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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
9章 晴天の霹靂
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175. 雷鳴来たる

「……何だ、お前ら?」


 雷電霹靂の契約者、デルフィの前に現れた二人の奇妙な人間。

 ここイロマ断崖は魔物が出現するフロンティアであり、人が居ること自体珍しいのだが……彼の前に立つ男は仮面を被り、得体の知れない気を放っていた。


「やあやあ、私は旅人のレア。不審者の彼はイージア。君は魔国へと向かっているのかい?」


「ああ。俺はデルフィ。魔国へ向かっているところだ」


「それは僥倖。良かったら一緒に行かないか? 魔物との戦いも楽になるだろうし」


 レアの誘いに、彼は眉を顰める。わざわざフロンティアに立ち入る様な人間が、手を組もうとするだろうか……そう訝しんだ。フロンティアに立ち入るような者は、大抵武者修行を目的とするか、討伐依頼を目的とする。二人の旅人は見たところ疲弊しているようには見えないので、追い剥ぎの類ではないだろうかとの疑念が生じる。


「それは構わんが……なぜフロンティアを通る? 魔物の相手が面倒なら、街道を通れよ」


「早く着くからね。近道だよ、近道。それに、今は街道の方で工事をしているらしいからね……余計に遅くなってしまう」


「はあ……」


 デルフィは未だに一言も発さないイージアを見る。すると、彼は黙って頷いた。何の頷きなのだろうか。

 彼は心中で精霊に尋ねる。


(クオング、こいつらは邪悪な者か?)


『いやあ……わかんね。ま、悪いヤツらではなさそうだぜ? 俺様でも読めねえな……』


 精霊は人の心の流れを読むことが得意だ。そんな精霊でさえも、読むことが出来ない人間。

 どうしたものかと彼が悩んでいると、レアが口を開いた。


「そういえば、首元の蛇さんは魔族の方かな?」


「ッ……!?」


 ──おかしい。

 精霊とは本来、契約者にしか姿が見えない存在。やはり、只者ではないのか。


「……レアといったか。お前には蛇の姿が見えているのか?」


「ああ、見えているが……? イージア、君は?」


「見えているが……おそらく魔族ではないな。邪気が感じられない」


 仮面の男もまた、クオングの姿が見えていた。彼は首元の蛇を見る。蛇姿の精霊は何が起こっているのか分からないといった素振りで首を横に振る。


『別に、俺様が自分で他者に姿が見えるようにしてる訳じゃないぜ? こいつらが変なだけだ』


「アンタらは蛇の声も聞こえているのか?」


「いいや、声は聞こえないね。喋っているのかい?」


「……コイツは俺の契約精霊だ。普通なら、他の者に姿は見えない筈なんだが」


 あくまでも普通なら(、、、、)、という話だ。二人は普通の人間ではない。

 イージアは神族であり、かつて明鏡止水の精霊・シャスタの姿が見えていたように、精霊の姿を視認することが出来る。レアもまた、何かしらの手段で精霊の姿を捉えることができた。


「まあ……良い。俺もさっさと魔国に着いて、暖かい布団で寝たいしな。一緒に行こうぜ」


「おお、それはありがたい! では共に行こう」


 異様さに異様さが重なり、デルフィはかえって二人を信用してみることにした。彼もまた旅人である。好奇心には逆らえない。この二人と共に行くことで……何か面白いことが起きるのではないかという予感があった。そして、その欲望に素直に従ってみることにしたのだ。 


    ーーーーーーーーーー


 その夜。フロンティアの中間で三人は開けた場所にテントを張り、夜を明かすことになった。


「じゃあ、私は寝るとするよ。おやすみ」


「おやすみ」


 天幕へ入って行くレアをイージアは見送り、自分の天幕に入る。中ではデルフィが荷物の整理をしていた。今日は彼と共に夜を明かすことになる。明日の昼には魔国へ着くので、一日限りの付き合いだ。


