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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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158. 雪原野宿

 ディオネ神聖王国、首都。

 しんしんと雪が降り積もる地へと一行は訪れた。


「すげー! サーラ、雪だ! つめてえ!」

「リグス、寒いです……。でも雪って綺麗ですね……」


 イージアとウジン以外は初めて雪を見る。街中ではしゃぐゼロの手綱をサーラが握り、凍えるアリスにリグスが上着を着せる。

 そんな彼らに、ウジンは子供を見守るような視線を向けていた。


「賑やかだねえ……そんじゃイージア。宿を取って来てくれるか? おっちゃんはコイツら見とくからよ」


「分かった。またここに戻って来る」


 彼は皆と別れ、ディオネの街を歩き出す。

 大きな造りは二百五十年後と変わっていない。灰色の空と、肌を刺すような寒さ。見上げんばかりの大きさの正門を潜れば、王城へと真っ直ぐ伸びる大通りに、数々の店が軒を連ねている。

 彼の記憶によれば、四番目の交差点を左に曲がった地点にホテルがあった筈だ。この時代にもそこに宿があるのではないかと訪れてみると、予想通り見つかった。

 中へ入り、受付に尋ねる。


「部屋は空いているだろうか。これくらいの人数で……」


「うーん、すいません。二部屋しか空きがなくてね。ちょっと厳しいですわ」


 どうやらこの宿にはイージア達が泊まれる程の空きはないようだ。イージアは野宿可能だとしても、最低で三部屋は必要となる。やはり大都会だけあって混雑しているようだ。

 彼は諦めて別の宿を探すことにした。


    



「おうイージア、遅かったな」


 皆が待っている場所へ戻ったイージア。

 彼のロープのフード部分には雪が積もっていた。ゼロがそれを掬い上げ、雪玉を作って遊び始める。


「すまない、宿は見つからなかった。どこも満室みたいだ」


「げ、マジかよ……野宿コースか?」


「えっ……この寒さの中で野宿は無理があるだろ……せめてアリス様の部屋だけでも見つけてくれよ」


 リグスが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 しかし、ウジンは得意気に語った。


「こんな雪国じゃな、寒さの中でも野宿できる道具が普及してるんだよ。雪の中でのキャンプも悪くないってもんだぜ?」


「たしかに、面白そうです……! リグス、私は宿なんて要らないので、キャンプがしたいです!」

「アタシもー! みんなでお泊り会しようよ!」


 アリスに続いて、サーラも野宿という意見に賛成する。リグスはアリス様がそう仰るのなら、と答え、一行の意見は一つに纏まった。

 そこでイージアが一つの提案をする。


「よし。では、魔物の討伐依頼も兼ねて。フロンティアで野宿しよう」


「「「「……え?」」」」

「おー、いいな! そうしよう!」


 そんな彼の意見に、ゼロを除く四人が疑問の声を漏らしたのだった。


                                      ----------



 イージアが受けたのは銀雪狼と氷竜の討伐依頼。

 基本は銀雪狼を倒しながら、縄張りを張っている氷竜を見つけ次第倒すという方針だ。厳密に言えば氷竜は竜種であり魔物ではないのだが、傭兵の魔物討伐依頼に含まれる。もちろん、竜種を討伐可能な人材はほんの一握りで、騎士が倒す場合が殆どだが、稀に傭兵に討伐の仕事が回ってくることもある。

 偶然氷竜の討伐依頼を見つけたイージアは、興味本位で受けてみることにした。


 街で野営の準備を終えた彼らは、雪が積もるフロンティアを歩いていた。


「はあ……なんで竜種の討伐なんか持ってくるんだよ……頭おかしいのか、この仮面男は」


「いや、君が嫌なら氷竜は私が倒そう。もともと私が気紛れで受けた依頼だからな」


「いーや、竜は俺が倒す! 竜殺しってヤツに俺はなる!」


 息巻くゼロは先へ先へと進み、サーラも彼を追って駆け出していく。


「おい、お前ら! あんまり先行くなよ! ……クソ、言う事聞かねえな……」


 ウジンはそんな彼らを追いかけ、雪に足を取られながら走って行った。


「……なんだか、賑やかになりましたね」


 アリスが感慨深そうに呟く。

 いつの間にかイージアの旅には多くの者がついて来ていた。こうして傭兵の依頼を多めに受けなければならないのも、彼らの旅費が必要だからだ。旅の日程が予定よりも遅れているのも、人数が増えたからだろう。

