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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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162. かくしてめぐり逢い

 始祖の宮殿へと入り、気配を探る。

 虫の音一つ聞こえぬ静謐なる宮殿。そこに佇む一つの気配。己と相反する因果を持つ者。


「……」


 以前始祖と面会した二階ではない。気配は一階の突き当り……角を右に曲がった先にある。

 イージアは迷わずその先へと進み、扉を開け放つ。


「……やれやれ、もう来てしまったか。招かれざる客よ」


 あからさまに不機嫌な始祖レイアカーツが、魔法陣を作って膝をついていた。

 イージアにはその魔法陣が何か分からなかったが、危険なものであるということは分かる。


「この魔法陣は?」


「侵入者を撃退する為のものだとも。発動すれば侵入者の根源すらも消し去り、二度とこの世へ戻ることはできなくなる。……残念なことに、完成する手前で君が来てしまった訳だがね」


 彼は部屋へ一歩踏み出した。

 刹那、


「……誰が動いて良いと言った? 次に動けば首を撥ね飛ばすぞ」


 イージアの眼前、レイアカーツは強烈な殺気を纏わせて刃を彼の喉元に突きつけた。

 あまりの速度に、彼が反応することは不可能だった。


「随分と強硬な態度だな。もう少し、始祖は柔和な人物だと思っていたが」


「君が私の何を知っている? 招かれざる客を饗すとでも思ったのか?」


 招かれざる客、という言葉にイージアは違和感を抱く。


「宮殿へと続く扉を開いてくれたのは君ではないのか?」


「……ふむ、君は大扉を通って我が宮殿へと至ったのか? あの扉は私以外に開くことはできないが、君に開いた覚えはない。術式の故障か……?」


 彼女はしばし考え込んだ後、口を開いた。


「強引に永き眠りから起こされて些か機嫌が悪いが……良いだろう。君の話を聞こうじゃないか。何か用があってここへ来たのだろう……こちらだ」


 レイアカーツに続き、彼は部屋を後にする。

 光なき宮殿の中、回廊を二人は沈黙して進んで行った。


                                      ----------


「……さて、いつになったら君は名乗るのか。親御さんから相手が名乗る前に、自分が名乗れと教わらなかったのかな?」


 最初に始祖と出会った部屋へ通され、イージアは席に座らされる。

 始祖は傍の流し場で茶を注いでいた。どうやら使用人は居ないようだ。以前始祖の使用人であったルチカはまだこの時代に生まれていなかったはず。


「イージアだ。今は故あって、世界を旅している」


 始祖は二人分の紅茶とお菓子を用意して、彼の向かい側に座った。

 それから、彼の頭の先からテーブルに隠れている腰のあたりまでを見る。


「言わずと知れた者であることは自覚しているが、一応名乗っておこう。私はリンヴァルス帝国始祖、レイアカーツ。イージア……君は帝国の関係者か?」


「いや、旅人だ。城へは侵入して入った」


「…………」


 彼女は呆れたように息をつき、紅茶に口をつけた。


「では、私と会わなければならない理由があると……そういうことだね?」


「ああ、短刀直入に言おう。災厄についての話がしたい」


 災厄。その言葉が彼の口から出た途端、始祖の表情が険しくなった。


「……どこまで知っている」


「君が『災厄の御子』であるということ。今現在、第十一災厄まで召喚されているということ。そして、第十四災厄……ラウンアクロードがこの世界に来ていること」


「たしかに……なぜか第十四の災厄がこの世界に降臨していることになっている。私も今さっき目覚めて気付いたのだけどね。本来、彼の災厄は二百五十年後に降臨することになっているのだが」


