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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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143. やはり振り切れぬ感情

「意外と疲れますね……単純作業は苦手です」


 三人はイージアが持って帰って来た梱包作業を淡々と進めていた。玩具や製品のパーツをひたすらに包む作業は、旅に憧れる活発なアリスにとっては辛いものがあった。


「これなら魔物でも倒してた方がマシですよね……まあ、『黎触の団』とやらのせいで傭兵の仕事がまともにできないのですが」


「少なくともマリーベル大陸を出るまでは堂々と傭兵の仕事を受けることは難しいだろう。もう少し我慢してくれ」


 リグスもアリスに同調して不満を漏らす。仕事を始める前は意気揚々としていた二人も、作業を進めるにつれ口数が少なくなっていた。対してイージアは終始寡黙に作業に取り掛かっていた。


「お前……よく集中してこんな作業できるな」


「こういった単純作業は、精神力を鍛える為の修行だと思えば良い」


 克己的な彼の答えにリグスは肩を竦める。コイツは何事も修行だと考えているのではないか……彼女はそんな思いに駆られる。


「なるほど、それが強さの秘訣なのでしょうか……! では、私も頑張ります」


「いやいや、そこまで気合を入れなくても。コイツに残った仕事はやらせておきましょう」


「そういう訳にはいきません。私も力にならないと……って、これは何の玩具ですか?」


「うわっ……アリス様、それはあまり見ずにさっさと梱包しちゃってください。おい仮面男、変な物が梱包物に混ざってるぞ」


「……知らん」


 こうして夜は更けていった。

                                      ----------


 夜、イージアは二人が寝静まった後も自室で仕事を進めていた。

 全ての仕事が片付いた後、彼は窓の外を見る。時刻は既に深夜、人通りも少ない。彼は徐に立ち上がり、魔剣リゲイルを腰に下げて部屋のベランダへ出る。そして、隣のアリスとリグスの部屋のベランダへ飛び移り、眠っていることを確認してから地上に飛び降りた。


 彼はこの夜の間に『黎触の団』に関する情報を集める腹積もりであった。まずはどの程度まで傭兵業界が『黎触の団』に支配されているのか……それを知らなければ旅費を稼ぐことにも難儀する。

 規模も構成員も拠点も不明。リフォル教と同じような厄介さが彼らにはあった。もっとも、両団の目的は対立傾向にあるらしいが。


 まず彼が向かったのは情報屋。一介の情報屋程度に『黎触の団』の情報が掴めているかは怪しいところだが、行ってみても損は無いだろう。

 金ならば火竜の討伐で得たものがあるので、幾分かは余裕がある。情報を聞き出す程度の金は用意できる。

 彼は情報屋の戸を叩き、中から一人の男が眠たげな眼を向けて顔を出した。


「……らっしゃい」


 店内には深夜にも関わらず、数名の人間が座っていた。


「で、用件は?」


 着席早々、情報屋の男からそう問いかけられる。情報屋の男は酒を呷りつつイージアを探る。この仮面の男は不可思議な人間だが、強者であることは間違いないと判断する。


「『黎触の団』を知っているか?」


「……チッ。面倒だぜ、それは。俺もあまり詳しく知ってる訳じゃない」


「最悪勢力圏だけ知れればそれで良い」


 男はしばし情報をどれだけ伝えるか思案したが、問題のない範囲で伝えることに決める。

『黎触の団』に過度な接触を図ることは自殺行為。つかみどころのない組織だが、危険性はきわめて高い。


「本拠地はマリーベル大陸のどこかにある……と言われている。他大陸の情報屋からは『黎触の団』に関する情報は聞かないから、この大陸でしか活動していないかもしれないな。まあ、今後勢力を拡大させていく可能性は十二分にあるが」


「ふむ……極力彼らとは関わらずに旅を続けたいのだが。傭兵協会はどの程度まで支配されている?」


「さあ、そこまでは知らんね。何らかの理由があって『黎触の団』に目を付けられているが、旅銭を稼ぎたいって言うなら……大陸外に出ることだな」


「そうか。これで十分だ、ありがとう」


 イージアも情報屋が『黎触の団』に関する情報をあまり話したがっていない事は察していた。これ以上の問答はあまり意味を成さないと判断し、情報料を置いて去ろうとする。


「どうも」


 金銭を受け取った情報屋は荷袋の重さに違和感を覚え、中をちらと確認してみると……中には渡した情報に釣り合わないほど多くの金銭が入れられていた。実際、イージアは情報に対する対価をどの程度渡したら良いのかが分からず、適当に渡しただけだったが……それが功を奏した。