 一人旅ならば既にリンヴァルスに着いているのだろうか、と彼は考えた。しかし、不思議と彼らと旅を共にすることになった今を後悔していないのもまた事実だった。


「……おーい、銀雪狼の群れが出たぞー!」


 林の奥からウジンの声が聞こえ、三人は駆け出した。

 雪に足を取られ、動きを阻害されるアリスとリグスを風魔術の補助で運び、イージアは開けた場所へ辿り着く。


「うおぉーッ! 神速斬ッ!」

「どーん! 水蛇(メリアメイシュ)!」


 ゼロが無茶苦茶ながらも強烈な剣閃を放ち、サーラが巻き上がるような広範囲の水魔術を行使する。その傍らで、ウジンは堅実な剣技で確実に銀雪狼の数を減らしていた。

 普通の魔物との戦闘に関しては、魔族の二人が居る限り問題なさそうだ。イージアも加勢し、続いてアリスとリグスも魔術で援護する。


 一行を囲んだ銀雪狼の群れは、ほどなくして壊滅。既定の討伐数を叩き出し、一つ目の依頼の終了を告げる。まだまだ銀雪狼は湧いてくるだろうが、とりあえずのノルマは達成だ。


「ふう……戦闘は安定してるな。おっちゃん要らないかもなあ……」


「いや、今の戦闘ではウジンが優秀な盾の役割を果たしていた。その補助がなければもう少し殲滅に時間がかかっていたはずだ」


「……お? やっぱ分かっちゃう? こう見えて、おっちゃん頑張ってるんだよねえ」


 イージアにはウジンの戦闘スタイルがどこか奇妙なようにも思えたが、熟達した戦闘経験が彼にあるという事は間違いなかった。奇妙というのは、どこかウジンが身体を動かすのに慣れていないように感じたということだ。まるで神族や魔族が器を作り替えたかのように。

 前々から気になってはいたが、イージアがそれについて言及することはなかった。


「さて……ちょうど広い場所だし、ここでキャンプを張るのもいいかもな。どう思う、仮面男?」


「ああ、良いと思う。それでは準備をしていてくれ。私は氷竜を倒しに行く」


「お! 俺も行くぜ! みんな、キャンプの用意頼んだぜ!」

「アタシも行くよー」


 こうしてイージアとゼロ、サーラは氷竜の討伐へ向かい、ウジン、アリス、リグスはキャンプの準備をすることになった。


「さて、それでは始めましょうか」

「はっ。まずアリス様の天幕から用意しましょう……寒っ……」


                                      ----------


「なあイージア、氷竜ってどれぐらい強いんだ? 俺でも倒せるか?」


「まあ、倒せないことはないだろうが……何回も死ぬ羽目になるだろうな」


「げっ。死ぬのって痛いから嫌なんだよなあ……」


 イージア達は氷竜を探して雪原を歩き回っていた。

 なだらかで真っ白な雪がどこまでも広がっている。木々の合間からは時折鹿や狼が顔を覗かせる。


「でもさ、魔族の中には死ぬのが気持ちいいって人もいるらしいよ。アタシもちょっとその感覚分かるけど」


「いやいや、そんなワケないだろ。サーラは変なヤツだなあ……」


 イージアもサーラの気持ちが分からない訳でもない。絶命する瞬間には異様な幸福感に包まれることがある。ただし、その快楽を求めるような魔族は大抵犯罪を起こして、魔国ディアの刑務所に収容されることになるが。


