異伝7. 聖騎士
天地が鳴動し、大気が揺れる。
シィーメ峡谷から現れた怪物。いくつもの触手を持つ緑色の球体。邪気を持っていることから魔物と推測されたが、未確認の存在。異質極まりないモノが、首都ディオネに迫っていた。
「隊長、標的が迫っています」
「……君達は下がっていろ。僕が方を付ける」
騎士アルス・ホワイトは最前線に進み出て、手に持つ槍を構えた。
「──穿つは栄光の霓天不敗。『穿魔の鬼』」
投擲した槍は、真っ直ぐに其へ向かっていく。
ただの投擲、されど強さを求め続けた者の投擲。心を、友情を、愛を、全てを騎士の矜持と民の安寧に捧げてきた者の技である。
槍は緑壁を穿ち、内部の悉くを貫き、反対側の壁から出てアルスの手元に戻る。
数秒後、大爆発。貫かれた球体は急所を穿たれたのか、たまらずに爆発四散した。
「標的、絶命を確認! 流石です、アルス殿!」
「中心に生命活動を感じた。そこを狙っただけだよ。……帰ろうか」
数日後。
「アルス・ホワイト。貴殿の功績を称え、聖騎士に任ずる! 今後とも国の為、民の為に励むよう」
「はっ! 謹んで頂戴いたします!」
国王から騎士剣を受け取り、跪く。アルスは聖騎士の叙任式の主役となっていた。
怪物を単騎で討伐したばかりではなく、彼は獅子奮迅の活躍を見せていた。
「さすがはヘクサム殿の息子だ……」
「神童と謳われただけのことはあるな。将来はこのディオネを担う存在となるだろう」
周囲の者は口々に彼を称賛するが、有象無象の声は彼の耳には入っていなかった。
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シエラ山、山頂。
かつて僕が晴天の試練を受けた地だ。幾度もこの地を訪れ、道程にも慣れたものだ。
空間が歪む。そこは、精神世界。上も下も晴天、奇妙な浮遊感が最初に来た時は気持ち悪かった。
「また来たか。なあ、お前晴天の試練覚えてんのか?」
入った途端、戦神にそんなことを聞かれた。
晴天の試練、か。正直あまり覚えていないし、覚えておく必要性を感じなかったから忘れた。
ただ、
「あの時、貴方は僕はもう十分強い……そう言ったのは覚えている。でも、僕はまだ弱い。昔とは背負うものが違う。見据えるものが違う。……故に、今日も一手指南を」
「はあ……まあいいけどよ。いつまでここに通うつもりだよ」
「無論、貴方を倒すまで」
戦神の武器は槍。だから、僕の主力武器も自然と槍になった。戦神よりも強い者が居ればその者に師事するが。
漠然とした何もかもを振り払うのは、力のみ。強さを、戦を究めし神に求む。
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災厄ランフェルノ討伐後、ディオネに政変が起こる。
祭事にも関わらず騎士として王城の警備に当たっていたアルスは、王城に結界が張られたことを誰よりも早く察知した。
「神聖国王を騙る不敬者、陛下に仇為し民を苦しめた『修羅』とやら、そして──」
眼前、天を衝く紫の巨人。
濁った瞳を其に向け、彼は殺意を滾らせた。
「虚神デヴィルニエ。旧き神の時代は終わった。死者は死者らしく、眠っているが良い」
虚神が放つ絶対重力を左足を踏み込むことで打ち払い、槍を構える。
「不敗、絶対、完全、最強。力は我にあり──『穿神の王』」
一穿。その一撃は神をも貫く。
神定法則『不敗の王』。戦神の操る権限を継承し、戦意を力に変換する能力を得た彼は、神をも穿つことが可能だった。
貫かれた虚神は言葉すら発することなく、絶対強者の前にひれ伏し消滅した。
「ディオネ神聖王国は、霓天アルス・ホワイトの手によって救われた! 英雄の功績を称え、貴殿を聖騎士第一位に任命する!」
「……はっ。この上なき幸せ。今後も民の為、陛下の為に精進いたします」
感慨は彼の胸中に無かった。
剣豪をも越え、ディオネ最強の名声を手にしてもなお、彼は満たされなかった。その原因は彼自身も分からないまま、ずっと。
王城の渡り廊下を歩く英雄を、誰もが憧れの瞳で見る。
当人は周囲を歯牙にもかけず、いつも通り定時で帰ろうと出口へ向かっていた。
「…………」
他人の顔を覚えることが殆ど無い彼の視界に、見覚えのある者が一人映った。
マリー・ホワイト。正騎士に就任したばかりだが、驚異の活躍を見せているアルスの妹。数年前にスピネ・リンマの元に師事し、今なお屋敷に帰っては来ない。
「聖騎士一位就任、おめでとうございます」
マリーが兄に語り掛ける。
それが、数年振りの二人の会話の発端だった。
彼は一瞬、マリーの前で足を止めた。
しかし、
「……世辞を言っている暇があったら、訓練でもしたらどうかな。君の弱さは霓天の恥だ」
それだけ告げて、彼は去って行った。




