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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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159. ナカマモドキ

 氷竜を討伐した三人は、キャンプ地へと戻る。

 既にアリス達は天幕を三つ張り終えていた。イージアはウジンと共用の天幕に入り、依頼の終了を報告した。彼はウジンから暖かい飲み物を受け取り、ほっと一息つく。


「相変わらず当然のように竜を倒すんだな、お前さんは。この時代の人間とは思えん……」


 ウジンがぼそぼそと何かを呟いていたが、イージアは気にせずローブに付いた雪を払っていた。完全防水なのは知っているが、それでも綺麗にしておかないと落ち着かない。

 周囲は既に暗闇が支配し、間もなく夕刻になろうかという時刻。雪は未だ降り頻り、影に染められた灰色が天幕の外に広がっていた。


「……」


 イージアはただ黙々と魔剣を磨いていた。

 ウジンは彼の話したがらない性格を理解しており、無理に話しかけることはない。沈黙しつつ地図を眺めて、今後の日程を考えていた。


「……あとは北に行って、ワルド王国を超えればリンヴァルスだ。もうすぐ旅も終わり……か」


 およそ三月程度の短い旅だったが、ウジンはどこか惜別の念を抱いていた。

 リンヴァルスに到着すれば、少なくともイージアとは別れることになる。それに続いて、サーラライトの二人や、『天の撃砕者』の二人とも別れることになるかもしれない。

 当初ウジンは生活を安定させる場所を見つける為にイージアの旅について行ったが、いつしか旅を楽しむようになっていた。


「なあイージア。お前さんは『人探し』の為にリンヴァルスを目指してるとか言ってたな。もしもリンヴァルスで『人探し』の手掛かりが見つからなかったら、どうするんだ? 旅を続けるのか?」


「分からない。もし旅を続けるとしても、一人で……急ぎ足の旅になるだろう」


 ウジンは常に、彼から周囲と隔絶されたいという意思を感じていた。しかし、幸か不幸か、彼の性格が起因して多くの人がついて行くことになった。ウジンもまた、彼からどこか惹かれるものを感じ、旅路を追うことにしたのだ。

 だが、当の本人は周囲との関わりを拒絶しているようにも見える。表面上の態度と、性格の根本が釣り合っていない。それ故に、イージアは自分自身もどうしたら良いのか分からなくなっている……ウジンは虚神として過ごしてきた長年の経験から、そう推察した。


「そうかい。……そろそろ飯食って寝るか」


 彼は鞄から携帯食料を取り出し、皿に盛りつける。普段の野営ではリグスやイージア、サーラたちが料理をするが……外は雪風が吹いているので、今日は各々の天幕で食事を取ることにした。

 缶詰やパックから食べ物を取り出し、ウジンは黙々とそれを食べ始めた。


「……少し外へ出てくる」


 しかし、イージアは食事も行うことなく外へ出て行こうとした。辺りは暗く、冷たく肌を刺すような雪風が激しい。到底外へ出るような状況ではないが、彼は躊躇うことなく立ち上がる。


「また寝ないのかい?」


 彼は食事を多く取ることも、寝ることもなかった。少なくともウジンは彼が寝ている姿を見たことがない。食事の際も、まるで喉に通らないように気まずそうにしていた。

 人間の身体に必要な機能を放棄しているかのような人間。それがイージアだった。


「ああ……見張りをしておくよ」


 それだけ告げ、彼は雪が降り注ぐ天幕の外へ出て行った。


「……この干し肉、美味くねえな」


 一人、天幕の中でウジンは呟いた。


                                      ----------


 夜中になり吹雪はますます強くなっていった。

 イージアの周囲にある天幕は防雪の魔術が施されている為、中は暖かいままだ。今は三つの天幕全てから灯りも消え、皆が寝ていることが分かる。

 彼は魔物が寄り付かないように周囲を歩き回り、見張りをしていた。一応結界は張ってあるが強力な魔物は破って来ることもある。


『また寝ないのかい?』


 最後にウジンと交わした言葉を思い出す。やはり、自分はおかしな人間だと思われているのだろう……そう彼は考えた。だが彼らとの旅は間も無く終わる。どれだけ変人に思われたとしても、これきり会うことはないと考え、彼は納得する。