「よお、もう少し寝るのは待ってくれ。手入れが終わってない」


「いや、構わない。私は夜間も外で見張りをしている」


「んん……? 夜が明けるまでずっとか? 流石に俺と交代しようぜ」


 デルフィがそう言うと、彼は困った様に肩を竦めた。


「いや、今日は遅くまで寝てたから……全く眠くないんだ。見張りは完全に任せてくれて構わない」


「そうかよ……まあ、そう言うならお言葉に甘えて。そういや、お前らはなんで魔国を目指してるんだ?」


 布で短刀を磨きながら、デルフィは何気なく尋ねた。

 外では寒風が吹き荒び、唸り声のような風音が天幕の中に響く。


「人探し、と言ったところだな。君は?」


「俺は……まあ、あてのない旅だ。何気なく旅して、何気なく強くなる。それだけだ」


 イージアには明確な目的があった。生まれた瞬間から今に至るまで、彼は目的を持ち続けてきた。

 強くなる為、災厄を討つ為、何かを守る為、復讐を果たす為。常に辿り着かねばならない場所を見据えていた彼には、あまりデルフィの言葉の意味は分からなかったかもしれない。


「最終的には故郷へ帰るのか?」


「故郷、ねえ……それも分かんないな。俺に故郷と呼べる場所があるのか……ま、運命に流されるのが俺の生き方だ。……話は変わるが、なんでイージアには精霊が見えるんだ?」


 彼は話題を逸らすようにしてイージアに尋ねる。

 いつしか磨いていた短刀は仕舞い、寝袋を出していた。


「生まれた時からそういう体質なんだ。精霊と契約はしていないが」


「へえ……珍しい体質もあるもんだな」


『俺様は精霊が見える人間なんて聞いたことないぜえ? コイツ、人間じゃないんじゃねえか?』


 クオングの問いにデルフィは答えなかった。

 ただただ黙し、就寝の支度を進めていた。


「さて、俺は寝るが……本当に見張りを任せて良いんだな?」


「心配は要らない。魔物は一匹も近づけないから、安心して眠ってくれ」


「そりゃどうも。辛くなったら遠慮せず言ってくれよ。それじゃ、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 灯りが消えたのを確認し、イージアは天幕の外へと出て行った。

 デルフィの傍には、磨いたばかりの短刀。彼はイージアの親切心に感謝しながらも、どこか心の内で懐疑の念が蟠っていた。


(……クオング。俺が寝てる間、警戒を頼む)


『おう、任せろ。アイツらが怪しい素振りを見せたらすぐに目を覚まさせてやる。雷鳴のアラームでな』


 彼は人を信じない。

 疑わなければ、生き残れない環境で育ってきた。これまでも、これからも。彼は猜疑心に苛まれて生き続けることを予感していた。


      ----------


 翌日。

 三人は険しい道を乗り越え、魔国ディアの都市へと辿り着いた。様々な身体を持つ魔族に合わせ、この国では区画が分けられている。人型、犬型、竜型など……あらゆるタイプの魔族が暮らしやすいように設備が整えられているのだ。三人は人型向けの区画に居た。

 中央広場にある獅子の銅像……魔族王の像前で、イージア達はデルフィに別れを告げる。


「一日の間だが、世話になった。息災で」


「ああ、イージアにレア。また会えると良いな。そんじゃ」


 淡泊な別れを交わし、彼は二人の元を去って行く。

 首に巻かれた蛇が、最後までじっと二人のことを見つめていた。


「いやあ、素っ気ないねえ。もう少し別れを惜しんでくれても良いと思うんだけど」


「たった一日の付き合いだろう、仕方ない。とりあえず宿を取ろう」


 二人はデルフィとは反対の方向へ歩み出す。

 この魔国には、多くの闇が混在する。彼らとその闇は今まさに対峙しようとしていた。

 


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