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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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119. 告白

 ケーキ屋を後にして、繁華街へ出る。

 レーシャはすぐに家へ帰りたがるかと思っていたが、何も言わずについてきてくれた。


「どこか行きたいとこはある?」


「なにか高い物買ってよ」


 がめつい。まあ、お金の使い道がなくて困ってるくらいだからむしろ喜んで貢ぎたい。


「じゃあ、服屋でも行く? ほら、天廊の上にある高そうなとこ」


「いいね、行こう! 私ほどの美人だとなんでも着こなせるからね」


「間違いないね」


 僕は滅多に天廊の上にある上級の店には行かない。王宮のパーティーでの服を買う時や、贈り物をする時に行くくらいだ。マリーや皇女殿下あたりはしょっちゅう行っているみたいだけど、まず僕はエレベーターに乗る気にもならないなあ。


 遥かなるディオネの王都を一望できる天廊の上に昇り、晴れ空の下で涼しい風を浴びる。

 ところどころ政変で損壊していた建物も、外国の支援もあってすぐに復旧できた。感謝。


(どの店に入れば良いのだろうか……)


 服屋多すぎでは。ブランドとかよく分からないし、聞いた事あるメーカーのとこで良いか。この店はたしか高級ブランドだったはずだ。

 まず入り口が高そう。カーペットの厚さが違う。フロントに案内人が居る。変な壺と絵画がある。


「いらっしゃいませ」


「はい。この娘に服を買いたいのですが」


「承知しました。では、こちらへどうぞ」


 案内人に導かれ、店の奥へ進んで行く。

 その先には……


「あら、かわいい! ……やだ、世紀の美少女じゃない! これは飾り付けがいがあるわ!」


 レーシャに近づく不審者。たぶんデザイナーなんだろうけど、怪しさ満点だ。まあ、有名企業の本社に来ているわけだから危険な人ではないだろう。


「で、お連れの方は……ええっ!? アルス・ホワイト……『天覆四象』じゃない!」


「あ、ああ……どうも」


 バトルパフォーマーになった時、適当につけた二つ名が「ディオネ解放」によって知れ渡ってしまった。リンヴァルスでしか知られていない二つ名だったんだけど、こちらにも広まってしまったのである。

 ☨『天覆四象』☨……我ながらかっこいい二つ名だと思います。ネットゲームでもこの名前にしようかな。


「それで英雄さん。こちらの彼女、ドレスアップしてもいいかしら!? ……あ、申し遅れたわ。私はロイワール社代表取締役、ロクサヌ・エリーよ」


 なんか聞いたことある名前だ。有名人さんか。


「お偉いさんでしたか。どうぞ、彼女をもっとかわいくしてください」


「……む。私の美しさは服装ごときで簡単には変わらない。まあ、せいぜい頑張ってみるが良い」


「あらあら、そう言われるとますます滾っちゃうわ! さあさ、こちらへどうぞ!」


 異様にテンションの高いデザイナーにレーシャは引っ張られて、店の奥へ入っていった。

 僕は何をしてれば良いのだろうか……




 魔眼携帯を眺めながら待っていると、奥のカーテンが開く。

 そこには天使が居た。


「どう、アルス君? 分かるよ、見惚れてるね。言葉も出ないみたいだね」


「どう、どう!? 最高よね、芸術よね!? 私の生涯でも最高のドレスアップができたと思うの!」


 白を基調としたキャミソールワンピースに、リボンがアクセントのアルパルガータ。過度な露出や目立った装飾が無いにもかかわらず、彼女は千人の中に佇んでいても一瞬で見つけられそうなほど美しかった。これから来る夏を一気に快いものにするかのような麗しさだ。


「……素晴らしい。さすが一流デザイナーだ」


 やはりプロの手腕は違うな。宝石にさらに磨きをかけることができるのは宝石専門家だけのように、美しい人をさらに美しくできるのはデザイナーやアーティストといった人々だけなのだろう。


「ええ、そうでしょう! ありがとう、英雄さんに彼女さん。私も良い経験になったわ……あなたもお着換えしていく?」


「あ、僕は今はいいです。いずれ来ますね」


 デザイナーと別れ、満足そうな彼女と共に会計に向かう。服はそのまま全部お買い上げだ。


「お買い上げありがとうございます。金額はこちらになります」


 ……高っ!?