 吹雪が絶えず彼の周囲で弾かれる。レーシャのローブの耐性によるものだ。

 暖かい。この温もりを感じる度に、彼は心を取り戻した。


「……!」


 気配。

 何かが動く気配が吹雪の中に紛れている。

 彼は剣を抜き、静かに気配の方向へ歩み寄った。


「……アリス?」


 吹雪の中に、厚着をして灯りを持った女性が立っていた。ニット帽とフェイスウォーマーを着ているので顔がよく見えなかったが、佇まいからアリスだと分かった。


「イージアさん。やっぱり今日も外に居たんですね……寒くないのですか?」


 彼女はイージアを見つけ、駆け寄って来る。


「このローブのおかげで寒くはない。君の方こそ大丈夫なのか?」


「はい……大丈夫です。……ちょっと寒い、ですけど……」


「どうしてこんな夜中に外へ?」


「それは私の台詞ですよ。どうしてあなたは毎日寝ないのですか?」


 アリスは怒っているのだと、彼は感じた。もしもイージアが彼女の立場であったら、旅の同行者が毎晩外へ出ていたら心配になるだろう。きっと彼女もそういった理由で怒っている。

 質問を質問で返され、言葉に詰まるイージア。

 すぐに頭に思い浮かんだ言葉を彼は紡ぎ出す。


「それは……見張りの為だ」


「見張りなら交代ですれば良いと思います。一人だけが負担を背負うことはないではありませんか」


「いや、大丈夫だ。明日も早いし、君は戻って寝ると良い」


 彼は返事に窮し、波風を立てないようにアリスを諭す。しかし、彼女の足は雪に埋もれたまま動く事はなかった。


「何が、大丈夫なんですか? 寝れない理由があるのなら、ちゃんと説明してくれないと……」


「私には私の事情がある。説明は要らない」


「要らなくないです!」


 彼には理解できなかった。

 何がアリスをそこまで駆り立てるのか。何故自分のような人間に構おうとするのか。

 周囲を拒絶している……拒絶してしまうことは自分でも分かっていた。だからこそ、旅の同行者が増えていくことが理解できない。こうしてアリスが慮ってくれることも理解できない。


「私たちは他人じゃないか。お互いの事をよく知らない。もうすぐ旅も終わる以上、知る必要もない。私が寝ない理由を話す必要はないし、寝ないという事実に基づいて見張りを任せてくれるだけでいいんだ」


「他人、じゃないですよ……仲間じゃないですか……」


 ──仲間。

 重い言葉だ。互いに支え合い、笑い合う者同士。アリスはイージアをそう捉えていた。

 彼女にとって、リグスはもちろん仲間だ。そして、彼女たちと積極的に笑い合おうとするウジンも仲間かもしれない。ゼロとサーラも、彼らが望む以上は仲間かもしれない。

 だが、イージアは笑いもしなければ、関わり合いになろうともしない。そんな彼を、どうしてアリスは仲間だと思うのか。

 彼女の心を知ることは出来ない。何らかの理由があって、或いは彼女独自の価値観があって、イージアは仲間だと思われているのかもしれない。

 しかし、



 少なくとも、イージアにとっては。


「……私達は、仲間じゃない」


「……!」


「仲間というのはね、お互いが信頼し合ってこそ仲間と呼べるんだ。私は君達を信頼していないから、仲間じゃない。あくまで旅の同行者に過ぎない。だから、これ以上は……これ以上、私に優しくするのはやめてくれ……」


 茫漠としてつかみどころのない辛苦が彼のココロに広がった。

 朧朧として見通せぬ虚飾が彼女の眼に映った。


「嘘です……嘘を、ついています。私が読んでいるあなたの心は、」


「嘘じゃない。……もう、終わりだ。リンヴァルスに着けば、全て終わりになる。二度と会うことはないだろう。私達は、他人なんだ。……おやすみ」


 彼はそう吐き捨て、吹雪の中に身を隠して行った。

 アリスは足を動かし、彼の後を追おうとしたが、何故か前へ進むことを身体が許さなかった。


 

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