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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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138. 王都に潜む影

 ルフィア王国。建国から六百年近い時が経つこの国は、マリーベル大陸でもっとも大きい都市である。

 正門を見上げれば天にも届きそうな石作り、往来には人が溢れんばかりに行き交い、常に喧騒に包まれる街である。昼は輝く太陽の下に人々が汗を流し、夜は灯りが絶えることのない眠らずの街と化す。


「わ、わ……人がいっぱい居ます……! 迷いそう……」


「アリス様、こちらです。上ばかり見て歩くと危ないですよ」


 サーラライト族の二人は見たこともない雑踏の光景に目を回し、今にも人の勢いに流されてしまいそうだった。イージアはハラハラしながら彼女らを気遣い、何とか宿に辿り着いたのだった。

 予定としては三人がこの国に滞在するのは三日だけ。旅費を稼いだら、すぐに次の目的地であるジャオ王国へと旅立たなければならないのだった。


「せっかく大都市に来たのですし観光はしていきたいですが……そんな暇はなさそうですね」


「見たい場所があるのなら今日中に見て行くと良い。主な旅の支度は私がしておこう」


「あら。それじゃイージアさんが観光できないじゃないですか」


「私は何度もルフィアに来ているからな……別に珍しい光景でもない」


 実際に彼が見てきたのは未来のルフィアなのだが、通りの人の数にそこまで変化は無い。都市の正門も多少の補修の違いはあるものの、未来とそう変わりは無かった。


「準備はコイツに任せましょう。早速出かけますか、アリス様?」


「ええ、そうしましょう。ではイージアさん、お願いしますね。いってきます!」


「ああ。迷わないように」


 二人は意気揚々と街中へ繰り出して行くのだった。そんな二人を見届け、イージアは早速明日の出立の準備に取り掛かった。まずは馬車の手配と、食糧の調達。その為に必要な資金を傭兵の依頼で集めなければならない。

 イージアであれば高難易度の依頼もすぐに片付けられる。彼にとって旅費を稼ぐことは、サーラライト族の二人という条件を無視すれば容易な事なのであった。


                                      ----------


「これを受ける」


 傭兵ベースのカウンターに依頼書を持って行き、受付で手続きを済ませる。職員は怪しげなイージアの風貌と、普段姿を見かけない無名の傭兵がやたらと高い難易度の依頼を受けていることを訝しんだが、素直に手続きを済ませた。


 彼が受注したのは、ルフィア周辺のフロンティアに出現した火竜の討伐依頼。本来は弱い魔物しか出現しない筈のフロンティアに強い竜種が紛れ込む……稀な現象だ。あまりに多発すると、そもそもの生息分布が変動したとも考えられるが、今回は単純に紛れ込んだだけのようだ。

