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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
6章 共鳴アヴェンジホワイト
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129. 世界のゴミ

 災禍が舞い、神々の咆哮が木霊する。

 マリーベル、リーブ、アントスの三大陸に囲まれた神域。その上空にて、第二災厄ラウンアクロードとその眷属が神々と争っていた。

 大陸の端々は抉れ、海は割れ、天地は絶えず鳴動する。世界の終焉を思わせる事象に、人々は為す術なく祈りを捧げていた。


 数多の生命が既に失われている。

 そして、僕の友も、家族も。


「ラウンアクロード……ッ!」


 ヤツは未だ円環の中心に座し、動く気配は無い。いや、むしろ周囲の円環と巨大な装置のようなものが本体なのか。

 どちらにせよ、全てを粉砕し殺すまで。


 ジャイルの咆哮により、眷属が吹き飛ばされる。もはや躊躇っている余裕は無い。


 剣を幾度も振るうが、周囲の円環が生物のように動き回り、それを防ぐ。

 竜のような顔を模した砲口から、ヤツが纏う蒼いオーラが放たれる。


「チッ……」


 躱した砲撃は海を貫き、神々が張った結界を貫き、大陸を二つに分断した。

 天に届くまで溶岩が吹き上がる。


「やめろと、言っている……!」


 ルーリーが円環に纏う結界を噛み砕き、僕がそこを剣で斬り裂く。

 破壊を確認した。円環の耐久力自体はそこまで無い。


「皆さん、攻撃を続けてください!」


 ゼニアが天へと舞い上がった溶岩から大地を守る為、空を翔る。追随する眷属を斬り援護に回る。天を不思議な光が包み込み、一瞬にして溶岩が消え去った。


 安心したのも束の間。

 オーラが、ゼニア向けて放たれた。


「ッ……ゼニア!」


 彼女は躱し切れない。そう判断した刹那、彼女の前方へ転移し攻撃を受ける。


「…………!?」


 だが、防ぎ切れなかった。もう一つの砲撃がゼニアを貫く。そして、僕もまた貫かれ地上に落ちる。

 クソ、もう世界は跡形もなく砕かれている。早く決着を付けないと……世界が滅ぶ。


「ぐ……はあっ」


 創世主の護りを以てしても重症だ。ゼニアは、おそらく……


 その時、聞き覚えのある声が響いた。


「……まずいことになったね。このままでは……」


「レイアカーツ……! 何か、ヤツを倒す術は無いのか!? このままでは……世界が」


 災厄の御子である彼女ならば、攻略法を知っているかもしれない。

 彼女は天に鎮座するラウンアクロードを見上げ、首を横に振った。


「……残念ながら。だが、君の元へ辿り着けたのは僥倖だ」


「どういうことだ?」


「今こそ、私を殺してくれ」


「は……?」


 もしかして、彼女を殺す事でヤツも消える?

 でも、そんなことは……


「私を殺しても、アレは消えない。だが、私が混沌の因果を持つ者以外に殺されるようなことがあれば……どうなるのかは説明したね? 私がラウンアクロードに殺された場合、残り二つの災厄もこの世界に召喚される。それだけは避けなくてはならない」


 天を白光が包み込んだ。

 その光に貫かれ、ケウベインが神気となり霧散するのが見えた。秩序の因果を以てすれば不死性を持つ神族をも消滅させられる。ゼニアに続き、ケウベインも……


「さあ、急げ。他の神族もやられてしまうぞ! 私を殺すんだ!」


「き、君は……災厄の御子なのに、災厄に攻撃されるのか!?」


「ああ、そうだ。私とて弱くは無い。だが数多の災厄を召喚し、見てきた私だから言える。あの災厄は、危険極まりない。さあ、アルス」


 一度、殺さぬと誓った者を殺せと……そう言うのか?

 僕は、僕には……


「アルス・ホワイト! 君の心は弱い。弱いからこそ、強き私に今は従え! リンヴァルス帝国始祖として、君に命じる! 私を殺せッ!」


「……ッ」



 まるで、ランフェルノを殺した時のような……そんな《感覚》と共に、彼女を斬る。

 これで、第三災厄と第四災厄を殺したと同義。


「ふふ……ありがとう。この世界を……頼んだよ。私の、英雄……」


 どうして、僕の大切な人ばかりが死んでいく?

 どうして……


「アルスよ、我は世界の守護に徹する! ルーリーと共に攻撃を!」


 空中に戻ると、ジャイルが叫ぶ。

 もはや世界の大陸は粉々に砕け散り、人が生きているのかも疑わしい有様だった。でも、彼が世界を護るということは、まだ命が、希望があるということ。


 ならば、まだ負けてはいない……!


