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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
8章 ホーウィドット魔黎戦線
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172. 救いの刃

 蛇竜と化したウェカムへ、ラーヤが『黎触の刃』を振りかざす。聖魔を問わず斬り裂く黒き波動が蛇竜の鱗を貫通。しかし蛇竜は一切怯むことなく咆哮し、彼女に牙を剥いた。

 迫る鋭牙を回避し、斬り返し。


「凄まじい力だな。流石に海神が封印を施すだけのことはある」


 ラーヤに気を取られている邪竜に、イージアは側面から風刃を叩き込む。相手は神族ですらも恐れた邪気を持つ。今のように人の領域の威力で攻撃し続けても大した効果は期待できない。

 折を見て強烈な一撃を叩き込む必要があると彼は考えていたが……


『グオオッ!』


「彗星の構え……ラーヤ!」


 迫る巨体を受け流す。

 同時、一般的に竜種の弱点である首元をラーヤの方に向けさせた。彼女はイージアに呼応し、『黎触の刃』にて斬撃を放つ。


「っこれは……!」


 首元に迫った刃を弾き返したのは、黒の障壁。

 かつてウェカムが扱っていた『黎触の盾』と同じものだ。『刃』と『盾』の黒き波動が衝突し、奔流が走る。拮抗し合った両者の力だが、物理的に質量の小さいラーヤが吹き飛ばされる。



「これは……一体……!?」


 ホーウィドットの天を衝くように、突如出現した蛇竜を目指し走って来た者が居た。彼……リフォル教大司教ケシュアは驚嘆の声を上げ、その場を既に去っているはずの者に歩み寄る。


「それに、レアさんは既に地上へ帰った筈では……」


「大司教殿か。今は説明している時間が惜しい。あの邪竜の討伐に協力してもらいたい」


「ええ……それは構いませんが。あの邪竜が操る力は……いえ、なんでもありません。お力添えいたします」


 ケシュアは邪竜から何とも形容しがたい気味の悪さを感じたものの、今はこの窮状から脱することを試みる。あの蛇竜を放っておけばホーウィドットが崩壊するだけではなく、リフォル教の信徒にも被害が出かねない。


 蛇竜との戦いに向かって行くケシュアを確認し、レアもまた動き出す。


「第一権能……解放」


 彼女が持つ十六段階の力の内、一段階を解放する。

 彼女はもとより、イージアやラーヤ、ケシュアが破れることは危惧していない。最重要視すべきは、このホーウィドットの維持。ホーウィドットは周囲に対物理型の結界を張り海水の侵入を防ぎ、地上の空気構成を転移型の魔法陣により形成している空間である。この結界はフェルンネが張り巡らせたものだろうが、いくら彼女が形成した結界でも崩壊しないという保証は無い。


 『黎触の団』は指揮官を失い、現在混乱状態にある。リフォル教は遠方のエリアに居るため様子は確認できないが、離脱の準備をしているかもしれない。兎にも角にも、レアは如何なる組織の人間であろうとも守り抜く為に、結界の維持を重視しながら戦うことを決めた。




「ラーヤ、あの黒い障壁はどうしたら破れる?」


 戦いの最中、イージアはラーヤに尋ねる。

 一般的な竜種の魔物と蛇竜の肉体の構造は変わらないようだが、問題は攻撃を弾く『黎触の盾』。物理とも魔術とも形容しがたいその力は、同じ力を持つラーヤにしか正体は分からない。


「あれは……普通の攻撃は効かない。私が破るしかないかも……」


 彼女は手元の黒き刃を見つめ、それから蛇竜の障壁を見つめる。

 イージアはラーヤの力を蛇竜にぶつけ、勝利する方法を画策する。同じ『黎触の力』を持つ両者だが、その質量差は圧倒的。彼女の攻撃が弾き返されない為には……


『オオオッ……!』


 蛇竜の尾が迫る。

 再び攻撃を受け流したイージアは、試しに渾身の一撃を放ってみる。


「晴嵐の撃──『飛燕』」


 青き刃が飛燕の如く速く、蛇竜の肉体を裂きに掛かる。

 物理的な防御を無効化する一撃は蛇竜の尾を一部切断したものの、『黎触の盾』には阻まれてしまう。そして、切断された部位も即座に再生される。


 暴れ狂う蛇竜は咆哮を上げ、ラーヤに顔を向ける。

 邪気によって生み出された、闇属性のブレスが放出。大地をも砕く凄まじい威力を誇る闇の奔流が、彼女の身へと襲い掛かった。


「『大地壁(ネアゲイル)』!」


 その時、ラーヤの前に深海の粘土質の土とは異なる、地上の土の壁が作り出される。土壁によってブレスの威力が軽減され、彼女は『黎触の刃』でブレスを斬り裂くことが出来た。

 その土魔術は繊細かつ豪胆。長年の叡智が込められた魔力の質をイージアは感じる。


「大司教……!」


「ラーヤさん、イージアさん。微力ながら助太刀いたします」


 リフォル教大司教、ケシュア・ベオン。立場が立場だけあり、彼の魔術は非常に強力。この場における戦力としては申し分ない。


「感謝する。あの黒い障壁……どうにかラーヤに破らせたい。協力してくれ」


「……承知しました。やはり、あの蛇竜は……」


 ケシュアは既に蛇竜の正体に薄々気が付いているようだった。

 イージアの助言を受けた彼は、ラーヤの攻撃を主軸とした戦闘を考える。

 長い間、戦場にてラーヤと相対してきた彼だからこそ知っている。『黎触の刃』の威力は尋常ではない。あれほどの力を持つ蛇竜の障壁も、運用次第では打ち破れる筈だ。


 黒き刃が再び障壁と衝突する。迸る奔流が地を砕き、ホーウィドットを囲む結界にも衝撃を与える。

 レアは結界を維持しながらも、蛇竜の様子を観察していた。レアが一撃であの魔物を消し飛ばすことも可能だが、そうすれば空間が崩壊し、周囲の人間も巻き込んでしまう。

 様子を観察し続けていると、イージアが彼女の傍へ飛んで来た。


「……レア、何か良い方法は無いか? 君の力では蛇竜は倒せないのか?」


「まさか。十六段階中、三段階程度の力を解放すれば彼を屠ることは出来るが……このホーウィドットごと消し飛ばすことになる。先程から見ていると、ラーヤは決して『黎触』の力で蛇竜に劣ってはいない。ただ、純粋な質量差で押されているね」


