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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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151. 愛への理解

「報告します。第四商港の倉庫が『天の撃砕者』によって襲撃を受けました。損害はおよそ四百万ルアにも上ると推定されます」


「ああ……またあの雀たちか……そろそろ目障りになってきたな。『怒戦派』の連中が始末してくれると思ってたんだがな」


 アジェン共和国の西部に位置する高層建築にて。

 『狂儲派』の統率者、『狂える赤鳥』フォトス・ジルコは葉巻を吹かしながら街を眺めた。ここら一帯は『狂儲派』の中でも裕福な者が暮らす土地であり、煌びやかな建物が強く主張しながら林立していた。

 しばらく煙を吸って吐いてを繰り返しては、彼は考える。


「……よし、決めた。『撃砕者』は潰せ。効率を考えるなら、片翼を潰すだけで良い……片翼だけになればあの雀どもは飛べないからね」


「承知しました」


 彼が動く動機は、儲けになること、或いは損害を排除することのみ。『天の撃砕者』という損害を排除する為に、計画を起こしたのだった。


                                      ----------


 イージアは《鴉》と呼ばれる男に導かれ、『天の撃砕者』の拠点に訪れた。

 鉄筋の林の下を行き、貧困層が密集する建物の一室を鴉が指し示す。


「あそこが目標の二人の寝床だ。明かりが点いている……どうやらちょうど部屋にいるみたいだねえ。どうする?」


「私は『天の撃砕者』がどの程度の力量を持っているのか……それを知らない。迂闊に手は出せないが……」


「んん……俺はあの子たちに負けちゃったからねえ。だいぶ強いぜ? アンタの方が強いかもだけどねえ。まあ、気楽にいこうや」


 楽観的な鴉とイージアはあまり反りが合わなかったが、かえってその噛み合わなさが戦闘には良い影響を齎す可能性もあった。グラジオサードはそれを分かって二人を同じ任に就かせたのだ。


「行ってみようか。奇襲が可能ならば奇襲で方をつけるが、建物の構造上……恐らくは我々の気配は勘づかれるだろう。空を飛んで逃げられそうになった場合は、君の異能で妨害を頼む」


「あいよっ。それじゃ、リベンジと行こうかあ!」


 鴉は堂々と建物の中へ突き進み、鍵も掛けられていない『撃砕者』の部屋を開け放った。

 そこで見た光景は──


「うう……ぐすっ……」


 水浸しの屋内で俯いて泣く、サーラの姿だった。彼女は部屋に入って来た二人の姿を見ると、警戒の色を露にした。


「なに……カラス……と、港にいた仮面の人? アンタたちも……アタシたちを攫いに来たの?」


「……間違っては、いないが。その通りだ、私達は『天の撃砕者』を捕縛しに来た。しかし、この状況は……?」


 横に並ぶ鴉に尋ねるも、彼は何も知らぬと答える。鴉は床や柱の跡を調べ、一つの可能性を導き出した。


「大勢の人間の出入りがあったな? 交戦の跡も見られるねえ……『狂儲派』の連中に先を越されたかね」


 複数の人間の気、魔力の残滓、そして剣閃の跡。ここで戦闘があったことは明白。問題は、もう一人の『撃砕者』……ゼロの行方だ。


「もう一人の剣士はどこへ?」


「……だから、ゼロは攫われたの。『狂儲派』がいっぱい来て……すごくたくさん乗り込んできて、アタシたちじゃ敵わなくって……ゼロが、攫われた」


「お嬢さん、アレはどうした? 攫われた男の子はアレで逃げられたんじゃないのか?」


 不意に鴉が彼女に尋ねる。


「……アレって何よ?」


「ほら、アレだよ。俺……カラスさんを負かした時の最後の一手。何か転移みたいなのしてたろ?」


「敵のアンタらに話すとでも思った? ゼロはアタシだけで助けに行くんだから!」


 強情だねえ、と鴉は肩を竦め、イージアに今後の予定を尋ねた。


「で、どうするよ? 俺らの目的は『天の撃砕者』両名の捕縛。『狂儲派』に男の子の方が捕らわれた以上、条件の達成は不可能となる。ただし……」


「ただし、俺らの本来の目的は『天の撃砕者による邪魔を排除すること』。このまま放っておけば男の子は消えるし、それを助けに行ったお嬢さんも死ぬ。これで二人の邪魔は無くなるワケだから、むざむざ誘拐した連中を追う必要もないさあ。……あんたはそれで良いと思わないかあ?」


