表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
6章 共鳴アヴェンジホワイト
137/581

128. ごめんね

 《敵意》を持つその者は、僕に気付き虚ろな瞳を向けた。

 深緑の髪、紫紺の瞳。少年の形をした何か。


 それだけ。それだけの筈なのに、


「…………」


 僕の身体は、震えていた。


「こんにちは、私の名前はRaun Acrodeです。あなたの名前を教えて」


 目の前の者はそう告げた。


 僕には分かる、この震えの理由が。

 僕には分かる、今何を為すべきかが。

 僕には──分かっていた。コレの言葉に応えてはいけないと。


「僕は……僕はアルス・ホワイト」


 でも、名乗ってしまった。「対話」を試みてしまった。


「うん、はじめましてアルス。私に何が欲しい? どうやら君は強く見える」


 身体の底から、鳴動が止まらない。


「君は……君は、何の目的でここに居る?」


「私はターゲットを破壊するためにここにいます。さて、それが今の準備段階ですか?  ……ええ、強い人と戦いたいですか?」


 眼前のモノの言葉が分からない。

 だって、これは──


『アルス君! アルス君、聞こえてる!?』


 頭にアテルの声が響く。

 聞こえてるよ、聞こえてる。でも、動けない。もしも今、僕が眼前のモノ以外を見据えれば。


「君には……世界を滅ぼす意思があるか?」


 ──これは、この世界の存在じゃない。


「ああ、なるほど。あなたは私が誰なのか知っているようです...それから除外するものは他にありません」


 言葉は完全に理解できないが、明確に、僕に敵意が集中した。


共鳴(アンチスフィス)──解放。受贈(リンヴル)、ゼニア」


 其は、第二災厄ラウンアクロード。


「カオスの原因と結果を確認します。はは、あなたですか? あなたはクリエイターだったようです。いいえ、または...」


 混沌を纏わせた一撃は、ラウンアクロードの不可思議な障壁によって阻まれる。

 この、一撃を……届かせねば!


「結局のところ、それは創設者にとってもろいです。あなたの対戦相手は私ではありません...今が目覚める時です。計画を実行しましょう」


「ッ……!?」


 一撃が空を掠める。

 そこに、ラウンアクロードの姿は無かった。


「どこへ消えた……!?」


 周囲にすら反応は無い。


「アルス君! 呼ぶよ!」



 瞬間、精神世界へと強制召喚される。

 そこにはアテルのみが居た。


「今接敵したね、第二災厄だ! 君が遭遇したのは分体……本体は神域上空に居る。これを見てくれ」


 アテルから見せられた光景は、想像を絶するものだった。

 空を覆いつくす、得体の知れない物体。円盤がいくつも連なり、纏うは蒼きオーラ。中心に先程見たラウンアクロードの分体が鎮座している。周囲のモノは……生き物、なのか?


 それを取り囲むかのようにジャイル、ゼニア、ルーリーが空を飛んでいた。


「これが災厄が世界に直接召喚されるということだ……こうしたケースでは、甚大な被害は逃れられない。以前のような生温い災厄とは違う! さあ、今すぐに戦いに行くんだ!」


「わ、分かった……行ってくるよ!」


 早く、急がなければ被害は大きくなってしまう。

 精神世界を飛び出し、再び路地裏に戻る。


 そして、災厄を討つ為に飛翔しようとした、刹那。


 ザッ。


 背後から足音がした。そして、秩序の因果も感じて。僕は振り向く。


「…………あ、」


 背後には、剣をこちらへ向けた──


「マリー……?」


「…………」


 いや、違う。


 そこに、魂は無かったから。


 最悪のケースが脳裏を過る。

 『睡眠病』。それは、ラウンアクロードと共に世界に蔓延し始めた。

 そして、目の前のマリーは……


「急がないと、いけないんだ。君はここで待っていてくれ。ラウンアクロードを倒せば、きっと……ッ!」


 鋭く、剣が振るわれた。

 共鳴(アンチスフィス)しているこの身にさえ、傷を負わせる一撃。それは、彼女が秩序の因果を持つからに他ならなくて。


「クソッ……!」


 僕の飛翔にすら追随し、追撃が迫る。

 このままでは……



 ──彼女を、殺さなくてはならない。



「諦めるものか!」


 彼女を無理やり振り払い、空を駆ける。

 だが、


「……!?」


 無数の、秩序の因果を持つ者が僕を取り囲んだ。

 皆、瞳を蒼く光らせ、明確な「敵意」をこちらへ向けて。マリーとて、例外ではない。


 どうする、どうすれば良い!?

 この人たちはきっと、ラウンアクロードに眠らされて……操られている。

 無辜の人々を殺す訳には……


「グアッ……!」


 無数の攻撃が迫り、躱し切れずに被弾する。

 嫌だ、いやだ……


「やめてくれ……!」


 逃げられない、逃がされない。

 もはや彼らは秩序の眷属となり、僕を完全に排除しに来ていた。


 逃げる、逃げ続ける。

 この調子でラウンアクロードの元へ行き、すぐにヤツを殺せば──


「……!」


 目の前に、無数の矢が降り注ぐ。

 その矢は複数の属性が折り重なっていた。


「マリー! 分かるか、僕だ! すぐに、すぐにお兄ちゃんが助けてやるから、だか、ら……」


 ああ、彼女の目はヤツと同じように虚ろだ。

 真っ直ぐに、こちらへ向かって走って来る。


 刺突の構えだ。その剣技は、最近僕が教えたもので……


「……え」


 その剣先が僕の胸に届く直前、嵐のように何かが僕とマリーの間を塞いだ。


「何を、している……それはもう、マリーではないのは分かるだろう。感情に流される、なんて……お前らしくもない」


「……アリキソン? 血が……」


「クソ、何だ、この傷……ふさがらない……おい、アルス……逃げ……」


 首が飛んだ。


 飛ばされた。マリーの形をした、ソレの剣によって。



「あ……? おい、アリキソン?」


 生首が転がっている。僕を見ている。

 血が噴水のように僕の頭に降り注いだ。



 ああ、人はこんなにあっけなく死ぬのか。



 彼は僕みたいに不死性を持たない。でも、彼は強くて、ずっと僕よりも立派で──



 再び、秩序の眷属が動き出した。


「マリー、じゃない。君は……マリー、じゃない。そう、そうだ……あの娘は優しい。だから、誰かを殺さない。そうだよね、マリー……マリー……」


 生前の彼女よりもずっと強くて、一撃を振るう度に地割れが奔って。でも、それは彼女の生が生み出した力じゃない。


「君を……殺す」


 本気になれば呆気なかった。アリキソンが死んだ時みたいに。

 所詮は災厄の一眷属に過ぎない。創世主の力を持つ僕からすれば、赤子の手をひねるよりも簡単だったよ。


 僕の神剣が彼女の胸を貫いて、血が溢れて。苦しそうな声をちょっと上げて。




 ──死んだ。殺した。



「……………………」


 急がないと、いけない。はやくアイツを倒さないと。


 でも、少しだけ。少しだけ、彼女の亡骸を抱かせてくれ。

 共鳴(アンチスフィス)で力を得ても、心は強くなれないんだ。



 虚ろな、さっきとはまた違う虚ろな瞳がそこにあった。

 今の彼女からは、秩序の因果は感じない。



 なあ、マリー。



 君は、幸せに生きられたかな。



 いやだ。逝かないでくれ。



 僕は、また一人になる。



 ……災厄(アイツ)を、殺さなきゃ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