 やはり、この世界に奴は居る。それを確信した途端、イージアが自分でも驚くほど、己の心の中で讐火が燃え上がっている事に気が付いた。


「場所は……分かるか?」


「いいや……残念ながら、分からない。災厄が世界(アテルトキア)に降臨していることが分かっても、居場所までは分からないのだよ」


「このままではこの世界が滅ぶことになる……! 今すぐに奴を見つけ出し、殺さなければならない。何か方法は無いのか?」


「その前に、私からの質問に答えてもらおう。……イージア、君は何者だ。何故そこまで知っている」


 始祖の視線が彼を貫く。

 その眼差しからは、欺瞞を許さぬ圧が感じられた。


「すまない。多くを語ることはできないが……私はラウンアクロードを追っている。私からも、一つ質問をしても良いだろうか」


 始祖は無言で質問を促した。


「『災厄の御子』とは、一世紀に一人、出現する筈の存在だ。壊世主から無作為に選ばれ、災厄を降臨させる権利を持つ者。混沌の因果を持つ者に殺されれば、その世紀中は災厄の降臨を防ぐことができる。その為に創世主は『災厄の御子』を見つけ次第、殺すようにしている。……だが、君は第一から第十六の全ての災厄を降臨させる権利を持っていると聞く。なぜだ?」


「たしかに、私は第一から第十六までの災厄の召喚権を持っている。これまでに喚んだ災厄は第十一災厄まで……それらは神々の手によって倒されたよ。そして、君の言う通りなぜか第十四災厄も、現在世界に降臨している。君が私に身の上を多くを語らない以上、私も君に多くは語らないが……『奪った』んだよ。歴代の災厄の御子から召喚権をね」


 災厄の召喚権を、『奪う』。

 そんなことが本当に可能なのか……イージアは訝しんだが、少なくとも今の彼にとってはその疑念は二の次とするべき話題だった。


「そうか、その回答で十分だ。……では、ラウンアクロードを見つける手段について聞きたい」


 始祖は目を瞑り、ティーカップをソーサーに置いた。

 カチャリ、と音が鳴ってしばしの静寂が流れる。


「……ない」


「……何?」


「これまで、潜伏するような災厄の前例はなかった。故に、私も潜伏する災厄に対する答えを持たない。創世主や神々でも見つけられないのなら、私にも見つけられない。地道に探していくしか方法はないだろうね」


 イージアは立ち上がった。

 ラウンアクロードが受けた傷を完治させるには、何十・何百年という時間を要する。長いように感じられるが、世界中から特定の存在を見つけ出すには心許ない時間である。

 始祖でさえも何ら解決策を持たないのならば、今すぐに旅に発って奴を見つけに行かなければならない。


「……邪魔をしたな。情報ありがとう。これにて失礼する」


「待ちたまえ」


 急ぎ出て行こうとする彼を呼び止める始祖。

 焦燥に駆られる彼は、苛立たし気に振り向いた。


「用件があるなら、早く言ってくれ」


「やれやれ……本当に不躾な男だ。まあ良い、君が変人なのは服装で分かっている。これから第十四災厄を探しに行くのかい?」


「そうだ。奴の傷が治る前に見つけなければならない。急いでいるんだ」


「なるほど。まあ、私も災厄に世界を滅ぼされるのは困るからね……。それに、目覚めたばかりで身体を動かしたい気分だ。私も物見遊山でついて行こうかな」


 遊び気分でついて来ようという彼女の態度が鼻についたイージアだったが、それが本心ではないことを彼は知っていた。世界を護りたい……その心の照れ隠しであることを知っていた。


「リンヴァルスから始祖が消えても良いのか?」


「私は政治には関わっていないし、数百年間隔で眠ってばかりだから、国には殆ど影響はないさ。それに君が旅を急ぐと言うのなら、勧めたい魔道具がいくつかある。私も君の旅の助けとなることを約束しよう」


 復讐を果たす為ならば、仇を早急に見つける為ならば、彼は手段など選べる立場ではなかった。

 始祖レイアカーツを利用してでも、奴を殺す。


 そんな決意の下、彼は始祖の同行を許可したのだった。

7章完結です

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