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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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113. 修羅

 ルカの剣閃が天を裂き、地を薙ぐ。

 最初の一撃で裏庭は半壊し、二人はさらに裏手にある湖に移動していた。


「ハハハハッ! いいねえ、いいよお! バケモノだ、カイブツだ、それでこそ俺と踊る資格があるってもんさァ!」


 『修羅』ロヘリオは、結界魔術を無限に行使することでルカの攻撃を防ぎ続けていた。一秒で数十枚砕かれる防御結界。それを歯牙にもかけず彼は反撃に出て、炎の魔術を放つ。


「ふん、温いわ! ……しかし、どれほどの魔力が貴様にはある? 常人の域ではない……異能によるものか?」


「ルカサン、鋭いねえ。ま、教えないケド」


 どれほどルカに技量があり、一瞬で最高速度かつ最高威力の攻撃を繰り出せたとしても、その攻撃が届くことはない。壁のような結界が絶えず生まれ続け、ロヘリオはその内側から魔術で攻撃するのみだった。


「貴様自身が強い訳ではないようだな……宝の持ち腐れというやつだ!」


「でも、俺はこの「力」を活かせてるぜ? ホラ、アンタだって俺に掠り傷一つ付けられないねえ」


 斬撃、斬撃、斬撃。

 ひたすらに山をも割る斬撃がロヘリオの魔結界を紙のように裂く。湖の水が竜の如く天に巻き上がり、雨が降り注いだ。


「それにしてもアンタ、飽きないねえ。……ほら、『根源獄炎(ナレムファクルイド)』」


 刹那、世界が歪む。

 ルカは咄嗟に危機感を覚え、回避行動を取る。不死の彼でさえも、本能がその行動を煽ったのだった。


 天に舞う水流が、一瞬にして炎に呑み込まれる。

 火山噴火、隕石落下、不死鳥の憤怒……あらゆる超常の「炎」に喩えられる其が、修羅を中心として拡がった。


「飛雪の構え、『絶光』!」


 ルカは王城の方角を背に庇うように構えを取る。迫り来る灼炎を身一つで迎え撃ち、首都と王城の方角へ被害が及ばないように打ち払ったのだ。


「これが理内の極致の炎。……って、耐えるのか、耐えちゃうのか! ああ、いいぜ! しかも後ろを守っちゃうなんてねえ……アンタ、マジで何者?」


 ルカはその魔術を受けた際、確信した。一介の人間はもちろんのこと、神族でさえもここまでの魔力の過剰行使は不可能だ。


「ふむ、貴様が異能の内容を言えば我が正体も明かしてやるがな?」


「ああ? なんだ、そんなことで良いのかい? 別にバレたってどうってことは無いからなァ、教えてやるよ。俺の権能は『魔の器』……魔力を無限に使える、それだけだ。絶対に結界は剥がせないし、如何なる魔術も難なく使えるし、敗北はアリエナイ。……で、アンタは誰?」


 修羅の能力を把握したルカは、策略を巡らせる。前代未聞の相手を前にしながらも、彼の平常心が乱されることはなかった。


「フッ、聞いて驚け、冥土の土産に教えてやろう! 我こそは、世界に二人しか使い手が存在しない『破滅の型』の創始者にして、八重戦聖が一、『破滅』のルカ!」


「へえ……ええ!? アンタが八重戦聖かい! 初めて会ったぜ、八重戦聖! いやあ、光栄だね、誉れだね。そんなアンタを倒してこそってもんだ、もっと楽しませてみてくれよ!」


 五大魔元帥に相対するは、八重戦聖。聞けば歴史に残る一戦にもなりそうな戦いだが、この場に観戦者は居なかった。


「ふん……教えてやろう、『修羅』。貴様はここで、死ぬ」


「ハッ! じゃ、殺してみてくれよ……根源獄(ナレムファクル)……」


 ロヘリオが再び同じ魔術を放とうとした、その時。


「我に同じ手が二度通用すると思うな。飛雪の撃、『魔断』」


 炎が爆ぜた。結界の内側のみで。

 先程の様に大きな広がりを見せるかと思われた炎だったが、不自然に一定の地点で跳ね返り、ロヘリオの結界に全ての威力が集中した。

 彼自身は無傷だったが、魔術が不自然な軌道をしたことに疑問を持つ。


「なんだい、コレ?」


「先行して伝播する貴様の魔力を斬った。まあ、領域を斬り取ったわけだ」


「??? ……よく分かんないケド、すごいねえ。でも、俺は倒せない」


 ロヘリオは未だに己の勝利を確信し、魂に不敵を宿していた。

 しかし、対するルカもまた、己の勝利を確信していたのだった。


「いーや、倒せるぞ! 見せてやろう……」


 彼はゆっくりとロヘリオの元へと剣を下げて歩き出した。


「ん……?」


 不審に思い、いくつかの炎弾を迫り来る者に対して打ち出すロヘリオ。

 その弾は無駄の一切ない動作で打ち払われ、着々と彼我の距離は詰められていく。


 そして、結界を隔てて両者が向かい合った時、動いたのは『破滅』。


「破滅の型……最終奥義────」


 世界から音が消えた。

 或いは、消された。


 視界から色が抜ける。全てが拭い払われるかのような、快楽にも似た痛み。一瞬であらゆる感覚と浮遊感を味わい、修羅は立っていた。

 そして、世界に音と色が彼に戻った時、己が傷を負ったことを悟る。


「あ……」


 思わず膝をつき、それからその場に倒れる。

 血だ、血が流れている。


「ああ……あァ? なんだこれ、誰の血だ? 俺の、俺の血だ……いいや、違う、チガウ! 俺は負けるハズがない!」


「いいや、貴様の負けだ。我が剣に滴る血が、貴様の身体を裂いた証拠。我が技が貴様の全てを破滅させたのだ。回復も、蘇生も不可能である。まあ、魔力が無限に使えても理外魔術は使いこなせんだろうからな……自己蘇生の心配はあるまい」


 受け入れ難い現実が、ロヘリオの頭に覆い被さる。


「は……ハハハハハッ! いいさ、いいよ、負けだって!? これだから馬鹿は困るんだ、雑魚は困るんだぜ!? おい、雑魚供。地を這うゴミ供。俺の、俺の世だ、俺が最強だからな……」


「……言い残すことはあるか?」


「言い残すことだって? ああ、あるさ。あるとも!」


 ロヘリオは徐に立ち上がり、ルカに視線を飛ばした。


「いいか、いつだってお前らは、愚かなヤツらはそうだ……自分が上だって、確信してやがる! じゃあ、教えてやるよ、教えられなきゃ分からないんだろう!? さあ、さあさあサア!」


「……ぬ、これは」


 咄嗟にルカはロヘリオに向かって斬撃を飛ばすが、不可視の力によって防がれる。

 ──何か(・・)が、彼を守っている。


「ほら、来いよ! 最初からこれを狙ってたんだろう!?」


 天より、来たる。


 ルカは静かに上方を見据え、災禍を悟る。



「来い、虚神!」




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