し続ける。互いの技を語らう事に夢中になっている様だった。


「では……そうだな。放出を中心とする私の型と、蓄積を中心とするお前の型。互いの長所を取り入れる事が出来たら……素晴らしいと思わないか?」


「うむ、しかし……問題は互いの長所を取り入れた技を生み出せるかどうかだ。生み出せたとて、俺たちが使い熟せるとも限らんしな」


「その時はその時さ。技は一度生み出されれば、必ず誰かが錬磨してくれる。そうして人類の武は発展してきた。きっと、いつの日か私達をも超える技の使い手が現れて……これから生み出す技をモノにしてくれるだろう」


 二人の武人は互いに剣を取った。そしてぶつかり合う。

 白く揺らめいて、見辛いことこの上ない。しかし途切れ途切れの会話が鮮明に聞こえたように、ぼやけたその光景もイージアには確と見えていた。

 両者の剣舞は新鮮ながら、何千、何万回も見た剣の軌跡を辿っている。一振りの軌跡を目に焼き付ける度、何かがイージアの中で弾けていく。

 彗星の様に力強く、飛雪の様に柔らかい。

 青空の様に美しく、嵐の様に激しい。

 炎の中の剣舞に、あらゆる剣の秘奥が凝縮されていた。


 そして剣舞が終わり、視界が更に白み始める。


「ああ……良い。私は誰かを守る為に剣を取った事を思い出したよ。魔国を出て以来、剣を振ることを辞めてしまったが……楽しいものだな」


「エプキス。俺は誰かを傷付ける為の力は欲しくなかった。だからこそ、この型は受け流しに重きを置いたのだろう。殴って来た者にしか殴り返さない。そうありたかった」


「ルカ……お前はやはり、怖いか? お前の内に潜む破滅が」


 ルカ。青霧騎士は彼をそう呼んだ。薄々勘付いていた、彼が師匠であると。

 彼の剣技はどう見ても破滅の型であった。まだ型に名前も付いていない時代の出来事。


「怖いと言えば嘘になる。しかし、いつの日か……お前が言った様に、俺を超える者が破滅を葬ってくれよう。俺は信じている」


 表情は見えないが、イージアの方を向いてルカが笑った様な気がした。

 そして夢は終わる。


                                      ----------


 炎が眼前に迫っている。

 しかしイージアの心は至って平静としていた。


 ただ思う。自分は『夢』の先を実現する者なのだと。

 自分が、『超える者』だ。破滅の型も、青嵐の型も越えて見せる。それが今まで錬磨を続けてきた己に対する褒賞だ。


「──【青雪の構え】」


 青き霧を混沌の因果によって生成し、放出するのではなく己の身に蓄積する。

 時間という絶対的な質量を持つ力が潮流を生み出し、炎を薙ぐ。同時、彼を乗せるルトは炎に向かって突進して行く。青き霧は一切の炎を寄せ付けず、華麗に受け流していく。


「何……!?」


 カラクバラの瞳に映った光景。それは完全なる想定外。

 千年前、エプキスに破れたあの時から。彼の技を打ち破る方法を研究してきた。それこそが配下から呪術によって力を吸収し、圧倒的な威力と手数を誇る技……『煉陽狐火・大獄』。半分の炎で青霧を打ち払い、半分の炎で焼き殺す。

 青霧騎士の技の継承者を根絶やしにしてもなお、彼はその技を忘れぬようにしてきた。それ程までに青霧を恐れていたのだ。


「……れ、『煉陽狐火・大獄』!」


 迫るルトとイージアへ、再び獄炎を放つ。

 しかし溶けるように炎は流されていく。

 青い剣が眼前まで迫っている。それはまさしく死そのもの。魔族王に跨る、仮面の男。

 彼の姿はかつて化け物だと恐れたエプキス以上に──


「終わりだ、カラクバラッ! 彗嵐の撃──『青霧覆滅』!」


「……化け物だ」


 恐怖を超える、恐怖。

 大願が潰える。永遠が終わる。屈辱が沈む。

 ただ一人のニンゲン……いや、ニンゲンの皮を被った化け物に終わらされる。


 一閃、永遠の闇を裂く。

 青き一閃は天に届き、暗雲をも消し飛ばし。そして──


「おのれ、またしても……余は……」


 晴天が、空に満ちた。

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