 お菓子が三千個買えるぞ、これ。まあいっか、お金の使い道もないし。


「高いねー。私からも出そうか?」


 この人、お金とか持ってたんだ……


「いや、大丈夫。一括払いで払ってやるさ」


「おー、かっこいい。じゃあお言葉に甘えて」


 良い買い物をした。思い出になって、レーシャも喜ばせられて、最高の買い物といっても過言ではない。

 あとは……まだ、したいことがある。


                                      ----------


 午後はだらだらと店を巡り、友人とも時々出会いながら時間が過ぎて行った。


「お腹が空きました。あと、足が疲れました」


 夕刻、レーシャがそう告げた。


「じゃあ、どっか店に行こうか。どこが良い?」


「今度は高くない所が良いかな。高い料理イコールおいしいとは限らないからね。味が薄いことが多いんだ……」


 なるほど、よく分かってらっしゃる。僕はそこまで料理の味の違いは分からない。ルチカが作ってくれる料理は店のものよりも美味しいのは間違いないけど、違う店同士の味の違いとか、コンビニのちょっと高いやつで、普通の価格のやつとの違いとかは分からない。


「じゃあ、おすすめの所に案内しよう。こっちだ」




 暗い路地裏を進み、一件の店を目指す。レーシャは嫌がるかと思ったが、なんだかワクワクしたような面持ちで後ろをついてきてる。

 たどり着いたのは、グットラックの支部……表の顔はバーだ。


「……いらっしゃい」


 いつもの頑固そうな表情を張り付けたマスターが出迎える。彼は僕の後ろの白いのをちらと見て、食器を拭く手を止めた。


「二名様で?」


「はい」


「……こっちだ」


 カウンター裏から出て、彼は僕たちについて来るように促した。いつもはカウンター席に座るのだが、今日は違うのか?

 思えば、子供の頃にクロックと来た時以来、一人でしかここに来ていなかったな。


 マスターはエレベーターに入り、僕らもそれに続く。グットラック支部というだけあって、見た目に反して設備が整っており、階層も多い。聞くところによると地下にもフロアがたくさんあるらしい。

 案内されたのは個室だった。窓から街中の風景が一望でき、席が向かい合う形になった部屋だ。

 流石はマスター、配慮の鬼だ。


「注文が決まったら、パネルで。ごゆっくり」


 それだけ告げて、彼は去っていった。


「なんか、この建物地下にすごく人の気配があるような。まあいいや、あの店主さんは気づかいが中々にできるね」


「そうだね。人の気配は……従業員の人とかじゃないかな」


 彼らがグットラックの団員なのは秘密だ。

 席に座り、メニューに目を通す。


「どれがおすすめの料理なの?」


「そうだね……君の好みから推察するに、これとこれ。あと、デザートにこれは必須だ」


「おお、りんごシャーベットがあるとは有能な店だ。まっ……問題は味だよね。君がおすすめするくらいだから、そこそこは期待できるかな」


 このデザートは彼女に絶品の林檎料理を定期的に食べさせられる僕でも、思わずうなってしまう程の美味しさだ。彼女も気に入ること間違いなしだ。



「おいしい! ……よし、私もシャーベット研究に取り掛かってみようか」


 食後のデザート一口目で、彼女は叫んだ。

 やはり僕の目に狂いはなかった、マスターは彼女をも満足させられる料理人だ。彼女のはじける笑顔を見られて、ここに来た甲斐があったと思う。


 食後、マスターにお礼を言って店を出る。

 夜の帳が下り、大通りは職場から帰る者で溢れていた。


「私たちも帰ろうか?」


「その前に、寄っていきたい場所が一つあるんだ。少し付き合ってくれないかな」


「んー、いいよ。今日は一日中歩くね」


「ごめんごめん。これで終わりだからさ」


 彼女には迷惑をかける。でも、これから行く場所が一番の目的だから。


                                      ーーーーーーーーーー


「ここは……」


 街中から外れて、森の小道に入る。

 しばらく歩いた先には、小高い丘があった。夏花のアキャリーとミエーネルが咲き乱れ、風に揺られていた。

 辺りには人気が一切ない。それもそのはず、ここは僕以外知らない、父に教えてもらった由緒ある地なのだから。


「霓天の丘。初代霓天、スフィル・ホワイトが眠る地だ」


 僕は聳え立つ一本の無銘の石柱に歩み寄り、内部に納められた箱を取り出す。腰につけた鍵……ディオネ祭でレーシャに渡そうと思っていた物を渡す。


「その鍵で、この箱を開けてくれないか」


「……? うん、分かった」


 かちゃり、と解錠の音がした。

 箱が静かに開き、彼女は中に入っていた物を取り出す。


「これは、ブローチ?」


 金縁の細工に、中央にはめ込まれた空色の宝石。

 月明かりに照らされ、彼女の手元のブローチは鈍く光り輝いた。


「そのブローチは、ホワイト家に伝わる『碧霓の首飾り』。かつて英雄スフィル・ホワイトとローヴル・ミトロンが永遠の友情を誓い合った時の証だ。父さんからは……父さんからは、お前に本当に大切な人ができた時、このブローチを渡せと……そう言われた」



「え……」



「レーシャ、僕は……」



「僕は、君が好きだ」



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