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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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144. 虚ろに虚ろを重ねて

「……撒いたか」


 夜闇に水霧が煙る中、イージアはウジンを連れて影に潜んでいた。

 背後に潜んでいた者も含めれば、相手は十数人にも上り、この数から逃れるのは容易ではない。今は隠れているが見つかるのも時間の問題だった。


「あんたは……イージアだっけか。助かったぜ……なんでこんな所に?」


「偶然君たちに鉢合わせただけだ。所用があって出かけていたのだが、やけに人通りが少ないと思ってな。人の気配が密集している場所へ向かってみれば……といったところだ。君を狙っている者達は何者だ?」


「あー……分からねえ。逃げる途中に見たが、傭兵ベースの職員も混じってたな。何か恨みを買うようなことをしたっけか」


 無論、ウジンは生前の肉体の所有者の記憶など持っていない。何故彼が狙われるのかも、相手の集団に直接問いただすしかないのだった。


「傭兵ベースの職員、か……やはり『黎触の団』絡みだな」


「『黎触の団』? ……なるほどねえ」


「私も詳細な活動内容は知らないが、世界の破滅を目的とした組織らしい。傭兵協会にまで手が及んでいて、私の仲間も狙われている。君も関わらない方が良いだろうな……まあ、既に狙われているみたいだが」


 転生先が反社会的な組織に狙われる身だと知り、ウジンは落胆する。生憎、今の彼には襲い来る敵を退ける力は無い。


「あー……そりゃ大変だ。で、ここからどうするよ?」


「それは自分で考えてくれ。私は朝までには帰らなければならない……偶然通りかかったから助けただけだからな」


「そりゃキツイな……どこかに匿ってくれたりはしないのか?」


「……私の連れも『黎触の団』の標的だ。降りかかる火の粉は払うが、まずは火の粉が降りかからないように行動するのが大切。君と行動を共にすることで連れが危険な目に遭う可能性も高くなってしまう」


 そう告げると彼は立ち上がり、ウジンから離れて行こうとする。


「ちょっと待て。まあ、イージアの立場は分かったがよ……おっちゃん、そこまで強くねえんだ。どうにか手を貸してくれねえか?」


「そうは言われてもな……仕方ない。王城の前まで送って行こう。最悪そこで夜を明かせば『黎触の団』の連中も襲ってはこれないだろう。不審に思われるだろうがな。詰所は既に『黎触の団』に支配されている可能性もある……前の国ではそうだった」


「ありがたい! 恩に着るぜ!」


 そして、夜闇の中を彼らは再び駆けて行くのだった。


                                      ーーーーーーーーーー


 追手に勘付かれないように岐路を進み、彼らはやがてジャオ王城の正門前へと至る。ルフィアでは詰所も『黎触の団』に制圧されていたが、流石に王城ともなればその心配はないだろう。


「おう兵士さん、色々あってこの近くで夜を明かしたいんだが……良いかい?」


 ウジンは王城前で見張りをしている警備兵に尋ねる。

 彼らは不審な目を彼に向けたが、話し合いの末許可を出した。


「ボディーチェックを受けて身分証を呈示してもらえれば、そこの道の邪魔にならないところで許可を出そう。……君もか?」


 兵士はイージアに尋ねる。


「いや、私は違う。ここで失礼する」


「おう、イージア。ここまでありがとさん。帰り道も気をつけてな」


 ウジンはイージアに礼を言い、脇道へ逸れて夜を明かす準備を始めた。

 この位置ならば『黎触の団』に襲われても衛兵に助けてもらえるだろう。


「夜が明けたら君はどうするつもりだ?」


「んー……まあ、国を出るしかねえな。命がいくつあっても足りやしねえよ」


「そうか。では、マリーベル大陸を出ることを勧める。この大陸は『黎触の団』の活動範囲らしいからな。それと……ジャオ大湖はこの国の『黎触の団』の本拠地らしい。あまり近づかない方が良いだろう」


 大陸を出てジャオ大湖の方面に向かわないとなると、必然的にイージア達の行路と被るが、同行する気にもなれなかった。アリスとリグスが彼を警戒していたからだ。


「おう、分かった。ジャオ大湖は危険……と」


 まさか自分……『虚神』の墓場が『黎触の団』の拠点になっているとはウジンも思っていなかった。だが、実際にあそこに彼の肉体が埋葬されている訳ではない。彼の肉体は創世主(アテル)に消し飛ばされ、欠片も残らなかったからだ。あくまでジャイルが用意した、観念的な墓場に過ぎないのだ。


「では、息災で」


「あい、よい旅を……この恩は忘れねえよ」


 そして彼らは別れ、夜明けを迎えることとなった。


                                      ーーーーーーーーーー


 夢……ウジンはとある夢を見ていた。

 

「……でよお! 俺がダーンと、猪の頭にぶちこんでやったワケよ! そしたらよ……」


 ウジン・サファイは傭兵である。特段腕が立つ訳でもなく、歴戦の勇士という訳でもない。一日を凌ぐ為の金銭を稼ぎ、こうして同僚と酒場に入り浸ることだけが生きがいの人間であった。


「なんだいウジン! また酔っぱらって!」


 彼の下に料理を運んできたのは、傭兵ベースの酒場で働く若女将、ベラである。彼女は毎日のように酒に溺れるウジンをからかいながらも、ふらつく彼の身体を支えるのだった。


「おうベラ! 聞けよォ、俺はさっき刃狼倒したんだけどよお、その倒し方がよお……」


「おいおい、その話何回目だ?」


 顔を真っ赤にして同じ与太話を繰り返す彼に、傭兵の同僚が呆れかえる。しかし、その同僚もまた酔っぱらっていて、ウジンの話を茶化すのだった。


「あんたら、他のお客さんの迷惑なんだよ! さっさと飲んで、さっさと帰っておくれ! ……ったく、嫁も貰わないであいつらは……」


 ベラは酔いつぶれた傭兵たちを追い払い、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。こうして酔っ払いの相手をするのが彼女の日常であった。

