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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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148. 鴉、飛来

 アジェン共和国の首都、ガフロン。

 『破壊』を終えたゼロとサーラの二人は、街中にある大衆酒場を訪れた。この国では昼間から飲んだくれが絶えることはなく、荒廃具合を如実に表していた。


「おらおら、おっさんどもー! 道を開けろー! サーラちゃんが通るぞ!」


「うおおー! メシだメシ! 店主! 豆とポテトの炒め物、ビスケット、トマト、豚の塩漬け、あとアイスジュース!」


 彼らは勢いよくカウンター席に走って来ては、矢継ぎ早に注文をする。


「げ、うるさいのが来たぜ……」

「はあ……俺は仕事行ってくるわ」

「今日もサーラちゃんはかわいいのお……」


 周囲の客は呆れたような、子供を見守るような温かい眼差しで二人を見た。今は二人の背に片翼のみの翼は生えていない。人里に降りている時は基本的に消滅させているのだ。


「お前ら……金はあるんだろうな?」


「おう、この紙切れがほしいんだろ? ほらよ!」


 ゼロは袋から紙の束を取り出し、店主に投げ渡した。


「……ったく、態度は悪い癖に金払いは良いから文句言えねえぜ」


 店主は文句を言いながらも料理の支度を始める。酒臭さと泥臭さが入り混じるこの大衆酒場こそが、二人の最も気に入っている店であった。

 出された一品目の料理にゼロががっつき、サーラは呑気にジュースを少しずつ飲んでいた。


 そんな折、酒場に一人の女性が訪れた。

 藍色の髪に、燃えるような真紅の瞳。服装こそ市民のものに合わせてはいるものの、その身からは大衆酒場には似つかわしくない荘厳とした気配が溢れ出していた。


「なんだぁ……? 見ねえ顔だな」

「べっぴんさんだねえ」


 酒を飲む人々は、彼女に引き寄せられるように視線を向けた。

 彼女は一通り酒場を見渡すと、ウイスキーを一杯注文し、杯を持ったまま、ある男の向かい側の席に座った。


「席、良いかしら」


「……ああ」


 向かい側には、仮面を被って白いローブを着た男。

 彼は他の席が空いているにも関わらず向かい席に座って来た女性を不審に思ったが、何も言わずに地域で発行されている新聞を読み続けた。


「貴方、強そうね?」


「そうでもない」


「…………」


 それだけ答え、彼は依然として視界を女性に移そうとしない。


「強い人におすすめの高給の仕事があるんだけど……興味ない?」


 その時、彼……イージアは初めて顔を上げた。

 現在この国は治安が悪く、傭兵協会もまともに機能していない。少しずつ旅銭も減り、金銭を稼ぐ手段には多少の興味があった。


「はじめて目を向けてくれたわね。それで、仕事なんだけど……」


「『怒戦派』に与する仕事は出来ればしたくない。勿論、『狂儲派』に与する仕事もだ。私は先を急ぐ旅人の故……あまり内戦には巻き込まれたくはないんだ」


 仕事の概要を女性から紹介してもらったイージアは、申し出を断ることにした。旅に同行する者達が居る以上、あまり危険な目に巻き込まれるような行動は起こしたくなかった。


「あら残念。でも、興味があればこの名刺のところに来てね。いつでも歓迎するわ」


 彼に名刺を渡した女性は立ち上がり、コップを店主のカウンターに下げて代金を支払った。

 そして、食事に夢中になるゼロとサーラに目をつけたのだった。


「ねえ、貴方たち。その剣に付いているのは……誰の血?」


「んお? もぐもぐ……これはな……なんだっけ?」

「もぐもぐ……あはは、なんだったかな? 何でもいいじゃん?」


 彼らは特段女性の問いかけを気にすることなく、食事に夢中になっていた。


「そう……」


 彼女は溜息をついて、酒場から出て行った。

 二人からすれば、知らない人によく分からない質問をされただけだった。それを見ていた仮面の男は、たしかに女性が発した殺気を感じ取っていた。




 酒場を出た女性……『怒れる青獅子』グラジオサードは竜車に乗り込み、街の通りを過ぎ去っていく。


「このまま鴉の場所に向かいなさい」


 彼女は側近に指示し、《鴉》と呼ばれる者の元へ向かおうとしていた。


「承知しました。目ぼしい者は見つかりましたか?」


「特に勧誘はできなかったけど……イイものを見つけたわ。『天の撃砕者』。あの二人、少し残念ね……世間を騒がせてるくらいだから、もっと誇りがあるのかと思っていたのだけれど」


