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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第2部 7章 讐火
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132. 過去に根付く不穏

 今、立つこの地が過去の世界(アテルトキア)


 それを確信した瞬間、イージアは得も言われぬ寂寞と安堵を同時に覚えた。喪った筈の故郷に来てしまったという不安を抱えながら、心安らぐこの地に足を踏みしめられるということ。複雑な想いが草原に吹く風とともに彼の胸中に萌したのだった。


「……それで、ここは何処だ」


「ここはバルビー王国に位置する村だ。あまり人が多く住む場所ではないな」


 バルビー王国。彼が生きていた時代には存在しない国だ。彼の時代に照らし合わせていえば、マリーベル大陸の南部、ルダン連合の端あたりに位置していた国のはず。


「なるほど。……と、この辺りだ。ここで大蜥蜴の魔物二体と交戦した」


 イージアが足を止めたのは、森と草原の境界部分。ダイリードは木々の幹に歩み寄り、魔力の残滓を確認する。


「たしかに、ここで戦闘があったようだ」


「ああ……そして、警戒しろ。流石に気付いているだろう」


 彼はいつの間にか剣を構えていた。ダイリードもまた、周囲から迫りつつある複数の邪気を察知していた。


「うむ……気配は消していた筈なのだがな」


「私も蜥蜴との遭遇時、気配は遮断していた。だが、奴らはどうやら温度に反応するらしい。あまり襲わない筈の熊にも飛びついていたからな……恒温動物を狙っているらしい」


 稀に気配の遮断が魔物に通用しない場合がある。そうした場合は、大抵特殊な察知器官を備えていることが多い。今回も例に漏れず、温度の察知器官が発達している類のようだ。


「なかなか鋭い観察眼だ。……そちらに二体、こちらに三体か。頼めるか?」


「問題ない。行くぞ」


 まだ深く関わった訳ではないが、ダイリードはこの男を信頼し、背中を預けていた。不審な身なり、道に迷ったという言い分、到底信頼できたものではないが……何か近しいものを彼に感じていたのだ。


 前方から迫り来るは三体の家程の大きさを持つ大蜥蜴。一角獣のような角を持ち、それを刺突武器にしてダイリードに肉薄する。

 まず、最前の蜥蜴の突進を片手で往なす。巨躯から繰り出される突進も、彼の前ではそよ風に過ぎない。


「ふんっ!」


 そして、飛び蹴りを腹に叩き込み、正拳突きを放ち、角をへし折る。

 二体目の蜥蜴が迫る。片足を勢い良く踏み出すと、周囲の地が揺れる。彼の適正属性は土……土魔術の応用的な扱い方だ。大地を盛り上がらせ、蜥蜴の体勢を崩す。その隙に回し蹴りを放ち、一匹目の蜥蜴と正面衝突させる。

 そして、とどめと言わんばかりに渾身の一撃を叩き込む。拳撃を叩き込まれた二匹は衝撃にくし刺しにされ、絶命する。


「残り、一つ……」


 無鉄砲に人間を襲う魔物にも学習機能はある。最後の蜥蜴は一旦足を止め、ダイリードの前に立ちふさがった。



 一方、イージアは同時に迫る二匹を迎え討とうと画策していた。

 彼が考え込んでいたのは、戦法ではなく、ダイリードからの視線。魔物との戦闘に魔術は必要不可欠だ。少なくとも、彼は魔術を扱って魔物の相手をしてきた。

 しかし、一般的に常人が行使可能なのは一属性まで。複数の属性を扱えば、もちろん怪しまれることになる。

 四葉(よつのは)のうち、どの属性を扱うか……暫く悩んだ彼だったが。


「風よ、我が身に宿れ」


 選んだのは、風属性。身に纏うことで移動速度を上昇させることができ、攻守バランスのいい属性を選択した。


 眼前、蜥蜴の角が迫る。構えるは、魔剣リゲイル。氷を操る魔剣だ。

 魔物の動きは単純明快。故に、技も、破滅の型も使う必要はない。単純な受け流し、これで蜥蜴の突進を流し、カウンターで一閃。間違いなく絶命に至る威力だ。傷口が凍てつき、身体内部を凍らせていく。