 ウジンと傭兵の同僚たちは転がるように傭兵ベースの外へ出て、地に寝転んでしまった。酔っていない面子が酔いつぶれた者達の財布から料金を抜き取り、勘定に出す……これもまた毎日のように行われる行為である。時たま多めに抜き取られているが、酔って記憶のないウジンはそれに気付くことはない。




「……んあ」


 痛みを訴える頭を抱え、彼が起き上がったのは真夜中のこと。周りには酔っぱらった同僚たちがいびきをかいて寝転んでいた。まだ酔いが抜け切っておらず、足取りがおぼつかない。

 傭兵ベースはとっくに閉館しており、門は閉まっていた。彼は酔いを覚ます為に近場にある自分の下宿へ向かおうと歩き出す。


 人気のない通りを歩くこと数分、通りの脇道から声が聞こえてきた。何やら聞き覚えのある声がする……ぼんやりとした思考にそんな感覚を覚え、彼はそちらへ向かって行った。


「……っと! ちょっと! 何すんのさ、離してよ!」


(……ベラ?)


 通りを曲がった路地裏の先に見えたのは、数人の人間に囲まれたベラ。周囲の者は傭兵ベースの職員の服を着ており、何かいざこざがあったのかと彼は物陰に隠れてその様子を見ることにした。


「大人しくしろ。おい、睡眠を」


「はっ」


 一人の職員が魔術を唱え、抵抗するベラを眠らせる。それから彼らは彼女の手足を縛り、近くに停めてあった馬車の荷台に載せた。

 そこで彼はこれが単なる職員間の喧嘩ではないことに気付く。


(一体、何が……)


「確保した検体を拠点へ送れ。大湖へ」


「承知しました」


 年配の職員が他の職員に指示を出し、ベラを乗せた馬車が走り出す。

 検体……彼は依然として隠れていたが、その言葉からよからぬものを感じ取った。隠れたまま他の職員の目をやり過ごし、即座に街の外を目指して駆けだした。

 とっくに酔いは醒め、謎の焦燥が彼の足を動かしていた。ここで冷静になって振り返ってみれば、同僚の傭兵たちに相談したり、兵士に相談するといった対策が思いついたのだが、彼の頭はそこまで冴えていなかったのだ。


「大湖って言ってたな……一体何があった? 傭兵ベースの奴らは一体何者で、なんでベラが襲われていた……? クソ、分かんねえな……」


 走り続け、彼はジャオ大湖行きの馬車を見つける。深夜の為なかなか馬車が見つからず、その分焦りが一層積もるのだった。


「おい爺さん! ジャオ大湖まで!」


「ウジン。なんじゃそんなに慌てて」


「いいから早くしろ!」


「ぬ、ぬう……? 分かったわい」


 いつも依頼で載せてもらっている馬車の御者に頼み、急ぎジャオ大湖へ向かう。

 夜の平原を走り、日が彼方から昇り始めた頃。海とも言える大きな湖が見えてきた。


「ほれ、着いたぞ。で、何がしたいんじゃお主は」


「ああ、ほら乗車代だ。爺さんは帰っててくれ!」


 財布に残る資金の大半を御者に押し付け、彼はまっすぐに駆け出す。地面には先の職員たちの馬車のものと思われる轍が残されていた。それを追い、ジャオ大湖の周囲を進んで行く。


 轍は茂みの中へと続き、そこを南下していくと、湖の下に位置する洞窟へと続いていた。


「こんな所に……洞窟が?」


 ここに度々訪れる彼にとっても未知の場所であった。

 灯りを持っていなかったので、壁伝いに奥へ奥へと進んで行く。あまり土臭くはなく、人の足で踏み固められたように地も平坦である。


 そして、洞窟の先へ進んで行くと、燈色の光が奥から漏れていた。明らかに自然のものではない人口の光。その先で彼が見たものは──



「ウジンじゃねえか。何でお前がここに?」


「え、トウキさんじゃねえか」


 彼が先を覗こうとした矢先、背後から声が掛かった。薄暗くて見えにくかったが、巨体と禿頭、そして重苦しい声で傭兵ベースの局長……トウキだと彼はすぐに分かった。


「なあ、ここは何だ? ベラが連れ去られてるみてえだったから追ってきたんだが……傭兵ベースと何か関係あんのか?」


 彼は局長であるトウキに信を置いており、彼が怪しい行為に携わっている人物であるなど思っても居なかった。故に、警戒もしていなかった。


「チッ……ただの傭兵に尾行されるたあ……アイツらも再教育が必要だな」


「トウキさん? ……ぐっ!?」


 突然放たれたトウキの肘撃ちによって、彼はその場に倒れる。

 沈み行く意識の中で、彼が最後に聞いた言葉は、


「……おい、コイツは毒でやっておけ。それと、ベラを連れて来た奴らも呼んで来い!」


                                      ーーーーーーーーーー



 そこでウジンは目を覚ました。

 場所は王城前、どうやら『黎触の団』に襲われずに夜を明かせたようだ。


「…………」


 はっきりと記憶に残る夢の内容。おそらく、あの記憶は生前の肉体の持ち主が遺したものだろう。

 彼は寝覚めが悪そうな眼で朝日を見つめ、そして立ち上がった。


「ふむ……仕方あるまい。この肉体を使わせてもらう為のせめてもの礼儀、か……」


 そう呟いて彼は歩き出す。



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