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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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134. サーラライトの主従

 白髪、紅い瞳。髪を短く切り揃えており中性的な外見だが、女性。

 適正魔術属性は火、短刀を提げていることから戦闘可能な者だとイージアは判断する。


「助力、感謝する。私はイージア」


「ああ、ボクはリグス・フ・アズライ」


「……我はダイリード」


 名前の特殊性から、この女性は《サーラライト族》だと悟る。

 サーラライト族とは大霊の森と呼ばれる地に住み、きわめて高い魔術適正を誇る長命種である。


「さてお前ら。あの鳥、気を付けろ。強いからな」


 紫の体躯を持つ鳥竜は依然として三人を窺っている。


「まずは蜥蜴だ、片付けるぞ!」


 ダイリードの掛け声を皮切りに、三人は一斉に動き出す。

 次第に数を減らしていた蜥蜴は、リグスの協力によりさらに早く数が減少していった。


 イージアは剣を振るいつつ、リグスの挙動を確認していた。

 炎魔術を中心とした立ち回り。腰の短刀は抜かず、敵の攻撃は回避して距離を取ってから魔術を放っている。魔導士型か……不敵な態度の割には、そこまで戦闘慣れはしていない。新人の騎士を少し上回る程度か。

 サーラライト族というだけで、かなり伸びしろはあるのだろうが。まだ未熟だ。


 むやみに彼女を空の鳥に近づけない方が良い……彼はそう判断した。


「ああ、ウザいなこいつら! 火炎(ジマノフ)!」


 その時、天から様子を窺っていた鳥竜が動き出した。三人とは別の方角へ。


「どこへ行く気だ……?」


「チッ、まずい! 村人を避難させた方角だ!」


 その言葉を聞き、イージアは安堵する。と同時に、焦燥感を覚える。

 今から走ってあの魔物に追いつけるか──?


「ああクソっ、向こうには姫様も居るのに……! どけよ、コイツら!」


「イージア、頼む」


 ダイリードはイージアの適正が風属性ということを理解し、移動の速い彼に追撃を頼んだ。


「了解した。二人は蜥蜴を頼む」


 そう言い残すと、彼は風を纏って駆け出す。

 空を見上げても鳥竜の影はもう見えなかった。


「……神転」


 彼は誰にも見られていないことを確認し、神転する。


「解除」


 神転により迅雷の如き速度を得た彼は、鳥竜の姿が見える位置まで追い縋り、神転を解除して人間に戻る。

 魔物の視線の先には、大勢の人の気配が感知できる厩舎。


 間も無く、魔物があの場所へ辿り着いてしまう。


(間に合わせる……!)


 さらに魔力で速度を増強させ、次第に距離を縮めていくイージア。

 その直線上にある厩舎の扉が開く。

 中から出てきたのは、一人の少女。彼女は厩舎の扉を閉め、空から向かい来る魔物を堂々と見据えた。


 それから、魔術式を展開する。それは障壁の魔術。魔物の滑空を障壁で受け止めようというのだ。


(──不味い)


 イージアは瞬時に悟る。あの障壁では攻撃を防ぎ切れないと。

 あの鳥竜種の魔物は蜥蜴と戦えていたリグスが強いと言っていた以上、間違いなく蜥蜴よりも強力だが……あの障壁では蜥蜴の攻撃も防げない。

 最悪、貫かれて展開者の少女も死ぬ。


 鳥竜が狙いを定め、少女に向かって滑空を始める。


 彼は全力で速度を強化し、己の身体の到達を間に合わせんとする。

 鳥竜の嘴が障壁に触れる、刹那。


「彗星の撃、『月光』!」


 三日月形の風刃が地を薙ぎ、鳥竜を斬った。

 咄嗟の一撃だった為、魔物は軽傷を負う程度だったが、その一撃に後退し、脅威の対象を少女ではなくイージアに定めた。


「下がっていろ」


 彼はただ少女にそう促し、魔物と対峙する。

 鋭い目がイージアを捉え、鳥竜は威嚇するように嘶く。動物のような露骨な威嚇、そして警戒。魔物とは思えないその行動に、彼はエムティターに感じたかのような気味の悪さを覚えた。


