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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
8章 ホーウィドット魔黎戦線
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167. 黎触の刃

 翌日。イージア達はリフォル教大司教ケシュアの元を訪れ、リフォル教への協力はできないという旨を伝えた。


「……そう、ですか。仕方ありませんね」


「ああ、私たちはこのフロンティアを去ろうと思う。探しものも見つからなかったしな」


 ラウンアクロードの情報を得ることはできなかった。これからイージアの考えている目論見によっては、奴に関する情報を手に入れられるかもしれないが。


「まあ、無関係な方々を争いに巻き込むわけにはいきませんから。ここであなた方に協力を強いるような事をすれば、ただでさえ悪いリフォル教の評判が更に落ちてしまいます」


 そう言いながら苦笑するケシュアに、レアは容赦ない言葉を浴びせる。


「こう言っては悪いが、君たちリフォル教の評判はとっくに地の底へ落ちていると思うよ。地上の大部分ではテロリスト扱いされているからね」


「それは……私の部下達が申し訳ない……」


 彼は目じりを下げ、悲しそうな色を瞳に湛えた。悪逆非道を尽くすイメージが根強いリフォル教の大司教とは思えないほどに、彼は信徒の行為に心を痛めているようだった。

 それから彼は謝罪の意を込めて頭を下げる。


「元々は世界を護り、人を救う為の我らリフォル教。いつしかこうなってしまったことに心を痛めております。私自身も信徒の暴虐を止めてはいるものの……どうしても目の行き届かないところがあります。どうか我らが罪をお許し……いいえ、我らが罪を犯している光景を目にした時は、正当な裁きをお与えください」


 彼の謝罪をイージアは懐疑的に受け止め、レアは真摯に受け止めた。古のリフォル教を知っているか否かで、彼の謝罪に対する感情は大きく異なる。

 しかし、ケシュアの言葉の節々から、イージアは何かしら違和感を感じ取っていた。


「元々は……ということは、君は初期のリフォル教を知っているのか?」


「はい、大司教という立場ですから。私は千年以上も前、リフォル教の創立時より活動しております。もとは人々を救済し、世間からも尊敬の念を抱かれるような組織でしたが……いつからでしょうか。今のように犯罪に手を染め、忌み嫌われるようになったのは」


 リフォル教の創立、と聞いてイージアは教皇である『AT』のことを思い出す。

 リフォル教の教皇が襲名制なのか、或いは選抜制なのか、最初から『AT』がずっと教皇の座に就いているのか……それは分からないが、ケシュアは次第にリフォル教が狂っていったと話した。その歯車の狂いを、最高権力者である教皇が止めようとは思わなかったのだろうか。


「教皇は何をしている?」


「教皇様は……滅多にお出ましにならず、リフォル教の方針にも口をお出しになりません。創立前に私を救ってくださり、創立時にも理想を語り合った仲でしたが……最近はめっきり姿を現さなくなってしまったのです」


「……そうか」


 ATが何を考えているのかは不明である。だがダイリードと出会った際、魔物を村に嗾けていた彼を思い出すに、昔のようなリフォル教はもはや存在し得ないと考えるのが妥当だった。


「ではイージア。そろそろ行こうか」


「ああ……では、失礼する」


「はい、お帰りの際もお気をつけて」


 そしてケシュアに別れを告げた二人は、家から出て歩き出す。

 このホーウィドットから出ると告げたイージアだったが、それは嘘である。彼らが向かう先は、昨夜に調べ上げた、人目の少ない潜伏できそうな拠点。


「さてさて、『黎触の団』の上層部とやらを拝みに行こうじゃないか」


 ウェカムの話によれば、もうじき『黎触の団』の上層部の人間が、結界を解除する為にホーウィドットへやって来るそうだ。もしかしたら、その上層部にラウンアクロードと関連している者が存在するかもしれない。世界の破滅という彼らの目標は、災厄であるラウンアクロードの目的と合致していることから、闇雲に世界を捜しまわるよりは『黎触の団』を調べた方がマシだという結論に二人は至ったのだ。


 深海の底に広がる二組織の戦線と監視の目を避けながら、二人は新しく定めた拠点に向かうのだった。


「……そういえば、昨日の深海魚は意外とおいしかったね」


「いや、すまない。味覚を切っていたので分からない」


「まったく……そうだろうとは思っていたがね。料理を作ってくれた人と、食材に失礼だとは思わないかな? もし君が作った料理をちゃんと食べてもらえなかったら……」


                                      ----------


 ホーウィドット中央、エリア──リインカ。

 この地はリフォル教と『黎触の団』の最前線である。『黎触の盾』ウェカムの指揮により、リフォル教は追い詰められるものの、リフォル教大司教ケシュアの采配により、今度は『黎触の団』が追い詰められる。

 一進一退の攻防。ここホーウィドットではこのような無為なせめぎ合いが長年行われていた。


 戦場に黒き一閃が走る。

 『黎触の刃』ラーヤ。彼女は恐るべき破壊力を誇る刃により、一方的に戦場を蹂躙していた。彼女は敵であるリフォル教にも名を広く知られた存在であり、畏怖の対象でもあった。

