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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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152. 鴉の狡猾

 高層建築が立ち並ぶ上層地区にイージアたちは入り込み、中央に聳え立つ一際高い塔を目指す。周囲は警備の兵が大勢屯しており、『怒戦派』との抗争の激しさを物語っている。


「さて、あの塔にどうやって入り込んだものか」


「そんなの正面突破で良いよ! 行こう!」


「それは愚策だろう。私たちの侵入が向こうにバレることで、ゼロの命に危険が迫る可能性もある」


「むう……じゃあどうするのさ」


 『狂儲派』の首領の本拠地ということもあり、警備に穴はなさそうだ。いくら戦闘慣れした三人といえども、数による力押しは辛いものがある。

 攻めあぐねるイージアとサーラに、鴉が一つの提案を申し出た。


「……一応、グラジオサードの方からこの拠点の詳細はある程度仕入れてあるけどねえ……内部に入り込む方法がないワケじゃない」


「カラス、教えて!」


 彼は懐から塔の大まかな見取り図を取り出し、北東の区画を指し示した。


「お嬢さんが汚れた所が嫌じゃないってんなら、こっから行くのが良さげだ。下水道……まあ、一応ここにも警備は居るんだろうが、『怒戦派』の斥候が命がけで調べたところによると、ここが一番安全かつ効率が良い。カラスさんもこの塔に潜入するシミュレーションをしてたからねえ、ここの構造はそれなりに把握している」


「よし、そっから行こう。カラス、案内して!」


 イージアは鴉が良からぬ事を企んでいることを警戒しながらも、彼に追従していった。彼が『狂儲派』の本拠地に潜入するリスクと、高額の依頼を破棄する損失……どちらを取るかと言えば、後者を取るとイージアは考えていた。しかし、彼はこうして危険を冒してゼロの救出に協力している。

 彼が何を目的とし、リスクを冒してまでサーラに協力するのか……その目的が分からないのだった。鴉が『狂儲派』の一派であり、これが罠であることも考慮しつつ、黙って進んで行く。


                                      ーーーーーーーーーー


 数名の警備を気絶させつつ、三人は下水道を出る。鴉の説明通り、塔の地下牢に出たようだ。

 手分けしてゼロが地下牢に囚われていないかを確認するも、彼の姿は地下牢にはなかった。


「ゼロ……どこ……」


「まあ、心配すんな。一つ一つ部屋を調べていけばいいさあ。イージア、気配の探知は頼むぜ」


「ああ……前方、通路を曲がった直後に人の気配が二つだ」


「了解」


 イージアの気配察知と、鴉の暗殺術。巧みに連携を取りながら、三人は部屋を調べていく。大規模なサーラの魔術はあまり使えなかったが、特に問題無くゼロの捜索は捗っていた。

 しかし肝心のゼロは見つかることなく、最上階に近づいて行った。


「……誘われているな」


「そうだねえ。もう下の連中には俺らの存在は感知されている頃合いだ。だってのに、警報の一つも鳴りやしない……上へ来いってことなのかね? 警備の数も異様に少ないしな」


