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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
6章 共鳴アヴェンジホワイト
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異伝10. 英雄アルス

 灰色の慟哭、創世の器。


 度重なる灰の茨、天を覆い隠す歪みし混沌の因果。睥睨するは白き悪魔の面、麾下に置くは世界。

 ──創世主アテル。


 其をこの目で初めて見て、感じる。僕と力を共鳴した存在であり、絶対なる力を有する者。

 普段精神世界で触れ合っている「人間の心を模した者」とは決定的に異なる世界の中枢機関が降臨した。


「アテル……」


「こんにちは、アルス君」


 気が付かなかったが、異形の真下に人間体のアテルが居た。現実世界に存在するのはレーシャだと聞いているが、これは違う。直観的に、彼女の表情を見て分かった。いつも笑っている……そう、災厄の話をする時以外、絶えず笑っているのが彼女(アテル)だから。


「……どうした、そんな……本体まで連れてきて」


 僕の声は震えていた。この場で動いているのは僕とアテル、そしてロールだけで、現実世界の時間は止まっている。なのに、僕の冷や汗は止まらない。


「……うんうん。すごい功績だよ、アルス君! まさか災厄の御子を見つけてくれるなんて!」


 本当は彼女が何の為に降臨したのかは分かっている。

 ロールを殺す為だ。混沌の因果を持つ者……すなわち僕、或いはアテルが災厄の御子を殺せば、今世紀中に出現する災厄はすべて消滅する。

 だからこそ、今ロールは僕に『嫌われようと』していた。


「アルス君、共鳴(アンチスフィス)は解放できるね? やってごらん」


「……共鳴(アンチスフィス)、解放』


 ──ああ、できた。できてしまった。



 共鳴(アンチスフィス)は秩序の因果を持つ者にしか行使できない。

 つまり、僕には後ろに居る友……ロール・ライマを殺す権利があるということ。


 嘘であって欲しかったよ、ロール。



「よし、アルス君! その人間を殺せば全て終わる! 災厄はもう世界に降臨しなくなるんだ……残っている三体全てが!」


「ああ、そうだね……」


 僕は後ろを振り向くのが怖かった。

 後ろに彼女が居なければと、そんな非現実的な願いにも縋りたくなった。



 でも、振り向いた時。彼女はたしかにそこに居た。

 そして、笑っていた。



「うん……いいよ。私は、あなたに殺されるならそれで良い。どうせなら好きな人の手にかかって死にたかったし……ふふっ、なんだ。無理して嫌われなくても良かったんだね」



 笑うな。


 残酷な運命があったとしよう。

 決して抗えぬ因果があったとしよう。

 殺さねばならぬ友があったとしよう。

 世界の為に、愛する人を犠牲にしなければならなかったとしよう。




 ──僕は、諦めるか?




「……ロール」


 次第に彼女との距離が縮まっていく。

 その距離が近くなるほど、彼女との別れも近くなっていく。

 その度に、彼女の目からは……




「笑うな。泣くな」


「え……?」



 そんなに苦しそうに笑うな。そんなに嬉しそうに泣くな。




「君が笑うのは、幸せの中でしか許されない。君が泣くのは、悲しい時以外許さない。でも、君に幸せが訪れないことを、君に悲しい時が訪れることを、僕は許さない」



 だから。



「……君は、僕が護る」




 愛する者を護らない英雄が、どこに居る。



「アテル、お願いがある。今後の災厄は僕が責任を持って全て倒す。なんとしても、僕がもっと強くなって。だから、彼女を殺さないでくれないか」


 僕にできるのは、懇願。

 創世主に縋ること。彼女に命令できるなんて、敵うなんて思っちゃいけない。


「……でもね、アルス君。災厄ってのは本当に未知数だ。どれだけ力があっても、世界を滅ぼしかねないし、危険なんだよ。ここで全ての可能性の芽を摘めるなら摘むに越したことはない」


