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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
9章 晴天の霹靂
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182. 霹靂、心に轟きて

 影魔族襲撃の報を受け、魔族王は立ち上がる。


『来たか……! まだ影魔族の全容は把握し切っておらぬ……避難を急げ』


 魔族同士の戦は終わらない。不死である限り、意志強き者は何度でも牙を剥く。

 千年前の戦は苛烈なものとなった。かつての戦を終わらせたのは、魔族ではなく一人の人間。ルトはその人間に思いを馳せる。

 全てを超える力。カラクバラを退け、魔国に救済を齎した者。彼が舞う美しき姿は、今でも鮮明に記憶に焼き付いている。不可思議な力を操る男だった。今でも彼が操っていた力が何なのかは分からない。魔術でも、異能でもない力。


 今の時代、人間だった彼は生きていない。人は永遠に生きられないのだ。

 彼から連想したのは、仮面を被った男。イージアだ。レアの方が強者であることは見抜いていたが、なぜか連想されたのは彼の方だった。恐らく、イージアとレアでは強さのベクトルが異なるからだろう。

 武闘の技量で言えば、彼の方が勝っている。レアからは魔術、或いは異能的な錬気を感じた。ルトが連想した人間は武の極みに在ったが故に、イージアが思い浮かんだ。


『我もまた、出よう。戦火を広げてはならぬ』


 魔族の王は高らかに咆哮した。


                                      ----------


「……他の斥候から連絡が入りました。魔王を名乗るカラクバラが地上に姿を現したそうです。都市の西部、ジェリカ領で影魔族を率いているそうで。他にも各方面から潜伏していた影魔族達が姿を現し、王城へ進撃しているそーです」


 ソニアの報告を受けたイージアとレアは、今後の方針を考える。

 魔族王の迅速な命令により、魔族王の軍が影魔族の侵攻を防いでいた。しかし戦いは千日手だ。カラクバラを討たねば戦いは終わらない。


「さてイージア、どうする?」


「カラクバラの元へ向かう。彼にラウンアクロードについて問いただす。知らなければ……それまでだ」


「それまで……とは?」


 レアの質問に彼は答えあぐねる。

 別にこの戦いの収束に協力する必要はない。カラクバラがラウンアクロードを知らないと答えれば、黙ってその場を立ち去ることも可能だった。


「お二人もカラクバラへ向かわれるのですね。おそらく陛下も魔族を率いて決戦に向かわれると思います。私は……他の領から迫っている影魔族を止めにいきますかねー」


「今後の方針は決まったね。行こうか」


「ああ……」


 彼はそっと剣を撫でた。この剣を抜くべきか、否か。

 関係のない争いに関わる利点はない。もしもカラクバラがラウンアクロードの事を知らなければ、これ以上魔族の対立に干渉することは時間の無駄。それを分かっていて、彼はなお迷っている。


「良いですか、お二人とも。危険を感じたらすぐに退いて下さいね。これは私達の……魔族の問題ですから、人間の方々を巻き込んで犠牲にはしたくないのです」


「……ふむ。人を憎む魔族と、憎まない魔族。何が分水嶺となっているのだろうね」


 レアの疑問にソニアは首を傾げた。魔族である己自身も分かっていないのです、と答えながら。


「私は人間の方々に憎悪は全くありませんよ。でも、過去の怨恨をずっと忘れない魔族もいます。争いは何も生まないという事を、彼らは分かっていない。それにしても……異常な怨嗟ですよね。普通、千年前の恨みなんて風化すると思うんですけど……」


 彼女はどこか遠くを見るような眼で呟く。

 そして、窓を開けて身を乗り出す。


「では、私は行きます! お二人もお気をつけて!」


 イージアは開け放たれた窓を閉め、部屋を出る。


「レア……雨は好きか?」


「うん? 質問の意図が不明だけど……嫌いではないよ。ああ、でも……雨の日に嫌な思い出はあるなあ。大切な人を亡くした日なんだ」


「そうか。私もだ」


 二人はそれきり沈黙し、雨の中を進んで行った。


                                      ----------


 デルフィは全身の痛みに叩き起こされて覚醒する。

 起きた瞬間、身体を確認する。出血が酷い。回復効果がある魔道具を使い、傷を塞ぐ。自分は崖から落ちた筈だ……しかし、生きている。理由を考えても、彼には思い当たる節がなかった。