「……ところで話題は変わるけどさ、氷竜にその魔剣……りげいる? って効くの?」


 サーラはイージアの魔剣を見て尋ねた。

 たしかに、氷の魔剣は氷竜に有効ではないだろう。しかし、彼は魔剣を純粋な刃物として扱い、氷竜を討つつもりだった。或いは、二人に悟られないように四属性を付与して短期決戦を狙うか。勿論、周囲に誰も居ない状況ならば炎魔術を使っていたが。

 

「元から氷属性に頼るつもりはない。刃による物理攻撃のみで倒そうと思っている」


「魔剣っていいなー。それ、要らなくなったらアタシにちょうだい」


「ああ……」


 この魔剣が要らなくなる時期とはいつだろう、とイージアは考えつつも生返事を返しておく。


「ずるいぞ! 俺にもくれ! ……っと、なんかでっかい気が近づいてないか?」


 その時、ゼロが空気の変化に気が付いた。気温は急激に下がり、辺りには霜が降りている。


「気が付いたか。氷竜が近い……ほら、あそこだ」


 イージアは木々の隙間を指さし、そこに蠢く生命を二人に見せる。

 家のように大きな竜が、翼を畳んで座っていた。白銀の鱗に、空色の翼と爪牙。この雪原を統べる絶対王者が君臨していた。


「か、かっけえ……突っ込んで行ってもいいか?」


「よし、私が補助に回ろう。戦ってみるといい」


 許可を得たゼロは、真っ先に氷竜へと突撃していく。

 サーラは彼を不安そうに見つめていた。


「ねえ、大丈夫なの?」


「いや、大丈夫じゃない。おそらく最初の一撃で……」


 ゼロが鋭く剣を振るう。

 粗削りながらも鍛え抜かれた一閃が、氷竜の鱗に叩きつけられた。


「……ヤベえ! 剣が折れた!」


 しかし、ゼロの鉄剣は呆気なく鱗に弾かれ、折られてしまう。

 襲撃に気が付いた氷竜は、天地が鳴動せんばかりの咆哮を上げた。そして、獲物を前にするような瞳でゼロを捉える。


「ゴオオオオオッ!」


 竜種は見た目に反して動きが俊敏だ。ゼロを視認した刹那、爪牙が彼に襲い掛かった。

 彼は回避を試みるが、失敗。身体が斬り裂かれ、絶命。邪気となって霧散する。

 数秒後、再び邪気が密集しゼロの身体を形成した。これが魔族の不死性である。


「いってえええ! クソ、無理だ! 二人とも助けてくれー!」


 彼は早々に『竜殺し』の称号を諦め、イージアとサーラに助けを求める。

 サーラは呆れたように飛び出し、水魔術で霧を作り氷竜を攪乱。その隙にイージアはゼロを担ぎ出し、後方へと移動させた。


 霧が晴れる。氷竜は眼前に立つイージアに意識を向け、尾を薙ぎ払う。


「彗星の構え」


 圧倒的な質量を持つ尾を受け流し、カウンターで斬撃を放つ。彼は竜種の弱点を的確に捉え、尾を切断。悶える氷竜の後方に回り込み、追撃。


「彗星の撃──『覇王閃』」


 二人に気付かれないように、四属性を纏めて剣に付与するイージア。そして、竜の首元に魔力を込めた渾身の一撃を叩き込んだ。


「グ、ゴオオオッ……」


 ほどなくして、氷竜は絶命した。イージアが短期決戦を目指した結果、この戦闘は数手で終わることとなった。


「は、はやっ……! いくら俺が助けを求めたからって、速く終わらせすぎじゃないか? もうちょっと戦わせてくれても良かったのに」


「……竜は魔物と違って感情がある、一つの生命だ。長い間痛めつけるのは良くない」


 竜は人と同じく、フロンティアであろうと人里であろうと行き来が可能な生物だ。周辺の人里に被害が出るから討伐したとはいえ、過剰に痛めつけるのは彼の倫理に反する。


「そっか、たしかにそうだな。まあ、良い経験になったぜ! 俺じゃまだ竜は倒せないから、もっと強くならないとな! んじゃ、キャンプに帰ろうか」


 次第に成長していくゼロの姿を、サーラは微笑ましそうに眺めていた。

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