「それでも、お願いだ。ただ一度、一生に一度。聞き届けてはくれないか」



 彼女からの返答は無い。

 僕はただ、頭を下げ続けていた。



「……はあ、仕方ないね」


「っ、それじゃあ……!」


 これで、ロールは……




「うん、君もろとも災厄の御子を排除する。今世紀の災厄が消えるなら、君も用済みだからね」




 ……そうか。

 心なき者に、何を言っても無駄だったか。




「……ロール、逃げろ」



「え……で、でも……いいよ、アルス! 早く、早く私を殺して! そうしないと、アルスも……」



「愛する者を護らぬ英雄がどこに居る。……君の想い、たしかに受け止めた。そして、僕もその愛に応えよう」



 眼前、人型を模したアテルが消えた。



 そして、異形が動き出す。



共鳴(アンチスフィス)、拘束解放。敵は眼前にあり……! さあロール、行け!」


『愚かな……蒙昧たる者よ、汝の命を失ってまで一命を護るか。その愚昧、我が世界に不要』


「はは……随分と偉そうに喋るじゃないか、アテル。その話し方、ジャイルみたいだね……っ!」


 魂が悲鳴を上げる。

 秩序の因果を持つ者以外に共鳴(アンチスフィス)を行使した時、この身は滅ぶ。それが大きすぎる力の枷だ。だが、消えるまでの間……時間を稼ぐことはできる。己と同等の力を持つ者を創世主といえど無視はできないはず。



「ロール、逃げるんだ! 早く!」


『赦さぬ』


「ぐうっ……!?」


 すさまじい灰の波動が僕らに向けて放出される。

 ランフェルノの一撃なんて児戯に思えるほど、強い。きっとこれでもまだ全力ではないのだろう。



 分かってる。創世主の支配下にあるこの世界に逃げ場なんて無いことも。ロールがきっと、ここから逃げないことも。



「アルス、いいの! もうやめて!」



 波動が次第に僕の身を侵食していく。

 もう、持たない。でも……ここで僕が諦めれば、後ろのロールはこの灰に呑まれて死んでしまう……!




「やめない、やめないよ! 僕は、僕は……見つけたんだ! 守りたい人を、愛する人を! こんな運命のせいで、捨ててやるものか!」



 創世主の共鳴者の前に、一人の人間(アルス)として。

 騎士ヘクサム・ホワイトの息子として。

 ロールの親友として。



 立ち向かわねばならない。




「僕はッ……! 僕は、君の英雄だから! 君だけの英雄だから! 負けない、負けたくない!」



 波動はますます強くなっていく。

 希望なんて無い、逃げ道なんて無い。




 僕が彼女を護る最後の盾だ。彼女が居なくなれば……僕は本当に孤独(ひとり)だ。

 だから、誰でもいい! 災厄でも、神でも、誰でも良いから……ロールを助けてくれ!



「もう、いや……! 誰か、誰かアルスを助けて……! 私じゃ、私じゃ何も……」



 意識が薄れていく。身体が死んでいく。

 魂が、滅んでいく。




 駄目だ、死ぬな僕!


 ここで、死んだら……! 彼女を……守ら、ない、と……



『今、混沌の勝利を告げる。愚かなる災厄の御子、共鳴者を排除。世界は我が下に巡る……』




                                      ーーーーーーーーーー



 世界(アテルトキア)から灰が消える。

 色が取り戻される。穏やかな時が流れ出す。



 夕陽はただ静かに、《誰も居ない》高台を照らし出す。

 彼らが歩んだ軌跡(異伝)は混沌に包まれ、世界から姿を消した。




「折り重なった願い、聞き届けました。我らが救済の因果は、心の為に。アルスさん、ロールさん……私はお二人がたしかに居たことを忘れません。どうか、幸せに……そう願ってしまうのは、私の傲慢でしょうか」




 



 

第1部完結です。

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