 彼女はゼロとサーラのことを思い出しては、気落ちしていた。まさかあそこまでに誇りのない二人が『天の撃砕者』などといった大層な称号を持っているとは。彼女にとって潰そうと思えば片手で捻り潰せる程度の存在だったが、あまり街中で事を荒立てたくはないこと、そして何より近くの男が得体の知れない強さを持っていたということの為に、直接潰すのは止めておいた。


「始末しておきやすか?」


「……私に指図するつもり?」


「す、すみません……」


 グラジオサードから唐突に発された殺気に震え、側近は口を噤む。彼はつい気を抜くと、彼女に提案の類はしてはいけないということを忘れてしまうのであった。


「あの二人は『狂儲派』の損害にもなるけど、我々の損害にもなり得る。……ちょうど良いわ、これから彼の元に向かうことだし、《鴉》に片付けさせましょう」


                                      ーーーーーーーーーー


「よしよーし! いっぱい食べたし次はどこに行こうかなー!」


「サーラ、次は風に逆らって飛んでみよう!」


「いいね、風に立ち向かうぞー!」


 食事を終えた二人は翼を広げて、空へ飛び立とうとしていた。どこへ向かうかは完全に気分次第、何を壊すのかも完全に気分次第。

 そんな彼らの元に、彼ら以上に『気分次第な』男が忍び寄っていた。


「いやあ……イイねえ。自由ってイイねえ。鳥は自由さ、自由じゃないって言う人もいるけど。まあ、そんな鳥さんたちをパクッと食べちゃうのがカラス。カラスは雑食だからねえ……」


 路地裏からふらりと姿を現したその男は、まるでカラスのように眼付が鋭く、紺色の髪を逆立たせていた。彼はニヤリと笑い、二人の前に立ちふさがる。


「お? 誰だこいつ」


「ああ失敬。俺はキリリって名前なんだけど……自分の名前、嫌いなんだよねえ。だからカラスって呼んでくれよ、頼むよ」


「ふーーん。じゃあカラスさん、そこどいて。私たちこれからお出かけするんだ」


 サーラにそう言われた鴉は、黙って道を開ける。

 そして二人が飛び去って行く様を大人しく見つめていた。彼から見て二人の姿が塵のように小さくなった時。


「ダメだね……それじゃダメだ。背中を堂々と見せるなんてもってのほかだあ。──落とせ、『八咫烏』」



「次はどこに行こうか……って、何だ?なんか身体が重く……」

「ちょっと、ゼロ! 変な方向行かないで……うわっ? なんかフラフラするよ」


 順風満帆に空を飛んでいた二人は、謎の虚脱感に襲われ、地に落ちていく。ゼロは黒い糸のような何かが二人の上空を横切ったことに気付いたが、それに構っている暇はなかった。まるで突然中空に投げ出されたかのように制御が効かなくなり、ただ彼らは地に向かって行くしかない。


「うおおお……ぶつかる!」


 地に二人が衝突する、その直前。


「イイねえ。やっぱり魔族にはコレが効く。まあ、魔族は不死だからな……地面にぐしゃっても死なない。始末は責任持ってちゃんとこっちがやりますよ」


 またしても不思議な感覚に襲われたかと思うと、二人は鴉の傍に転移していた。何が起こったのか……二人は呆然としていたが、唯一分かったことは、この鴉が何かしたということだ。