 そんな戦場の暴れ馬の前に、一人の男が現れる。


「こんにちは、ラーヤさん。今日もお元気そうで」


「大司教……こんにちは。今日も私の邪魔?」


「ええ、そんなところです。これ以上、無垢な貴方に罪を重ねては欲しくないのですよ」


「罪……」


 目の前に現れたケシュアの言葉を聞き、ラーヤは瞳を曇らせる。昨夜レアから聞かされた、とある言葉がその蟠りをより大きなものとしたのだ。

 しかし、彼女は迷いながらも刃を振るうことを止める事が出来なかった。


「右翼、後退しろ! ラーヤを中心に陣を再展開……いや、敵の指揮官の対処に第三部隊を充てろ! 予定を変更し、鋒矢の陣にて攻める!」


 ウェカムの指令が木霊する。

 彼はラーヤの調子がいつもと違う事に気が付いていた。いつもならば大司教ケシュアと互角に渡り合う彼女が、押されていたのだ。

 予めの戦陣を変更し、団員を彼女の補助に回らせる。

 『黎触の盾』ウェカム、大司教ケシュア。彼らが共に重視するのは戦死者を可能な限り出さないということ。結界が解除されるまでいつまでも睨み合い、こうして戦端を開く事に嫌気が差している信徒・団員は少なくなく、指揮官である彼らもまたその内の一人であった。故に、このようなくだらない戦いで死者を出さない……それを分かり合った上で、両組織は戦っている。


 しかしながら、ラーヤのような強力な力の使い手が居る以上、少なからず犠牲者は出てしまう訳で。彼女自身も、自分が命を奪うことに罪悪感を感じつつあった。その罪過を彼女に背負わせない為にも、幼馴染であるウェカムは慎重に作戦を立てていた。




「……ここが潮時ですか。皆さん、撤退を始めて下さい!」


 ケシュアの号令により、リフォル教の信徒が戦線より撤退を始める。彼らは東側のエリア──ダーコへと帰還。

 それが終戦の合図だった。同時に『黎触の団』も撤退を始め、西側のエリア──デスペアへ帰還。


 『黎触の団』が拠点としたこの地にリフォル教が侵入してきた当初は、それこそ地上の大戦をも凌駕する激しさだったが、次第に戦線の規模は縮小していった。

 ラーヤはそんな小さな規模の戦場でも生まれてしまった死者の血を踏み締めながら、ウェカムと並んで帰路を歩いていた。


「……ラーヤ。今日のお前の刃は……何というか、鈍っていたな」


「うーん。作戦に支障が出た?」


「まあ、多少はな。問題になるレベルじゃないが。何か悩みでも……っと、すまん。部下から呼び出しがあった。今日も夕飯持ってくからな」


「うん……」


 彼女は上の空で返事をして、己の刃にそっと触れた。


                                      ーーーーーーーーーー


 その戦争を気配を殺して見ていたイージアは、一つの疑問をレアにぶつける。


「あれが『黎触の刃』か……どのような力だ?」


 ラーヤが刃に宿した黒き波動。アレからは秩序の力を感じた。秩序の力と言っても、それは災厄級ではなく、神にかすり傷を負わせる程度の領域まで格を落とし込んでいるようだが。あまりに大きな力を得ると、人間の身体では耐えきれない事が原因だろう。

 『黎触の団』は第三災厄、【黎触の試練】に関連していると言われるが、その正体は掴めない。


「あれは……そうだね。まずは【黎触の試練】について話した方が良いだろう」


 それから始祖レイアカーツは、己が召喚した三つ目の災厄について語り始めた。



「遥か昔のことだ。まだ世界(アテルトキア)の人々が鉄剣を振り回し、そこらのフロンティアにも怯えるような弱者だった頃。拳大の大きさの球体が一つ、神域の上空に現れた。その小さな球体こそが【黎触の試練】と呼ばれる災厄だ」


 災厄の強さは大きさに寄らない。無論、物理法則の範疇であれば質量は強さになり得る。しかし、人間以上の領域……神族以上の存在の戦いになれば、質量もあまり関係はなくなる。

 神族でれば神気を、魔族であれば邪気を操って戦う。また、災厄や創世主・壊世主の領域になれば意志力を力へと変え、蟻のような大きさでも星を砕く事もあり得る。


「で、その球体が黒い水のようなものを世界に垂れ流し始めた。水に触れた生物には二種類の症状が現れた。正気を失い狂奔する者と、精神を狂わせることなく力を得た者。後者は全人口のほんの一部であったが、正気を保った者達はあの球体が強者を選別する神だと錯覚したようで……」


「その球体の信者たちが『黎触の団』を作ったという訳か」


「ご明察。そして、ラーヤはその彼らの力を受け継いでいると思われる。黒い水に蝕まれた人々の子供に力が遺伝することは稀だと聞くが、力を血筋で継承できた者が『黎触の団』の幹部となっているのだろうね。おそらく『黎触の盾』であるウェカムも力を継承していることだろう」


 混沌・秩序の因果は通常は受け継がれない。受け継ぐには、イージアの魂にアテルが混沌の魂を組み込んだように、それ相応の処置が必要となる。

 ラーヤ・ウェカムがどのようにして生まれたのかは知る由もないが……特殊な環境が彼らを育んだことには違いない。


「まあ、【黎触の試練】を如何にして世界が乗り越えたのかは置いておいて……『黎触の団』があの力を操っているのは警戒しておくべきだね。幸いにも、『黎触の刃』の威力は人の領域まで落ちているみたいだから、彼女の力は新たな魔術属性だとでも思ってくれれば良い」


「了解した。では、戻ろうか」


 戦線にて各組織の戦力・規模を確認した二人は、人目を忍んで拠点の隠れ家へと戻って行くのだった。

 この後、彼らが大きな騒乱に巻き込まれていくことになるとは知る由もなかった。

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