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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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149. 撃砕者の正義

「いやー、強かったなあ! カラス!」

「ねー! まーアタシたちほどじゃないけどね! アハハ!」


 鴉を倒した二人は勢い良く空へ飛び立った。

 奔放に生きる彼らにとっては、あと一歩で鴉に命が奪われていたという事実すらもどうでもよかった。数分後にはけろりと忘れて、再び『破壊』に勤しむのだった。


「次は……決めた! あの建物はどうだ?」

「うーん、また『狂儲派』の建物かあ……まあいっか!」


 彼らが目を付けたのは、『狂儲派』の商港。裕福な『狂儲派』の住民が中心に居を構えており、貧困層や無知な旅人から富を搾り取る搾取の象徴とも言える地であった。

 その中でも一際大きな倉庫……そこを襲撃することに決めた。



 彼らは颯爽と地に降り、倉庫に突入して行った。作業をしていた人々は驚き、彼らの方を見るや否や、片翼が生えているのを確認して逃げだした。


「う、うわぁああー! 『天の撃砕者』が来たぞーッ!」

「衛兵を呼べ!」


 二人の悪評は広まっているようで、作業員たちは蜘蛛の子を散らすように去っていく。


「おー、いいリアクション?」

「アタシたちが襲うのは権力者だけなのにねー。勘違いされちゃ困るよね」


 二人は快活に笑いながら倉庫を見回す。二階には管理室が存在するようで、衛兵が次々と一階に降りて来る。


「『撃砕者』を囲め! 決して逃がすな!」


「逃がすなはこっちの台詞だぜ! あんたら、俺たちに勝てると思うなよ!」

「アハハ、数だけいても意味ないよ! 水蛇(メリアメイシュ)!」


 巨大な濁流がサーラの魔術によって生み出され、衛兵を巻き込みながら倉庫の床を水浸しにしていく。二人は水に呑まれないように宙へと飛び上がる。


「うおお、足が呑まれて……!」

「クソ、火薬が台無しだ!」

「ええい、撃て! 撃ち落とせ!」


 衛兵たちは銃弾や弓矢を二人へ飛ばし、撃ち落とそうと画策する。銃声音と風切り音が水浸しの倉庫に響き、戦況はますます混乱していく。


「な、当たらないだと!?」


 彼らが放った飛び道具は全て外れ、ゼロとサーラは上空を華麗に駆け回り、そして時には瞬間移動しているようにも見られた。

 彼らが鴉との戦いで勝利の決め手となった異能……『相互転移』を扱っているのだ。


「遅いねー! 遅い!」

「おいサーラ! こんな奴ら無視して二階行こうぜ!」


 水に呑まれる衛兵たちは思うままに身動きが取れず、二人の上階への侵入を許してしまった。




「ここかー! ここだなー!」

「責任者、出てきやがれー!」


「……責任者なら、もう逃げたぞ」


 二人を出迎えたのは、仮面を被った男だった。

 彼はどうしたら良いか困ったかのように立ち尽くしていた。手元にはアジェン共和国の地図、線が色々と書き込まれたものだ。


「んん……? 何かアンタ、どっかで見たことあるような……」

「なんか酒場に居たよな? こいつがここの権力者?」


「いや、私は旅人だ。この国から出れる場所を聞こうと紹介された場所を訪れていたのだが……この倉庫の管理人と相談している際に、君たちが襲撃してきた。そして管理人は逃げてしまった」


 現在、このアジェン共和国は内乱状態にあり、国境も大半の部分を閉ざしていた。そこで彼は出入国可能な関所を尋ねる為にこの商港を訪れていた。


「なんだってー? 逃がさないよ! ゼロ、追うよ!」

「おう!」


 二人は窓から飛び去り、嵐のように過ぎ去っていった。

 彼らのテンションにしばし困惑していたイージアだったが、一階に降りて顔を顰める。水浸しの倉庫に、呻き声を上げる衛兵たち。死人は出ていないようだが、経済的な損害は測り知れないだろう。


「あら、また会ったわね。仮面の人」


 入り口には大衆酒場で彼を勧誘した『怒戦派』の女性が立っていた。ここは『狂儲派』の管轄内のようだが、『怒戦派』の者でも自由に出入りはできるようだ。


「あの二人は『怒戦派』が嗾けたのか?」


「まさか。あの『天の撃砕者』には私たちも、『狂儲派』も手を焼いているわ。なりふり構わず襲撃を繰り返す野党ね、あの二人は」


 はあ、と溜息をついてから女性は続けた。


「ねえ、一つ提案があるの。貴方は二派の派閥争いには介入したくないと言っていたけど……彼らには多くの無関係な人々が迷惑しているわ。ここは一つ賊退治だと思って、彼らを捕まえてくれない? もちろん、報酬もこれだけ出すし、この国から貴方たちが安全に出れるように手続きもしてあげる。……どう?」


 提示された報酬は、賊退治にしては規格外の金額。

 好条件なことこの上ないが、彼にはいくつかの疑問があった。


「彼らは空を飛べるようだが、見つけられるのか?」


「実は拠点の場所はもう掴んでるの。そこで張っていれば捕まえられるでしょう」


 彼は悩む。報酬金もそうだが、最も助かる点はこの国から安全に出る保障をしてくれるという点。無駄な争いに巻き込まれずに、他の同行者も傷つけない……その保障は大きなメリットだった。

 やる事といえば、傭兵の依頼で受けるような賊退治とさして変わりはない。


「……分かった、依頼を受けよう」


「ええ、恩に着るわ。言い忘れていたけど、私の名前はグラジオサード。『怒れる青獅子』、なんて呼ばれているわ」


「私はイージア。よろしく頼む」


「あら、私が何者か知っても驚かないのね?」


「その佇まいから、何となく察してはいた」


 この発言から、眼前の男……イージアは侮れぬ相手だと彼女は思う。彼女がイージアを強者であると感じ取ったように、彼もまた彼女を強者であると感じ取っていた。

 見透かせぬのは、仮面に隠された表情だけではない。奥底に秘められた彼の力がどの程度のものなのか……彼女は一種の興味を抱いていた。


                                      ーーーーーーーーーー



「結局、今日はあんまり壊せなかったねー」


 夜、二人は街角にある拠点へと戻って来た。土埃の匂いがする路地裏の奥、煤けた鉄製の建築物が立ち並ぶ区画の一室が彼らの住居である。


「ま、上手くいかない日もあるだろ。明日成功すりゃいいのさ」

「うんうん、明日やろうの精神だね。それじゃあ寝ようか」


 遊び疲れた子供の様に、ゼロはベッドに倒れ込んだ。彼はすぐに眠りに落ち、寝息を立て始める。

 サーラはそんな彼に毛布を被せ、自身もベッドに潜り込んだ。


 外から射す月明が荒れた部屋を照らす。外から聞こえるのは、ただ風音のみ。こんな街の外れにもなると、二派争いにただ巻き込まれ、生活に苦しむ人々しか暮らしてはいない。騒ぐ気力も、奪う力もない者達がただ身を寄せ合っている区画が彼らの寝床であった。


「おやすみ、ゼロ……」


 先のことなんて見据えている暇はない。

 魔族である彼らには、死を過剰に恐れる必要はない。彼らが『壊す』のは、信念の為。己が信念の為に壊すのだ。

 かつて壊された全ての誇りの為に。全てを壊したモノを彼らが壊し尽くす。


 数々の正義が鬩ぎ合うこのアジェンにおいて、彼らもまた一つの正義の信念を宿していた。

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