「なるほど。つまり身体強化を重ね続けてやれば、力任せに障壁を突破可能……ということか」


 魔力によって純粋に身体を強化することで、人間が強大な竜をも屠る力を得ることが出来る。

 イージアは自分の身体を強化することは得意だが、他者を強化することは得意ではない。魔力の放出よりも、集中の方が慣れている。

 しかし泣き言は言っていられない。蛇竜を討つ手段がラーヤの『刃』しか無いのならば、彼女に強化を施す他ない。


 彼は再び蛇竜と戦うケシュアに接近する。


「ケシュア。ラーヤが障壁を破るには、純粋に彼女を強化するのが手っ取り早いそうだ。私はあまり強化付与は得意ではない……協力してくれ。私が一旦蛇竜を引き受けるので、その間に頼む」


「分かりました。……ラーヤさん! こちらへ!」


 ラーヤは一時、蛇竜との戦線から離脱し、ケシュアと共に後方へ下がる。

 代わりにイージアが前線へと躍り出て、敢えて蛇竜の気を惹くように誘導する。魔物との戦闘経験が豊富な彼は蛇竜の誘導も容易に成功した。


(もはや理性は欠片も残っていないのだな……)


 誘導の最中、彼の脳裏にウェカムの姿がフラッシュバックする。彼との最後の会話では、ラーヤを地上に出してほしいと頼まれたのだ。

 必ず、この戦いが終わったらウェカムの頼みを聞いてやろう──彼はそう決意し、蛇竜に向かって行く。

 攻撃の受け流しは彼の最も得意とする分野。幼少期から鍛え続け、今では物理・魔術共に容易に受け流せるようになっていた。それがたとえ巨大な蛇竜の攻撃であろうとも。


「彗星の構え」


 受け流された尾が地へと叩きつけられ、ホーウィドットを地鳴りが襲う。

 イージアと蛇竜が戦っている最中で、ラーヤは身体強化の魔術を受けていた。


「ラーヤさん……あの竜は……」


「……そう、ウェカム。『海神の涙』の呪いに掛かって……ああなってしまった」


「そう、ですか……」


 これまで手に入れようと『黎触の団』とリフォル教が争っていたにも関わらず、『海神の涙』は呪いの秘宝だった。そんな事実に慄きながらも、ケシュアは彼女に強化を付与し続ける。


「『黎触の団』を抜ける。私は賢者様にそう言った」


「……あなたは未来を選んだのですね。では……あなたの決意の『刃』を以て、ウェカムさんへの餞としましょう」


「うん……私が、ウェカムを救う」


 彼女の身体に力が満ちる。

 これまで過ごしてきた人生の中で、もっとも力に溢れ、もっとも感覚が冴え渡っている。眼前で暴れまわる蛇竜の存在がひどく小さく……そして、哀れにも見えた。


「待ってて、ウェカム。もうすぐ終わるから」


 彼女は『黎触の刃』を構え、蛇竜へと向かって行く。

 それは救いを齎す黒き刃。懊悩の果て、自らの進む道を得た覚悟の剣。



 蛇竜の攻撃によって崩壊した建物の瓦礫を足場にして、イージアは時間を稼いでいた。

 彼はこの間、四度邪竜の牙を折り、七度尾を切断し、六度胴体を両断した。しかしながら、どれほど肉体を破壊しても再生されてしまう。

 この再生現象は魔族や神族の不死性に似ている。つまり、ウェカムは理性こそ崩壊しているものの、魂が未だに残っているということ。悶え苦しむ彼の魂を早く解放させたいという焦燥に駆られながらも、イージアはひたすらに耐え続けた。


 そして、その時は訪れる。


「イージア! 大丈夫!?」


「ああ。強化は十分か?」


「うん、いけると思う。この力なら……!」


「私も力を貸し、補助に回ろう」


 イージアは自身が苦手とする強化付与をラーヤに施し、彼女の後を追って駆ける。

 蛇竜は力任せに身体をくねらせ、尾を薙ぎ払う。しかし大幅に強化されたラーヤにとって尾は止まって見える。『黎触の刃』で尾を断ち切り、進路を作る。

 左方から迫り来る牙をイージアが受け流し、蛇竜の首元を再び彼女の方向へ向けた。


「ラーヤ、今だ!」


「はぁああああっ!」


 黒き『刃』と『盾』が衝突する。

 幾度も黒の奔流が迸ったホーウィドット。これが最後の衝突になるだろう。


『グ、オオッ……』

「く……ああああッ!」


 力の拮抗の果てに、『盾』に罅が入る。

 そのままの勢いで、ラーヤの『刃』が障壁を砕き切る。


 そして──


「ウェカム、ごめんね……」


 『黎触の刃』が蛇竜の首を斬り裂く。

 『黎触』の力を持つ斬撃は不死性をも断ち切り、ウェカムの悶え苦しむ魂すらも解き放つ。

 蛇竜は最後の咆哮をホーウィドット全域に轟かせた後、邪気となって霧散していく。


 跡には、蛇竜の素となったウェカムの肉体すらも残ることはなかった。

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