 鴉が鋭い目でイージアの顔を覗き込む。

 何かを窺うかのような、弄ぶような視線に思わず彼は目を逸らす。逸らした視線の先には、涙を拭いて立ち上がるサーラの姿があった。


「アンタたち、さっさと消えなさいよ……邪魔するならぶっ飛ばすよ!」


 彼女は水杖を二人に向け、威嚇するように足を踏み出した。しかし態度とは裏腹に、指先は震えている。


「……君の言う『ゼロ』は、君にとって大切な人か?」


「何なの、アンタ……そうだよ! ゼロはアタシの弟なんだから! 絶対、ぜったい助けるんだから!」


 彼女の答えを聞いて、イージアの仮面の下で如何なる逡巡があったかを知る術はない。しかし、何かしらの信念がその身に宿ったことを鴉は見抜き、今後の艱難を悟るのだった。


「……大丈夫だ。君たちの仲を引き裂かせはしない。共に追おう……『狂儲派』が向かった方角へ案内してくれ」


                                       ーーーーーーーーー



 『狂儲派』がゼロを連れて逃げて行ったという方角に、イージアと鴉はサーラに先導されて向かっていた。ゼロを誘拐した者達が途中からどの方角へ向かったか分からなくなったが、鴉の探知によって彼らが向かった先は『狂儲派』の拠点……国の西部に位置する上層区画の塔だと分かった。

 鴉曰く、彼の地には『狂儲派』の統率者、『狂える赤鳥』フォトス・ジルコの一派が根を張っており、警備はきわめて厳重とのこと。その上層区画に向かいながら、三者は情報の交換を行っていた。


「……アタシ達の異能は『相互転移』。お互いの場所に転移できる能力だよ」


「へえ、俺の『八咫烏』より便利じゃあないか? じゃあアンタ、その転移を使ってゼロを逃がすことはできなかったのかい?」


「『相互転移』には制限があるの。一つは、お互いの姿が見えていること。もう一つは、身体が拘束されていないこと。ゼロは拘束されてたから、転移して逃げることは出来なかったんだ」


 これで鴉、そして『天の撃砕者』に関する異能の情報をイージアは取得した。咄嗟の事態に活かせれば良いが……


「鴉、『狂える赤鳥』の情報は知らないのか?」


「さあ、上の人間の情報ってのは中々流れないもんだからねえ……『狂える赤鳥』の情報はもちろん、雇い主の『怒れる青獅子』の情報もないねえ。もしアンタが両者を相手取るってんなら、奴らをぶつけ合うのが一番の得策だろうね。少なくとも俺ならそうする」


「……そんなつもりは無い」


 『狂儲派』の統率者であるフォトス・ジルコと相対することはあっても、自身が与する『怒戦派』の統率者であるグラジオサードと争うことはないだろう……イージアはそう思っていた。しかし、そんな彼の考えに対して、鴉は両者との交戦の可能性を頭の中で構想していたのだった。


「さて、本格的に『狂儲派』の区画に侵入する前に……そこの役所で知り合いと情報交換をしていきたい。少し待ってもらってもいいだろうか」


「あい。じゃあここで待ってるぜ」


 イージアは目についた役所へと入り、設置してある連絡盤を用いてとある人物に連絡する。


「……ウジン、彼女の情報はどの程度集まっている?」


「おうイージア。それがだな……どうにもきな臭い。グラジオサードは信用ならんぜ。少なくとも、俺らの同行者に危険が及ぶ可能性は考えておいた方が良い。ま、そっちはおっちゃんに任せておきな。お前さんは任務に集中しろ」


                                      ーーーーーーーーーー



 時を同じくして。

 宿の一室に身を置いていたアリスとリグスは、今日も今日とて暇していた。紛争地帯のこの地では期待していた傭兵の依頼も存在せず、危険であることを理由に外へ出ることも殆ど無かった。

 イージアは当面の旅費を稼ぐ為に、とある伝手を頼って仕事を熟している最中だ。一方、ウジンは毎日のように安酒場に入り浸っていた。


「……あら、誰でしょう」


「ボクが出ます」


 部屋の扉がノックされ、リグスが出る。

 扉を開けた先には、藍色の髪の女性。


「こんにちは。貴方たちが彼の……イージアと共に旅をしている人でいいのかしら?」


「ええ、そうですけど……どちらさまで?」


「私はイージアに仕事を依頼していた者なのだけれど……彼の身が危ないわ。一緒に来てもらえる?」

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