 鳥竜は疾風の如き速さでイージアに尾を振るう。だが、相対する者もまたその速度を上回る疾風。

 尾を掻い潜り、一閃。鳥竜の装甲に中程度の傷と霜が出来る。この感触から、彼は鳥竜の装甲が地竜程度の耐久力だと判断する。


 鳥竜の啄みが彼の頭に迫る。それを流れるように往なし、魔剣を地に突き立てる。

 地の割れ目から氷が次々に生み出され、その刃が螺旋状に連なっていく。


「氷扇」


 連なった氷の刃は鳥竜を取り囲み、全方位から串刺しにする。ランダムに配置されたように見える無数の刃は、確実に鳥竜の全ての弱点を貫いていた。

 魔物は力なく倒れ込み、邪気となって霧散した。


 剣を納め、イージアは向こうの広場の方角を見た。すべて蜥蜴を倒し終わったかが気がかりだったが、ダイリードならば上手く片付けていることだろう。


「あ、あの……ありがとうございます」


 そこで彼は初めて後ろの少女の存在を思い出した。少し暗いブロンドの髪に、エメラルドの瞳。簡易的な旅装だが、武器は装備していない。おそらく旅人だろう。彼が生きていた時代に旅人などは殆ど見られず、娯楽目的の観光客ばかりだったが、この時代では未だフロンティアや国々を旅する者が数多く存在した。


「私はアリス・ル・ラフィリースと申します。凶悪な魔物から皆さまを守って下さったことに感謝します」


 彼女もまた、サーラライト族らしい。

 戦闘の収束とともに、厩舎から人々が顔を見せはじめていた。


「イージアだ。それで、先程の君の行動だが……」


「ええ、私では魔物の攻撃を防げなかったと思います。私には戦闘の経験なんてありませんから……無謀、でしたね……せめて時間稼ぎになればと思ったのですが……」


 彼女は魔物との力の差を自覚していた。にも関わらず、外に出て壁となることを選んだのだった。

 正義感が強いのか、それとも危機感が薄いのか……どちらにせよ、イージアの好きな行動ではなかった。


「……自分の命は大切にした方がいい。君が死んだら悲しむ者がいるのだろう」


 彼の返答に、アリスは虚をつかれた心地がした。


「不思議な、人……」


「姫様!」


 ふと、遠方から駆けてくる者があった。リグスだ。

 彼女は二人の元へ辿り着くと、息を切らしながらアリスの様子をたしかめた。


「姫様、ご無事ですか?」


「ええ、こちらの方のおかげで。リグスも大丈夫でしたか?」


「はっ。この……ニンゲンの仲間の大男と共に魔物は殲滅いたしました。お怪我がないようで何よりです」


 サーラライト族の二人の会話を聞き、気がかりな点があったイージアだが、これ以上聞くのも野暮かと思い聞かないことにした。

 二人が村人を避難させてくれたおかげで、村民は無事なようだ。


「旅の方々、村を守っていただきありがとうございます。我々が丁重にもてなさせていただきます……」


 村長と思わしき老人が三人に頭を下げる。


「まあ、リグス! もてなしですって……どんなものでしょうか?」


「ニンゲンの集落に滞在するのは不満はありますが……まあ、今日は良いでしょう。おい村長、このお方はボクの主だから決して粗相が無いように」


「はっ……では、村一番の宿へ皆さまを案内させていただきましょう」


 そんな会話をぼんやりと聞きながらも、イージアは別のことについて考えていた。


 リフォル教、教皇。名を『AT』。今はもう遠くへ逃げているだろうが……底知れぬ闇を感じた。何より、リフォル教の上層部に触れたのは今回が初めてのことであり、もっと情報を聞き出しておけば良かったと後悔が残ったのだった。


「おい、仮面男。何ボケっとしてる。行くぞ……一応、そこらのニンゲンよりはお前の方が信用できるからな。姫様を滞在中は守れよ」


「了解した」


「ちょっと、リグス! 勝手にこの方に護衛の命令をしないでください。それに、仮面男なんて失礼でしょう?ちゃんとお名前で……えっと……」


「……イージアだ」


 サーラライト族は学習能力が高いと聞いたが、その認識を彼は改めた。




 広場へ戻ると、ダイリードが崩壊した石材を撤去しているところだった。


「おお、ダイリード殿! この度は村を守っていただき、ありがとうございます」


「礼ならば、我が主たる創造神に祈りを。少し広場が荒れてしまったが……復興は大丈夫か?」


「はい、問題ありませぬ。ささ、今日はお疲れでしょう。宿をとりますので……」


 しかし彼は村長の言葉を遮り、


「いや。我は別の任に向かおう。気持ちだけ受け取っておこう」


 申し出を断った。

 そしてイージアに片手を差し出す。


「イージア。今回は世話になった。民を救う為に力を尽くすその志……見事なものだ。何か困ったことがあれば楽園へ来ると良い、必ず恩を返そう。汝に主の加護があらんことを」


 イージアもまた、厚き信念を持つ大男の手を握り返した。


「ああ、そうさせてもらおう。壮健で」


 彼は淡泊に別れを済まし、ダイリードと言葉を交わすサーラライトの二人を見届けた。

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