「ルーリー、合わせろ!」


「おう、さっきと同じ要領でな!」


 大狼姿のルーリーが円環に纏わりつくオーラを払い、僕が攻撃を当てる。この流れさえ維持できれば、勝てる。

 ルーリーが蒼きオーラを払いのけ、神剣を振るおうとした刹那。


「攻撃パターンを検出します。対策を構築...成功。 6番目の武器と反撃を起動します」


 沈黙を貫いてきたラウンアクロードが口を開いた。


「これはっ……!?」


 蒼のオーラが、紫に変化し……


「あかん! アルスッ!」


 紫のオーラは僕とルーリーを分断、そしてラウンアクロードの円環が分裂し互いに無数の砲撃を放った。

 今まで障壁を展開することでかろうじて防げていたオーラの秩序の力が、更に増している。


「マ、マズ……ああッ!」


 押されているところに、背後から追撃。躱し切れな……



「何をしておる、貴様。神族たる者が心を乱し過ぎだ。よいか、アヤツは《学習》しておる。故に、同じパターンの攻撃は通用せん」


 攻撃を防ぎ、僕に助言を授けるものが居た。

 レーシャが用意したアーティファクトの身体、放たれる神気。


「虚神デヴィルニエ……あ、ありがとう。学習、か……」


「……ルーリーは死したようだな、流石に防ぎ切れなかったか。残るは私、貴様、ジャイル。ジャイルは防衛に割かれて助力は期待できんか……災厄もたしかに傷は負っている。軽くは無い傷をな」


 これで三柱目の神族が死んだ。……もう、後戻りはできない。


「では、このまま手段を変えて攻め続ける。各々が動けるように動く。これでいいかな」


「問題ない。私は仮初の身体だが……戦には自信がある。ゆくぞ」


 デヴィルニエと共にラウンアクロードへ向かう。蒼のオーラと紫のオーラ。まずは何が違うのかを見極め……


「はあっ!」


 ──脆い。蒼のオーラよりも破壊力は上だが、耐久性が落ちている。

 ヤツはもはや『睡眠病』により造られた眷属も全て消費した。あとは、ヤツを殺すだけ。


「ふむ、災厄にしては戦闘力自体は低い。世界にはとんだ傷を残してくれたようだがな」


 彼は円環を往なしては砕き、往なしては打ち払う。

 流石は古の神といったところか。戦闘能力はきわめて高い。


 僕も彼に続き、神剣にて円環を斬る。もう少し、もう少しで中心の人間の形の部分に届く……!


「状況の悪化と敗北の要因を確認した。Grand Dordrinを起動します」


「用心せよ! 何か来るぞ!」


 ラウンアクロードの言葉と共に、膨大な秩序の力が満ちる。



 ──不味い。何か、とてつもないものが来る!



 溢れ出したのは、虹色のオーラ。

 それは、ラウンアクロードの円環でもなく、本体でもなく……


「馬鹿なッ!?」


 冷静に事態を俯瞰していたデヴィルニエさえもが、驚愕する。

 地上から溢れ出した虹色の光が、世界を貫き──



「『龍結界』ッ!」


 ジャイルが全霊の咆哮を上げ、結界を最大強度に練り上げる。

 しかし、


「オ、オノレッ……! アルスよ、あとは……」


 ジャイルもろとも、世界の総てを包み込み、破滅を齎した。


 絶望。虹色の光は絶望の光であった。

 微かに感じていた生命の気配も、遥か遠くに眠っていた破壊神の邪気も、総てを呑み込んで。



 破滅へと導いた。



「間に合わなかった……と言うのか……」


「おのれ……そこの神族! せめて彼の災厄だけでも殺さねば! この怒り、鎮まらんぞ!」


 デヴィルニエは激昂し、ラウンアクロードへ向かっていく。


 僕には、そんな気力無かった。もう守るものが無いのに、どうして戦う……?

 きっと彼はこの世界の神として、僕よりも深く世界を愛し、想っていた。だからこそ、感情を昂らせ、ラウンアクロードに挑み……



 そして、死ぬ。

 彼は、僕がサポートしなかったせいで虹色のオーラに貫かれて死んだ。


 そうだ。アレには敵わない。

 きっと、敵わない……僕一人でどうしろって言うんだ?


「カオスの消失とクリエーターズボードのコントロールが確認されます。次の世界への移動を開始します。また、けがから回復するには、時間軸をシフトしてスリープモードに移行します」


 絶望に打ちひしがれる僕を前に、ラウンアクロードは攻撃を仕掛けてこなかった。

 半壊した円環から断層のようなモノが創り出され、そこへ呑み込まれていく。


「ま、待て……逃げる、な……」


 どの口が言うんだ。

 逃げたいのは僕じゃないか。逃がしたくないなら、追撃すれば良い。しろよ。


 でも、動かないんだ。もう守るものが無いのに、自分の命まで失う必要があるのか?


 アイツが別の世界に行くんだったら僕の命は助かる。別世界の奴らのことなんて知るもんか。


 早く、行け。

 はやく、行ってくれよ……! 怖いんだよ!お前が怖い!


「さようなら、アルスホワイト。拾った人生を使うのはいいですね」


 そんな侮辱……いいや、労いを残して。

 奴は時空の狭間へ消えていった。

 足場が無い。命が無い。一面海、夕焼け空。ただただ、夕陽が海に煌めいて、僕一人。



 跡に遺ったのは、(ゴミ)だけだった。



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