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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
6章 共鳴アヴェンジホワイト
132/581

123. バカンス

 どこまでも広がる鮮やかな空と海。磯の香りがほんのりと漂い、さざ波の音が心地よく響く。波が浜辺に押し寄せては引き、湿った土の跡を残していく。

 僕が住む内陸のディオネでは、なかなか見られない光景だ。


「っしゃあ! 俺が一番乗りでいくぜ!」


 タナンが勢い良く海に飛び込む。水しぶきが上がり、小さな波が起こる。

 他の人の迷惑は……考える必要が無い。貸し切りだからね。


「わー、私も入ろー!」


 ユリーチも続いて飛び込む。無邪気にはしゃぐ彼らを、マリーは呆れたように眺めていた。


「マリーは行かないの?」


「行くけど……タナンには近づきたくないです」


 タナンは水中での訓練とか言って、軽い津波ができるレベルで暴れている。別に神族なんだから水圧を無効化すれば良いと思うんだけど……彼曰く、「この人間の姿で強くなることに意味があるんだぜ!」とのこと。

 何となくその気持ちはわかる。ゲームで強くなる感覚だよね。


「マリーさん、行きましょう! ルチカも、ほら」


 皇女殿下が二人を誘って海へと向かっていく。

 僕はその後ろ姿をしばらく眺めて、海へ入ったのを確認する。


「よし、アリキソン。例のアレは持ってきたな?」


「ああ、もちろんだ。携帯魔眼のカメラなんかじゃない……一級品をな。今日この日の為に、雷速で動きながら撮影するスキルを身につけたぞ……!」


「さすが我が友、心強いな! 僕が持ってきたのはかなりお高い一眼レフ。水霧の魔術でカメラを隠蔽しながら撮影するスキルを身につけてきたぜ」


 まさに神能の無駄遣い。いや、有効活用。

 これから行うのは、水着ではしゃぐ皆(タナンを除く)を撮影しよう大作戦だ。協力者はアリキソン。

 もちろん、プライバシーの観点から誰かに見せたりはしないが、一応撮影しとく必要があるのだ。一応。思い出作りの為に、一応。


「よし、それじゃあ作戦を開始……」


「ご主人様」


「「!?」」


 背後を取られたッ!

 アリキソンも何が起こったのかと咄嗟に振り返る。


「ル、ルチカ……あれ? さっきマリー達と海に行ったよね?」


「こちらは幻影でございます。海に入られないのであれば、お茶をご用意しようかと思いまして」


 なんだか彼女の視線がいつもより冷ややかな気がする。気のせいだよね。


「い、いや……これから泳ごうと思ってたんだ! 行くぞ、アリキソン!」


「お、おう!」


 僕らは逃げるようにしてその場から駆け出す。

 思わぬ伏兵が潜んでいたな……まさか使用人に邪魔されるとは。


「おい、どうする? このまま撮影を実行するのか?」


「くっ……いや、やめておこう。今度ルチカが居ない時に挑戦するぞ」


 こうして僕らの撮影作戦は失敗に終わった。


                                      ーーーーーーーーーー


 遊んでいると、あっという間に昼時になる。

 海の家に行き、お昼を食べようという話になった。


 ここでは捕りたての魚が食べられるらしい。目の前にはパチパチと音を立てる火に魚が炙られている。


「これが魚の全体像……実物でははじめて見ました。お城では切り身の状態でしか見たことがなかったので」


 皇女殿下が興味深そうに魚を眺める。

 ……魚を見たことが無いって、すごいな。箱入り娘というやつか。


「あれ……でも、リンヴァルスは海がありますよね。漁獲量も比較的多い国だと心得ておりましたが」


「ええ、ですが私は殆ど外に出ていなかったので、お城の食事でしか見たことがなかったのです。これまで国賓として外国に出ることなどはありましたが、アルス様に師事することで本当の民の暮らしに触れた気がします。こうして旅行するのも、楽しいものですね」


 彼女には彼女なりの悩みがあるのだろう。冒険家を志す身でありながら、皇女という身分に縛られて外の世界に触れられない……辛いことだろう。

 だからこそ、彼女にディオネで僕に師事することを認め、旅行に連れて来たのは正解だったのかもしれない。


「なるほど、では存分にお楽しみください。……そろそろ焼けたかな?」


「おうルス兄! それ食っていいか?」


 タナンが目敏く魚を奪いにやってきたぞ。


「これは殿下の……」


「いえ、私は後でも良いですよ。どうぞ、タナンさん」


「おう、サンキュ!」


 随分お優しいことで……為政者に向いている性格では無いのかな。まあ、冒険家を志すなら良いんだけど。優しさが彼女の長所でもあり、短所でもある。

 まあ、僕がとやかく言う事ではないな。


「次が焼けましたよ。はい、どうぞ」


 焼け上がった魚を殿下に渡す。


「ありがとうございます、いただきます。……ふふ、とてもおいしいですね」


 彼女は皇女という立場を忘れて、一人の少女として笑ってくれた。



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