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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
9章 晴天の霹靂
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176. カラクバラ

 人型の種族が住まう地区の宿にて、イージアは魔国の情勢について調べていた。とは言っても、特に変わった出来事は見られない。この魔国は緩やかに時を過ごし、緩やかに繁栄する。人里とは違い、きわめて平和で、長年何も変わることはない。


「ただいま。いやあ、あったかい。治安が良いとは言っても、魔国は年中寒いから住みたくはないね。たまに観光に訪れるには良い国だけど」


 夕刻、レアが宿へと帰ってきた。彼女は観光しているのか、情報を集めているのか分からない様子で国々を巡っている。放浪人の様な彼女の態度に苦言を呈したいイージアだったが、稀に重要な情報を持ち帰ってくるので、どうにも文句を言えない。


「何か見つかったか?」


「いや、相変わらず平和な国だよ。権力争いもなければ、紛争もない。理想の国とは、このことを指すのかな? いやいや、どうにも違う気がするね……」


 やはりラウンアクロードの手掛かりは見つからない。

 この国も駄目だった。イージアの心に残酷な現実が突き刺さる。そんな彼に、レアが一つの些末な情報を投げかけた。


「そういえば、最近は色々な地区で人攫い……というか、魔族攫いが多発しているらしいね。まあ、私達が追っている情報とは関係ないだろうけど」


「……待ってくれ。それについて詳しく聞きたい」


 人攫い。どうにもその言葉が引っ掛かった。

 かつてラウンアクロードが世界に召喚された時、『睡眠病』と呼ばれる病が流行った。そして、『睡眠病』に罹った者は意思を乗っ取られ、傀儡となる。もしかしたら──ごくわずかな可能性だが。この国から消えている者はラウンアクロードに操られて消えたのではないか。

 そんな可能性を考慮した。


 魔国に住む者は、数多くが魔族。魔族は不死性と強靭な力を併せ持ち、誘拐などそう簡単に出来ることではない。


「今言った通りさ。誘拐事件が魔国ディアのあらゆる地区で起こっている。犯人は不明。おそらく組織犯罪だろうが……治安の良さを誇るこの国で犯罪を多発させるなんて、魔族王が許さないだろう。じきに犯人達も潰されると思うよ」


「ふむ……」


 彼は考え込む。

 魔族王を信頼していない訳ではない。しかし、相手が災厄であった場合……八重戦聖である魔族王ですらも敵いはしない。そこで彼は一つ、確認をしてみることにした。


                                      ----------


 魔国ディア、王城。

 上段の間にて四本の足を畳み、寝そべる黒獅子があった。『魔族王』ルト。八重戦聖の一角であり、この世に最初に生まれ落ちた魔族である。はじまりの魔族と呼ばれる彼は、この魔国を治める君主でもあった。


「失礼致します、陛下。謁見を望む者が二名、訪れました。旅人のようです」


『通せ』


 この国では、誰もが国王に謁見することを許されている。国王本人の実力を考えれば、危害を加えられる者など殆ど存在しない上に、実のところ魔族王は暇をしている。何千年と過ごす時の中で、謁見という時間は彼にとって暇潰しのようなものでもあった。


 現れたのは、男女の二人組。

 その二人を見た時、ルトは不可解な感覚に襲われた。そして暫く後に、彼を襲った感覚が警告だと気づく。全身の毛が粟立ち、錬気に当てられる。こちらへ歩んで来る二人が強者だと気が付いたのだ。久方振りの感覚に彼は身を起こし、二人の人間を見据える。


「お初にお目にかかる。私はイージア、旅人だ」

「私はレア。うん、旅人だ。それ以外に言うことは無いかな」


「貴様ら! 陛下に対してその態度は……」


『よい。下がっておれ』


「は、はっ……かしこまりました」


 謁見に訪れた二人の態度を諫めようとする配下を止め、下がらせるルト。

 配下が間から出たのを確認し、客人に語り掛ける。


『イージアにレア。よくぞ我が国へ参った。何か不便なことは無いか?』


「いや……特にない。素晴らしい国だと思う」


 彼の言葉が世辞なのか、本音なのか。それは分からなかったものの、自分が治める国を褒められ、ルトは内心で素直に喜ぶ。


「一つ尋ねたいことがある。この国で最近多発している誘拐事件について聞きたいのだが」


『なるほど……ふむ』


 イージアの言葉にルトは思案する。

 誘拐の多発についてはルトの方でも調べており、大方の情報は掴んでいる。この混乱の芽は遥か昔から蒔かれており、今になって目を出しただけのこと。最近になって新たな犯罪組織が作られた訳では無い。この魔国に古くから根付く闇が犯人である。


『それを知ってどうする、客人よ』


「……私達が探している者が、誘拐事件と関わっている可能性がある」


『それは……お主らの知己が攫われた、ということか?』


「いや、知己が犯人側かもしれない。とにかく情報を聞かせてもらいたいのだが……難しい話だろうか?」


 ルトの思考に二つの可能性が駆け巡る。

 一つは、この二人が誘拐組織の手の者であるという可能性。魔族王がどれほどの情報を掴んでいるのかを確かめに来たのかもしれない。

 一つは、この二人が世界士団の団員であるという可能性。魔国で起こっている異変を解決する為に、世界士団が送り込んできたのかもしれない。だとすれば、彼らから感じる強者の錬気にも頷ける。


 後者であれば良い。ただし、前者であれば……


『……カラクバラ、という言葉を知っているか?』


「いや、知らないな」


『であれば、イージア。お主の探し人は誘拐事件とは関係がないだろうな』


 イージアは腑に落ちない様子。『カラクバラ』という言葉を知らない事と、誘拐事件に何の因果があるのか釈然としない様子だった。


「私は知ってるよ、カラクバラ」


 その時、後ろに居たレアがそう言い放った。


「カラクバラはね、もう一つの【はじまりの魔族】の名だ。魔族王ルトと同時に、もう一体の魔族がこの世に生まれ落ちた……彼の者の名がカラクバラだ」


『……その通りだ、レアとやら。どこでそれを知った?』


 カラクバラの存在は一般には秘匿されている。文献にも残されておらず、伝えられていない。この魔国の中ですら知る者は殆ど居ないというのに、外部の人間である彼女は知っていた。


「んん……どこで知ったんだっけ? 忘れてしまったよ。で、誘拐事件について聞かせてくれるのかい?」


『一つ、問おう。お主らは何者か。返答次第では教えることはできぬ』


「旅人、と名乗った筈だが……それでは納得できないご様子だ。どうする、イージア?」


「……正直に話そう。我々はラウンアクロードという者を探している。奴は人を操る力を持ち……この事件と関わりがあるのではないかと疑ったのだ。我々は決して君に敵対する者ではない」


 彼の言葉に嘘の気配は感じれらなかった。

 ルトは迷う。どれだけ歳月を経ても、人を信じることは難しい。だが、信じなければ前に進めないという事も知っていた。


『……よかろう。そのラウンアクロードとやらも絡んでいる可能性はある。少し、昔話をしようか』


 そして、はじまりの魔族は語り出す。

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