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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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139. 影の正体

『……四十七番か。まずいことになった。街中に入り込んだサーラライト族の二人だが……片方を逃してしまった。まだこの王都のどこかに居る筈だ、探せ』


 連絡盤から聞こえてきた音声が頭の中に響く。サーラライト族の二人といえば、イージアには心当たりしかなかった。相手が如何なる組織かは知らないが、イージアを尾行していたのも二人と共に行動しているのを見られたからだろう。

 二人を攫って何を企んでいるのかは分からない。サーラライト族は魔族適正が高く、それ故狙われたのだろうか?

 そもそも、相手はなぜ二人がサーラライト族であると知っていた?

 様々な疑問が彼の思考に駆け巡る中、宿に辿り着く。


「アリス、リグス!」


 部屋はもぬけの殻。荷物が置かれたまま二人が帰って来た形跡は無い。


「チッ……!」


 再び街中へ飛び出し、周囲の気を捜る。敵意、悪意、或いは焦燥を感じ取れれば手がかりになるはずだ。

 この行動が『睡眠病』の犯人を捜した過去を彷彿とさせ、余計に彼の心を苛立たせた。またすぐに関係を築いた者を失うことになるのではないか──そんな不安の波が押し寄せる。


 特定の個人を見つけるには、あまりに人が多かった。二人を攫った組織か、或いは二人のうち逃げたどちらかの者が見つかればそれで良い。

 もしもアリスかリグス、どちらかが逃げているとして……人気の無い場所には向かわないはずだ。その中でもっとも安全な場所は……


 彼は聳え立つ王城を見上げ、その方角へと走った。


                                      ----------


 アリスは無我夢中のまま逃げていた。

 突如、悪意を持った人間たちから囲まれたかと思うと、彼らは二人を捕らえようと攻撃を仕掛けてきたのだ。リグスの咄嗟の機転からアリスは大通りへと逃がされ、人ごみに紛れて逃げて来たが……従者がどうなったのかは分からない。

 とにかく兵士に助けを求めようと、彼女は王城前の詰所へ向けてひた走っていた。


「はあ……はあ……あのっ! 誰か居ませんか!」


 詰所へやっとの思いで辿り着き、助けを呼ぶ。

 奥から兵士が二人、やって来た。


(っ……悪意……!?)


 大まかな心の流れを察知できる彼女は、二人の兵士が悪意を抱えていることが分かった。


「おや、いかがされました? お嬢さん」


「い、いえ……すみません。何でもありません……」


 彼女は警戒し、下がろうとしたが……


「まあ、そう言わずに。何か悩みがあるのでしょう? さ、奥へどうぞ」


 後ろをもう二人の兵士で塞がれていた。彼らも同様に悪意を持っている。

 彼女は謂れも無い危機感を覚えた。何かがおかしい……そう直感的に感じ取ったのだった。


「だ、大丈夫です。それでは、失礼します……」


「お待ちください」


 兵士の横を通り抜けようとした彼女はだったが、腕を掴まれてしまう。


「あなた、少し怪しいですね。少し中でお話を聞かせてもらえませんか?」


「い、いえっ……急いでいるので……離してください……!」


 兵士の力は強く、振り解けない。他の兵士も迫り、強引に内部に連れていかれそうになった、その時。


 周囲に冷気が奔る。一陣の風が吹き荒れ、


「飛雪の撃──『連環』」


 幾重にも連なる円状の軌跡が兵たちを斬り裂いた。

 容赦の無い一撃……兵士たちは皆絶命していた。


「間に合ったか……アリス」


「あ……イージアさん……はぁ……」


 どっと押し寄せる安堵にアリスは思わず膝をつく。得体の知れぬ恐怖から解放され、次に従者への心配が襲い掛かって来た。


「イージアさんっ! 大変、なんです! リグスがっ……!」


「落ち着くんだ。リグスが連中に攫われたのは分かっている。まずは、この連中を調べなければ……」


 そう言いながら彼は倒れ伏す兵士の荷物を調べ始めた。


「この人たち、無理やり私を連れて行こうとして……」


「ああ、これを見てくれ」


 彼が見せたのは、兵士の身分証明証。そこには顔写真が焼きつけられていたが……


「顔、違いますね……」


「ああ。おそらく君たちを攫おうとした組織が成りすましていた。本当の身分を証明する物は持っていないようだな」


 アリスの足元に、兵になりすました死体から流れる血が届いた。

 彼女はこれほどの量の血、ましてや死体など見たことがなかった。その臭いと、凄惨な光景に思わず後退る。


「殺して、しまいましたね……」


「……仕方がないこともある。命は思ったよりも軽いものだ。もしも彼らが真っ当に生きていたら、死なずに済んで……親しい者に悲哀を抱かせることもなかっただろう」


 イージアは一通り荷物を調べ終わり、立ち上がった。


「君達が攫われそうになった場所へ案内してくれ」


「わ、分かりました」


 再び襲われた場所へ戻ることにアリスは本能的な恐怖を覚えたが、イージアが傍に居ることで不思議と勇気が湧いてきた。意を決し、走って来た道を彼と共に戻ることに決めたのだった。




「……ここです。この広場で十人くらいの人たちに囲まれて」


 その広場はやけに人通りが少なかった。ちょうど大通りから見えない位置に存在し、周囲も木々で囲まれている。民間人に扮した組織が屯していて、人払いは済ませてあったと考えるべきか。


 イージアは魔力の残滓を確認し、ある程度の交戦がこの場で行われたことを知る。

 だが、ここからどこへ向かえば良いものか……それを彼は決めあぐねていた。


「……! こっちです! こっちにリグスが連れ去られたみたいです」


 すると、アリスが彼の袖を引っ張り、周囲の木々の奥深くを指し示した。


「なぜ分かる?」


「周りの植物がそう告げています。私には自然の声を聞く力があるのです」


「了解した。行ってみようか」


 アリスの指示に従い薄暗い木々の合間を進んで行くと、廃工場らしきものが見えてきた。

 内部には僅かに人が通った形跡が見られる。


「ここが恐らく奴らが逃げ込んだ先だが……君は一旦大通りへ戻って待っていてくれ」


「いえ、私も行きます……! 足手まといなのは知っていますが……従者を見捨てる訳にもいきません」


 彼女がこう答えることをイージアは知っていた。

 一人の方が楽なのは事実だが、彼女の信念を曲げる権利は彼には無い。


「では、私の傍を離れないように。行くぞ」


 二人は気配を消して、静かに廃工場へと入り込んだ。

 入り口に清掃員の姿をした見張りが居たので、無力化しておく。


 イージアは人の気配を探り、廃工場の端を進んで行く。すると、戸棚の後ろ側に扉を発見し、その奥から十名程の人の気配を察知した。


「この奥だ」


 二人は頷き合い、突入を決める。こうなれば正面から敵を全員無力化していくしかない。

 

 そして、扉を開く。そこには──


「!! 侵入者だ!」


「リグスっ!」


 八名の民間人の服装をした組織の人間。床に気絶して倒れるリグス。

 そして……



「おや、イージアさん。まさかあなたがいらっしゃるなんて……」


 傭兵ベースの管轄者、ワクス・フェロー。

 彼は中央の長椅子に座り、周囲の者を従えていた。

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