「……あんた、ちょっと待ちな」


 男は彼を呼び止め、懐から取り出したメモに走り書きをする。そして、そっと彼に手渡した。


「また来てくれよ」


「ああ」


 この紙に何が書かれているのかは店外で確認することにし、彼は店を出た。


 燈色の街灯の下、彼は受け取ったメモを見る。

 そこには蛇のような文字でこう綴られていた。


『黎触の団は、この国ではジャオ大湖のどこかに拠点を構えている。傭兵協会の局長、トウキも団の一員らしい。この国の傭兵ベースは『黎触の団』に関係していることは間違いない』


 彼はそのメモを確認すると、炎魔術で燃やしてからその場を去った。


                                     -----------


「はああ……ったく、疲れたな。ウジン、俺は小便してくるから先に戻っててくれや」


「おう、了解」


 ウジンと同僚の男は依頼を終え、街に帰還した。時刻は深夜、思わぬ魔物との遭遇に手こずり、帰還が想定よりも遅くなってしまったのだ。

 彼は傭兵ベースで職員から受けた不可解な視線が気がかりだったが、警戒しながら一人で傭兵ベースへ戻ることにした。



 夜の闇をしばらく歩いていると、彼は一つの違和感に気付く。辺りに人通りが少なさ過ぎる。いくら深夜とはいえ、ここは王国の都市部。大通りには多少の人が往来していても良い筈だ。

 そして、人影が見えないにも関わらず人の気配が感じられた。数名の人間がウジンの後を追うように追い縋って来ている。これが白昼の人通りのある場所だったら、気が付くことは出来なかっただろう。


(どうしたものか……)


 彼は今、一介の傭兵に過ぎない。神族としての魂が身体に馴染んでいない為、神転のような特殊な能力を扱うことも不可能。もしも襲われるようなことがあったらタダでは済まないだろう。

 追い剥ぎか、或いは何らかの誘拐組織か。兎にも角にも、彼は不審な挙動を見せないように歩き続けた。このまま傭兵ベースまで辿り着けば逃れることはできるだろうが……


「おい」


 眼前に三名ほどの人間。彼らはウジンの逃げ道を塞ぐように立ちはだかった。

 前方への逃げ道を塞がれ、後方にも潜まれている現状。彼は逃げ場を失った。


「なんだい、あんたら?」


「……何故、生きている」


 立ちはだかった者はそうウジンに尋ねた。

 やはり、前の自分の肉体の所有者はこの者たちに殺されたらしい。そして、彼の憶測が間違っていなければ、彼らは傭兵ベースの職員と繋がっている。


「何故……ねえ。自分らで考えてみたらどうだい?」


「答えぬというのならば、殺す」


 目の前の三人は懐から暗器を取り出し、彼を包囲する。連携の取れた行動に、統一性のある武器……やはり彼らは只者ではなく、何らかの組織に属しているようだ。

 ウジンもまた剣を引き抜き、交戦の構えを取る。背後に大勢の敵が潜伏している以上、勝ち目は殆ど無いに等しいが……


「答えても殺すつもりだろう? ……ま、俺を殺しても殺せる(、、、、、、、)とは限らないけどなあ?」


「…………」


 この応答で彼らが退いてくれれば幸いだと思ったが、そう簡単に事は運ばないようで、交戦は避けられないようだった。

 彼らの目線からすれば、ウジンは不死の力を持つ謎の人物。その得体の知れなさ故に退いてくれる可能性に賭けたのだが。


「ならば、望み通り! 再び殺してやろうッ!」


 暗器を構え飛び掛かって来る暗殺者たち。ウジンからすれば、二人潰せれば良いレベルの相手だった。

 初撃は剣で往なしたものの、身軽さに大きな差がある。

 三方向から迫り来る斬撃に彼は容赦なく押され、そして──


「もらった!」


 煌めく刃が彼の喉元へと届こうとしていた。

 その時。


「『水霧(メリア・スター)』」


 刃が打ち払われると共に、濃霧が一帯を瞬時に支配した。

 夜中ということもあり薄暗く、視界の悪い霧の中で彼が見たものは。


「んん……? あんたは、たしか……」


 霧の中で蠢く、仮面の男。

 彼はウジンを誘導し、共に霧の中へと溶けて行った。 

 



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