「じゃあ行ってやろうじゃん! 首領のヤツにゼロを返せって直接言ってやるんだ!」


「いやいや、お嬢さん……見えてる罠に突っ込むのは、ねえ……」


 ここまで来て引き返すという手は、この場に居る誰もが採りたくない案だった。


「とりあえず、他の部屋を全て調べよう。ゼロを見つけ次第、速やかに脱出する」



                                      ----------


 結局、残ったのは『怒れる赤鳥』が座すると思われる最上階の部屋のみだった。

 三人はその部屋の前の柱に身を潜めながら、話し合う。


「あの部屋の内部……人の気配がかなりある。行くしかない、か?」


「……提案がある。イージア、アンタは潜伏してろ。お嬢さんと俺で正面から突入して、何かあればアンタが全てカバーする……投げやりな策だが、これが最善だろう」


 鴉の提案に、しばしイージアは考え込む。たしかに、この中で最も小回りの利く動きが取れるのはイージアだ。しかし、一つだけ彼には懸念があった。


「それは構わないのだが……いや、良いだろう。提案に乗った。私が可能な限りは何とかカバーしよう。最優先はゼロの奪還で」


「あいよ。二人に先に言っておくが……こっから先、何があっても(、、、、、、)俺を信じろよお。……良いな?」


 深長な彼の言葉に、イージアとサーラは各々の解釈を済ませて肯く。

 そして、鴉とサーラの二人は扉へと進み、イージアは陰に隠れて気配を遮断した。




 扉が開け放たれる。広大な一室の中には──


「ゼロっ!」


 『狂える赤鳥』、フォトス・ジルコと、その付近に横たわるゼロの姿があった。物陰には大勢の手下が隠れているようだが、二人はイージアの探知によりそれを知っている。


「ふう……途中で野垂れ死んでくれるかと思ってたが……ここまで来る執念はお見事だ。まあほら、魔族の娘はそれなりに価値がある。来たとしても損害にはならないか」


 フォトスは回転式の椅子を回して二人の方へ視線を移し、煙を吐く。敵を前にして緩慢な動作を見せ、自らの優位を示しているかのようでもあった。

 最上階の窓からは、アジェンの上層区画の街並みが一望できる。富と権力の象徴たるこの塔の支配者が彼……『狂える赤鳥』である。


「……ん。鴉じゃないか。もしかして、片割れを連れて来てくれたのかい? そういや、お前には来月ボーナス出すって言ってたな」


「おうおう、連れてきたぜえ。これで多少の儲けは出るだろ? ここに来るまでにアンタの配下は気絶させたが、殺しはしてない。必要な犠牲だと思ってくれよ?」


「ああ、元からその『撃砕者』が乗り込んで来ると踏んで人払いしてたからな。今日は随分と警備は手薄だったろ? 良い機会だし、配下にオフでも取らしてやろうってな」


 サーラは事態が呑み込めずにいた。唐突に、鴉とフォトスが馴れ馴れしく会話を始めたのだ。ここまで来てようやく、彼女は一つの可能性に思い当たる。


「カラス、アンタ……騙したの!?」


「おうおう……お嬢さん、純粋だねえ。騙したも何も、俺みたいな日陰者を『信じる』のが悪いねえ。ま、イイ経験になったろ?」


 フォトスは衝撃を受けるサーラを眺めながら、影に潜む配下を呼び出した。


「一応、その『撃砕者』が『怒戦派』の助っ人を連れて来る可能性もあったからな。念には念を入れて配下を潜ませてたんだが……過剰だったか。まあ、そんな小娘に何か出来る訳もない。ご苦労だったな、鴉」


「ああ。俺は《鴉》であり、《風見鶏》さ……利益のある方へと流れるからねえ。お嬢さん、世の中にはこういう人間が溢れてる。簡単に人を『信じ』ないことだね……遅すぎる忠告だったか?」


「クソっ! 離せっ! ゼロを返せっ!」


 フォトスの配下に押さえられ、サーラは身動きが取れない。彼女はイージアの助けを求めようとしたが、彼が出てくる気配は一向になかった。


「女のコイツは売りに出しといて。んで、こっちの男の方は……もう片割れも釣れたし、処分していいかな」


 興味を失ったように、フォトスは再び街中に視線を戻す。


「ゼロ! 起きて、ゼロっ!」


「それと……フォトスの旦那。そこの男の魔族、貰ってもいいかい? ソレを買いそうな人間に心当たりがあってねえ……利益は半分旦那にあげるからさ」


「そんな端金いらん。好きに持って行け」


 フォトスの了承を得て、鴉はゼロを抱え上げる。

 手足を縛るロープが固く締められていることを確認してから、そして──


「いいぜ」


 指をパチン、と鳴らす。

 刹那。疾風が駆け巡り、冷気を纏った剣閃が駆けた。剣閃はサーラを押さえ付けていた者たちを斬り、同時にゼロのロープを切断した。


「ああ……? 何だ?」


 フォトスは立ち上がり、視線を部屋の中に戻す。

 そこには、


「合図を待ちわびていたぞ。鴉、ゼロを頼む」


 仮面を被った白装束の男が居た。


「あいよー。んじゃ、アンタはフォトスの旦那を頼むよお」


 鴉はゼロを部屋の隅へと運び、サーラに目配せする。

 サーラは事態の展開に目を白黒させていたが、一泊置いて合点がいった。


「あっ……! そういうことお!?」


「言ったろ? 俺を信じろってさ」


「チッ……はあ、人間六人分の損害だ。いや、鴉も含めれば七人分か。俺も歳を取ったもんだな……若けりゃ、お前をそう簡単に信頼することはなかったんだが。まあいいや、ここで損害は排除する。俺がなぜ『狂える赤鳥』って呼ばれてんのか……死を以て教えてやる」

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