「ちょっと、何するの! アタシ達の邪魔したでしょ!」


「おうおう……そりゃ邪魔すんのが仕事だから世話ねえな。しかしあんたら、その無警戒さでよく生き残れたねえ……ま、不死使って調子こいてたんだろうけどねえ」


「おいサーラ、気をつけろよ。コイツ、俺らを殺す気だぜ!」

「気づいてるよ。でもおかしーよね。アタシたちこの……カラスになんかしたっけ?」


「そりゃあさ、お前たちがしてるのと同じことさ。無差別に、気紛れに壊すのが『天の撃砕者』だろ? 俺もそうしたいってだけ」


 つまり、強い方が勝つだけさ……そう結んで鴉は懐から鉤を取り出し、腕に装着した。


「この爪が見えるかい……ん? 不死殺しの鉤だ。俺は無学だからよく分からないんだけどねえ、不死ってのは魂が消されたら死ぬらしい」


 二人はこの男から逃げ切ることは不可能と判断し、交戦を決める。

 ゼロが前へ出て、剣を構える。サーラは後方から魔術での支援を行う……これが彼らの基本的な戦闘体勢だった。多くの組織を『破壊』してきた彼らは決して戦闘に関して未熟という訳ではない。しかし、鴉からしてみれば彼らの体勢は隙だらけであった。


「おお、おお……綺麗(、、)だねえ。カラスさんが大人の戦い方ってのを教えてやろうか」


「うるせえ、どけっ!」


 不気味に笑う鴉に、ゼロが剣を構えて吶喊する。

 斬撃を鴉はひらりと躱し、踊るように蹴りを放った。ゼロではその蹴りを捉えることができず、腹部に直撃して彼は吹き飛ばされる。


「ゼロっ! 水槌(メリアジオ)!」


 直後、サーラは鴉に向かって水の鉄槌を飛ばす。並々ならぬ魔力が込められたその魔術は、彼女が魔族だからこそ無理なく行使できるものだ。


「おお、怖い怖い。──飛ばせ、『八咫烏』」


 鴉は向かい来る水の塊に手を翳すと、魔術は一瞬の内に消え去った。


「うそっ……!?」


「嘘じゃないんだなあ……所詮、『天の撃砕者』は雑魚狩りだったってことかな? ホラホラ、もっと本気出してくれ」


 鴉は煽るように手を広げて隙を二人に見せる。しかし、二人は無理に彼を攻めようとは思わなかった。

 少なくない戦闘の経験と、日夜危険に晒される地域で育ってきた彼らの直感が、まともに戦ってはこの男には敵わないと実感させたのだ。二人は互いに意を目線で察知し合い、次の一手を決めた。


 彼らは頷き合った瞬間、それぞれ別の方角へ駆け出した。ゼロは鴉の真正面の方角へ、サーラは鴉の真後ろの方角へ。鴉の動きに気を配りながら、遠ざかって行く。


「へえ……案外、頭は回るみたいだねえ。たしかに、これだとカラスさんも困っちゃうなあ。どっちにしようかなあ……」


 彼の異能『八咫烏』は、魔力を重力のように扱うこと。魔力が介在するものを引き寄せたり、突き放したり……相手の抵抗が弱ければ転移させることもできる。魔力が強ければ強いほどその力も強くなり、二人のような魔族には特に有効な異能であった。

 しかし、こう別の方向に逃げられては片方しか引き寄せられない。


「じゃあ、男の子からにしようか。ほら、おいで」


 彼はゼロを自分の近くへと転移させ、転移直後の硬直を狙って鉤を突き出した。

 ゼロの身体を抉り、魂までをも毟り取ると思われていたその攻撃は、空を裂くだけに終わる。


「む……?」


「お前、知ってたかよ?」


 彼の背後から、少年の勝ち誇ったような声が聞こえた。


「異能合戦ってのはな……先に異能を見せた方が負けるんだよ!」


「へえ、こりゃ……!」


 剣閃と水槌が一度に鴉を襲い、吹き飛ばされ、身体を斬られる。

 地面を転がる中で、彼が見た光景はそれぞれ別の方角へ向かって行った筈のゼロとサーラだった。


「く……くふ……はははっ! ああ、失敗だ、失態だ。こりゃ減給だねえ……」


 そう笑って彼は気を失った。

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