『よお、起きたかよ』


「クオングッ……俺は、どうなった……?」


『あんまし動くなよ。傷が開く』


 少し身体を動かすと、激痛が走る。魔道具の回復を更に投与して回復を待つ。

 気絶中、雨除けの魔法も切らしていたので衣服がずぶ濡れだ。


「教えろ、俺はなんで生きている?」


『ああ……? 知らねえよ、奇跡的に助かったんじゃねーの?』


 クオングが回答を濁した時、彼はとある違和感を覚える。傷口の痛みが普段感じるものとは異なる。回復の効きが悪いのもそのせいだろう。痺れるような感覚だ。


「お前……自分の生命力を分けて俺の命を繋いだな?」


『……文句あんのか? ここで死なれちゃ、俺様も退屈すんだよ』


 精霊は特殊な生命体だ。独自の魔力を媒介として生命を形成している。

 世界に普遍的に存在する魔力ではなく、『精霊』として形成された魔力の身体を持つ。つまり、精霊とは意志を持つ魔術のようなもの。一度生命力……つまり魂を形成する魔力を分け与えれば、それが回復することはない。必然的に精霊自体の力も落ちてしまう。

 自分の身体を切り離して、他者に移植するようなものだ。


 精霊が再び力を取り戻すには、契約者の強き意志から力を得るしかない。


「いや……ありがとう。お前のお陰で助かった」


『ハッ! テメエにしては珍しく素直じゃねえか』


 彼は上を見上げる。もはやそこには魔族の影も、ルカミアの姿もない。

 上へ戻り、国境の方面へ行けば魔国を出れるだろう。影魔族はみな魔族王を討ちに都市へ向かった。


『傷が治ったら上がるぞ。さっさとこんな国とはおさらばしてよ……』


 彼はまたしても違和感を覚えた。今度はクオングの言葉に。

 いつも勝気な精霊にしては珍しく、逃げ腰な言葉だった。さしもの彼も力を失って萎えているのか、或いはルカミアには敵わないと踏んだのか……


「……違うか」


 違う。

 相棒の精霊は、自分を守る為に逃げようとしているのだと……デルフィは悟った。そうでなければ、クオングは自らの生命力を消費してまでデルフィを助けようとはしないだろう。相棒はまだ自分との旅を続けたがっている。

 だから、彼は守られた。


「……なあ、クオング」


『あ?』


「……雨は、好きか?」


 どうしてこんな質問が口から出たのか……彼自身、分からなかった。傷が治るまでの雑談程度の認識だ。


『嫌いなわけねえだろ? 俺は雷の精霊だぜ?』


「だよな。……さて、行くか」


 デルフィは立ち上がり、歩き出す。痛みも次第に引いていく。

 彼は崖を登りながら、今までの日々を追想する。雨の日、彼の精霊術は大幅に強化されていた。雨のおかげで危機を乗り越えてきたことも何度もある。


 だが、それはクオングの力だ。彼はいつもクオングの力に守られてきた。

 契約を交わした日から、ずっと。


 崖を登り切り、彼は一息つく。

 そして歩みを再開した。


『……デルフィ。悪い事は言わねえ。そっちに行くのは』


「すまん」


『あァ?』


「すまん、デルフィ。お前との契約条件……『生き様を見せること』、だったな? 今まで馬鹿みたいな生き様みせて悪かったよ」


『…………』


 誰かを守りたいと思ったことはない。

 圧倒的な高みに立つ者を、超えられると思ったこともない。


 ──仕方ない。そう思っていた。


「……俺さ、アイツに負けて悔しい。あの馬鹿……ルカミアが言ってたことはよく分かんねえよ。人間を恨むなら勝手に恨めばいい。でも、俺は知ってる。国が戦火に包まれて、死ぬ奴が大勢居る。魔族は死なないけど……魔国に住んでる人間もいて、その子供もいる。影魔族を放っておけば、その子供たちが嬲り殺しにされる。俺はそれを許したくない」


『あー。テメエ、変わったな。つか、短期間で変わりすぎだろ。頭打って人格まで変わったか?』


「うるせえ」


 何かを守りたい。

 そんな願いが、人を強くするのならば。


 今、デルフィは進化を遂げようとしている。

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