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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
6章 共鳴アヴェンジホワイト
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121. 受災

 新緑薫る、夏の日。烈々とした日差しが降り注ぐ中で、僕は愛する人との別れを迎えていた。


「それじゃあ、またねアルス君。次に会えるのはいつか分からないけど……」


「うん。必ず、また会おう。ずっと待ってるから」


 レーシャは創世主(アテル)となって世界の中心……灰の砂漠の精神世界に帰っていく。しばらく会えなくなるのは悲しいけど、これが最後じゃない。


「じゃあ、アルス君……えっと……あ、愛してるよ」


「僕も愛してるよ」


 何食わぬ顔で言っているが、僕の心臓はこれまでになく高まっている。

 レーシャもかわいらしく頬を染めているが、僕も似たような状態だろう。傍から見たら、きっともじもじした二人組に見えて滑稽なことだろう。




 彼女が去った後、懐から一通の手紙を取り出す。

 差出人は──


「やあアルス・ホワイト。息災で何よりだ。ランフェルノには殺されなかったみたいだね」


「こんにちはレイアカーツ。手紙を受け取って参上したよ」


 訪れたのは、始祖の宮殿。

 紅茶とお菓子が置かれたテーブルの、彼女の向かい側の席に座る。


「今回招集された内容が単なるお茶会であることを願いたいけどね」


 はあ、と彼女は溜息をついて肩肘をついた。


「残念ながら、災厄を召喚しようと思うんだ。もっと遅らせることもできるけど、そうする?」


「いや、災いの芽は早いうちに摘もうじゃないか。喚んでくれて構わない」


 ちょうどレーシャも創世主(アテル)に帰った頃だ。今なら災厄の降臨を感知できる。


「ランフェルノは弱い、というか世界への影響が極めて少ない災厄だったらしい。次はどうなることやら」


「さあ、それは私にとっても未知数だ。だが……ランフェルノは、はっきり言って災厄の中では子供のような存在だったね。『喪失』……それを世界に齎さなかった。第一災厄スロンルフルは人間を含むあらゆる生命種……数十億の命を殺戮した。第五災厄メロアミルスは星々を消し飛ばし、この惑星から光を一時奪った。そして第七災厄邪剣の魔人は豊穣の大地を不浄の大地に変貌させ、封印後も深奥から世界中の魔物を邪気によって強化し続けている。次の災厄はランフェルノほど甘いとは考えない方が良い」


 そうだ、『喪失』。それをまだ僕は経験していない。

 失う覚悟は出来ている……と、自分では思っているが実際に経験してみないと分からない。大切な人が死ぬかもしれないし、大陸が消し飛ぶかもしれない。まあ、何も喪わないように被害を防げるのが最善の結果なのだが、そう思い通りにはいかないだろう。


「『重なりし亜空より出づるは混沌の使者。地に這う意思を喰み、白灰に牙を剥く。眠り姫、心喪いし戦駒は惨劇を生み、汝らの無力を示す』……次なる災厄、ラウンアクロードの予言だ。どうなることやら」


「眠り姫、心喪いし戦駒は惨劇を生み、汝らの無力を示す……この一節は知らないな。推論したところで何かを防げるものでもなさそうだけど」


「これで伝えたい用件は終わりだ。健闘を祈る」


 そう言って彼女は紅茶を一口飲んだ。

 僕もまた、お菓子を一口手に取る。


「そういえば、君が出すお菓子って美味しいよね。やっぱり高級ブランドなんだろうな」


「いや、私の手作りだよ。材料は高級品だがね」


「えっ、そうなんだ……! すごい腕前じゃないか」


 僕が作るお菓子とはレベルが違う。ただ、林檎料理だけは負けるつもりはない。


「ははっ……嬉しいね。こうして宮殿に閉じこもっていると暇で仕方がない。五千年の引き籠り、その道のプロになると大体のことは趣味で修めているとも」


「なるほど、引き籠りの大ベテランか。僕も両親が亡くなった時、引き籠りになりかけたが……ルチカにも支えられて、一応健康的な生活を送るようになったね」


 あの頃の僕は酷かったものだ。何をやるにも無気力で、出不精。そんな折、使用人として目の前の彼女からルチカが派遣されて来て、料理を作ったり、健康管理をしてくれるようになった。

 今にして思えば、彼女が居なければどうなっていたのだろうか。きっと不潔で堕落し切った生活をしていたに違いない。


「彼女が貴方の役に立ってくれたようで何よりだ。私のもとで教育した甲斐があったね。……まあ、彼女が居なくなって、今度はこちらが堕落した生活に戻りつつあるが」


「他の使用人は居ないの?」


「居ないよ、ルチカだけが我が使用人だ。使用人を多く雇うと、我が情報が流出する可能性がある。始祖は神秘性を保つ必要があるんだよ……少なくとも、私が災厄を全て召喚し切るまではね。下手に表舞台に出ると、創世主に殺されかねない。君に殺されるのは本望だが、アレに殺されるのだけは御免だからね」


 まるでアテルを知っているかのような口ぶりだな。それとも本当に会ったことがあるのか?

 彼女はアテルを随分と嫌っているみたいなので、話題に出すことは控えるべきか。



 他愛もない話を続けた後、席を立つ。


「さて、君もバトルパフォーマーの仕事で忙しいと思うが、頑張ってくれ」


「いや、そこまで忙しくないかな。まあ頑張ってはいるよ」


「では……次なる災厄、ラウンアクロードが間もなくこの世界に降臨する。健闘を祈るよ」


 始祖の祈りを受け取り、宮殿を後にする。

 遥かなる高みに佇む宮殿の回廊に吹く風は、少し生温かった。


                                      ----------


『……目的地に到達。盤上世界アテルトキア。生命反応を確認、混沌の因果を確認。魂の深奥回路をスキャン開始。プラン実行開始』

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