 場所が近場なので日帰りで達成でき、かつ高収入。今の彼には最適な仕事であった。


「おう、あんちゃん! なんだあ、その依頼は?」


 受注を済ませて早速出かけようとするイージアの前に、一人の大男が立ちはだかった。

 珍しいことではない。傭兵によくある新人いびりだ。ましてやイージアのような新人が最難関の依頼を受けたのだから目をつけられることは何となく分かっていた。

 未来の傭兵ベースでも偶にこのような騒動が起こるのだ。ましてや過去では頻りに新人いびりがあったことだろう。


「火竜の討伐依頼だ。……失礼する」


 争いは避けた方が良い……そんな考えのもと男の横を通ろうとする彼だったが、道を塞がれてしまう。


「おい、待て。あんちゃんみてえな無名によ、その依頼が務まるかい?」


「彼我の力量差も測れぬ者に言われたくはないな」


「ああ? なんだと、テメエ……!」


 男は余程切れやすい性格なのか、イージアの返答だけで殴り掛かって来た。

 だが、彼はそれを避けることはしない。何故なら──


「おやおや。喧嘩は……いけませんねえ」


 その拳が止められることが分かっていたからだ。

 止めたのは、細目で長身の男。服には傭兵ベースの管轄者であることを示すプレートが掛けられている。


「げ、ワクスさん。いや、これは違うんですよ……」


「何が違うのです? 私は一部始終をしっかり見ていたのですがねえ……」


 男の顔は青褪め、ワクスと呼ばれた管轄者にたじろぐ。どうやら力関係では歴然とした差があるらしい。

 ワクスはイージアに頭を下げ、男の行動を詫びた。


「いや、申し訳ございません。この男はみっちり教育しておきますので……依頼の達成、どうぞよろしくお願いいたします」


 イージアは謝罪に頷き、静かに外へ出て行った。

 その瞬間には先の喧騒のことなど忘れ、既に依頼の準備に思考が移っていたのだった。


                                      ーーーーーーーーーー


「グ、ギャア……」


「……よし」


 火竜の討伐を終えたイージアは観測隊に討伐証明書を発行してもらう。


「いやあ、凄いですね。たった一人で火竜を倒してしまうなんて」


「慣れているだけだよ」


「はは、頼もしいことです。また機会があればよろしくお願いしますね」


 彼は討伐証明書を受け取り、帰路に就く。

 何ら変わったところのない火竜。少し気性がおとなしいくらいの特徴しかなかった。


 

 夜。傭兵ベースへ戻ると酒を飲む者が屯し、辺りは昼間よりも騒がしかった。

 イージアは受付に討伐証明書を持って行き換金してもらう。これで当面の旅費は工面できた筈だ。


「おや、あなたは……」


 報告中、彼の横から声をかける者があった。この場の管轄者……ワクスと呼ばれた細目の男である。


「先程はうちの者が失礼しました。私はここのマスターを任せられています、ワクス・フェローと申します。……依頼はいかがでしたか?」


「イージアだ。問題なく達成できた」


 その報告を聞くと彼は驚き、証明書を覗き込んだ。


「おお……素晴らしい腕をお持ちのようで。イージアという名の傭兵は聞きませんでしたが……これまでに討伐経験はおありで?」


「最近傭兵を始めた」


「なるほど……! いや、国も例の火竜には困っていたところなのですよ、ありがとうございます。今後もますますの活躍を期待していますよ」


「旅人だからな……もうここには来ないだろうが。また機会があれば依頼を受けさせてもらおう」


「ええ、お願いします。それではお元気で」


 ワクスと短いやり取りを交わし、報酬金を受け取った彼は外へと出て行く。

 もう時間も遅く、アリスたちも宿へ帰っている頃合いだろう。大都市らしく、夜にも関わらず大通りには無数の人々が行き来していた。


 彼はそんな往来を眺めながら宿へと続く道へ曲がり……そして人気のない路地裏の深くへ入って行った。


(尾行されているな……)


 傭兵ベースを出たあたりから、何者かが己を尾行していることに彼は気づいていた。追跡の精度からして、かなり手練れの追跡者だろう。

 敵意、殺意は無いが何かを訝しむかのような視線。彼としても尾行される理由は分からなかったが、この仮面の所為だろうか?

 しかし、仮面を被っている者などさして珍しいものではない。


 考えられる可能性は、イージアの身元を捜る為にワクスが尾行させた可能性。しかし、そこまでして執着される覚えもない。

 追跡者の正体はともかくとして、彼は正体をたしかめることにした。

 路地裏の道を曲がり、一切の気を遮断して物陰に隠れる。すると、一人の民間人のような身なりをした女性がやって来た。彼女は誰かを捜すかのように辺りを見回し、気を探知しにかかった。


 この女性が追跡者で間違いない。イージアは素早く彼女の背後に回り込み、手刀で気絶させる。

 それから周囲に人の気配が無いことを確認してから、女性の荷物を調べた。


(身元を特定できる物は……無いか)


 どの組織に所属しているのか、どのような活動を主体としているのかを示す物は所持していなかった。暗器の類も見つからない。

 懐からは連絡盤が出てきた。この時代は魔眼携帯も電子有形携帯も存在せず、遠方との連絡にこれを用いていた。


(毒、か……曲者だったようだ)


 追跡者の口内から自決用の毒が見つかった。やはり危うい組織の構成員なのか……だが、それを確信するほどの証拠は揃っていない。


 唯一、この追跡者の正体を看破できる可能性が秘められているのは、この連絡盤。だが、もしも合言葉などが必要だったら……そんな懸念もあった。

 だが、追跡を受けた身としてこのまま黙っている訳にもいかない。彼は意を決して連絡盤を起動した。


『……四十七番か。まずいことになった。街中に入り込んだサーラライト族の二人だが……片方を逃してしまった。まだこの王都のどこかに居る筈だ、探せ』


「…………」


 彼は連絡盤を切り、即座に駆け出した。

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