 続けざまにもう一体にも風刃を放つ。前脚から後ろ脚にかけて風の刃が貫き、二体の魔物を絶命させる。


 ふと、ダイリードの方を見やると二体目を倒し、残るは一体といったところ。

 彼は魔剣から氷を奔らせ、蜥蜴の足元を凍らせる。


「止めたぞ」


「ああ……ふんっ!」


 その隙にダイリードの剛撃が叩き込まれる。氷で地に張り付けられ、吹き飛ぶことすら許されない魔物は邪気となって霧散した。

 周囲を見渡し、敵影が無いことを確認する。


「イージア。お前はかなり戦闘慣れしているな」


「そう言う君こそ。素手で戦うとはな」


 イージアは何故、ダイリードが素手で魔物と張り合えるのかを知っている。普通の人間ならば素手では傷をつける事すら困難だろう。彼の師であるルカも、素手で戦えるのは魔族であったからだ。

 同じく、この大男は人ではない。


 『破龍』ダイリード。五大魔元帥の一角であり、かつて破壊神となる前の創造神の右腕だった神族。

 《破壊神の騒乱》にて龍神と互角に戦い、破った男。楽園から来たという時点で、イージアは彼がその(、、)ダイリードであると分かっていた。


 創造神が破壊神に変貌する前、其の神は人々を助け、数多の恵みを齎していたという。おそらく、彼はそんな創造神の命にて人を助けているのだろう。


「しかし、この魔物……たしかに人が相手するには重荷だ。我やお前のような戦士であれば問題は無いだろうが……生息域の変化でも起こったか?」


 生息域の変化。魔物が本来出現しない筈のフロンティアに生息するようになったり、新種の魔物が生息するようになったりすることを指す。

 だが、イージアはこれが天然の魔物だと考えてはいなかった。


「いいや、違うだろうな。これは何者かの手によって人為的に出現した可能性が高い」


「……なぜだ」


 ダイリードが問うと、彼はトントン、と靴のつま先で下を叩いた。


 「……?」


 その意図が分からず、首を傾げるダイリード。

 仮面を被った男は、表情を変えることなく告げた。


「この下に空洞がある。おそらく君が来た洞窟のどこかしらと繋がっているのだろう。そして……」


 ダイリードは屈みこみ、手を地面に当てて地中の気配を探る。


「これは……!」


「そう、人だ。数十の人の生命反応があるな。そして、邪気も。つまり、この下で魔物の研究か何かをしている輩が居るというわけだ。さっき地に氷を奔らせた時、違和感に気付いた」


「……魔剣か」


 かなり錬成された魔剣だ。小さな館が立てられる程度の値打ちはつくだろう。

 一体何者なのだろうか……彼はますます仮面の不審者を訝しんだ。しかし、その疑念に敵意は籠っていなかった。戦いに背中を預けた相手を疑うほど、彼は不肖者ではなかったからだ。


「で、どうする。地下の団体は」


 そしてまた、彼は平然と無関係なダイリードに手を貸してくれようとしていた。


「規模が不明だ。一度、村に戻るか?」


「少し覗き見していくだけならば問題はなさそうだが。ああ、君は大男だから辛いか?」


「……馬鹿を言うな。地下の団体が悪いものとは限るまい……そうだな、一見していくとしよう。それで……お前も来るのか?」


 ただの迷い人である彼に迷惑をかける訳にもいかない。ダイリードの人助けは主から命じられたものだが、彼の場合は完全な慈善となってしまう。


「いや、まあいいさ……実は今、金が無くてね。誰かに媚を売っておこうと思ってな」


「ふん……いいだろう。助力、感謝する」


 彼のその言葉が照れ隠しであることはダイリードにも分かっていた。

 だが、そこは流し……この戦士と今は協力することにする。何が下にあるか分からない以上、心強い味方は居た方が良い。


                                      ----------


「風は……こちらから流れているな」


 洞窟の気流を辿り、地下に繋がっている場所に見当をつける。

 奥まった通路のあたりから、風が流れているのを感じイージアは進む。


 行き当たりは一見すると何も無いが、その目はたしかに裏側にある空間を捉えていた。


「隠し通路か。私が先に行こう」


 人が二人ほど通れる通路が魔法による隠蔽で隠されていた。先行してイージアがその通路に入り込む。

 広い通路になるほど、人工の石畳が次第に天然の岩肌を侵食しはじめる。そして人工の灯りが見えてきた頃、前方に生体反応を二つ感じ取った。

 二名の人間が見張りをしているのだろう。


「…………」


 まだお互いの姿を視認していない状況、向こうから二人の存在は勘付かれていない筈だ。イージアはダイリードに目配せし、それぞれ左右に分かれる。

 そして、


「「……!」」


 同時に飛び掛かり、気絶させる。

 奥の人間に察知されることはなく、二人は見張りの鎮圧に成功した。


 倒れた見張りの服装を調べる。

 そして、ダイリードはその服装を見て渋面し、イージアは相も変わらず無表情のままだった。


「リフォル教、か……」


 ダイリードは厄介そうに呟いた。

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