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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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112. 忠義のブリリアンシー

 アルスが神聖国王と戦っている頃、裏庭でも戦闘が巻き起こっていた。


「はっ!」


 幻影兵・イヤンが振るう剣をユリーチは回避し続ける。

 幻影兵に体力という概念が存在しない以上、この対面はイヤンの有利かと思われたが、彼女は息切れ一つ見せなかった。


「なかなかに、やるな。鍛えてはいないようだが……何の術だ? まあ、攻撃に転じることはできないみたいだが」


「え? ああ……ごめんなさい。攻撃した方が良かった? 修羅が時間稼ぎに貴方を使ってるみたいだったから、避け続けてたんだけど……」


「ほう、大口を叩くではないか。では見せてみろ!」


 彼は攻撃の速度をさらに早め、身体強化を増幅させる。そして、刃が僅かにユリーチを掠めた。

 一撃でも攻撃を命中させること……それこそが彼の狙いだった。


「あ、毒」


「ぬ……気付くのが早いな。その通り、魔封じの毒だ。騎士らしい戦い方とはいえぬが……貴殿は魔導士のようだからな、許せ」


「別に怒ってないし……それよりも、魔封じの毒なんてはじめて見たから……少し待って」


 彼女は足を止めると、腰の短刀を引き抜いた。何をするのか……不審に思うイヤンだったが、彼女が取った行動に自身の目を疑うこととなった。

 ユリーチは短刀を己の腕に当て、皮膚を切り裂いたのだった。滴り落ちる血を懐から取り出した試験管で採取し、再び懐にしまう。そして傷口に回復魔法をかけ、彼と再び相対する。


「何を……している?」


「毒を採取した。即効性の毒だったから血液にはもう含まれている……はず。戦いを中断してごめんなさい」


「末恐ろしいものを感じるな……まあ良い、魔導士が魔術を使えなくなれば素人も同然。終わらせるっ!」


 イヤンは駆け出し、ユリーチに斬りかかる。魔力の行使を禁じられた状態であれば身体強化も使えず、分は自身にあると彼は考えていた。

 しかし、


「私が剣を扱えないなんて、言った覚えはないけど」


 彼の渾身の一撃を、ユリーチは短刀で受け流した。


「馬鹿な!?」


 身体強化も受けていない人間の少女が、何故幻影兵である彼の攻撃を受け流せるのか。

 夢中にいるかのような感覚。理をそこに感じなかった。眼前に立つ者が同じ次元に居るのか……その事実にすら懐疑の念を抱く。


 ユリーチはそのまま身を翻し、目にも止まらぬ速度で斬撃を繰り出した。

 十四。それが彼が確認した、自身の身体に刻まれた傷の数だった。彼の傷口から魔力が漏れ出し、その魔力をユリーチは自然に吸収しているようだった。

 未知の技術だ。現代の魔術技術か、それとも彼女特有の権能か。どちらにせよ、彼は徐々に魔力を削られ、窮地に陥りつつあった。


「おかしい……負けるものかッ!」


 たとえ己が古き人間であって、前時代の兵法と魔術論理を修めているものであったとしても、斯様な少女に敗北することは騎士の矜持が許さない。

 主君の暗殺に手を染めた半端者、背徳者。されど、死してもなお、誇りを捨てた覚えはない。


「……」


 ユリーチは黙々と彼を刻み続ける。

 後手に次ぐ後手。好転の光明が見えないまま、彼は攻撃を受け続けていた。彼が戦い続けるには、理由があった。修羅の為ではなく……かつて暗殺した神聖国王の為に時間を稼ぐという、理由が。


「おのれ……!」


 勝たねばならない。


 その想いも虚しく。


「かはっ……!」


 不可視の刺突が、彼の胸を貫いた。

 足掻きは無為に帰し、その一撃は間違いなく一瞬で幻影の命を刈り取るものだった。彼が歩んできた時代とは、何もかもが違っていた。文明技術、暮らしの豊かさ、個々の戦闘技術。もはや騎士長の座まで登り詰めた彼も、一少女に殺される程度の弱者に成り下がっていたのだろうか。

 いや、きっと。


「見事だ。強い、な……」


 彼女が強者であったのだ。

 あるべき場所へと、黄泉へと還るのだと、彼は察する。わずか数分の召喚。それでも彼は、主君が築いた国の泰平を確信した。


「ええ、さようなら」


 ユリーチは短刀を納め、自身に回る毒を解毒する。

 同時、幻影兵イヤン・ネウロイは魔力となり霧散した。


                                      ----------


「……ようやく、終わったのだな」


 アテルトキア歴三千九百十四年、リアス帝国の侵攻を退けディオネ神聖王国の樹立が宣言された。

 初代神聖国王、リート・ネガート・ディオネは戦火の残る街中を見下ろし胸をなでおろした。田舎の一村人に過ぎなかった彼が反乱に立ち上がり、神の加護を得て帝国を退け、今に至る。


「まだ、これからですよ。リート殿……いえ、国王陛下。民の暮らしを安定させ、帝国の報復にも備えねばなりませぬ。我らの歩みはここからです」


 リートの傍で、同じ光景を見つめる者がいた。

 イヤン・ネウロイ。彼が故郷で立ち上がった時、最初に共鳴した同志であり、騎士長に就任された者である。


「ああ、そうだな……イヤンよ。お前がいたからこそ、私はここまで戦ってこられた。お前の刃があの荒野で私の命を救い、お前の言葉が私の心を守った……これからお前は村に帰るか? 目的は果たした……家族の下へ帰ってもよいぞ」


「いえ、私の目的はこの国の平和を陛下と共に実現すること。騎士長という立場を与った以上、まだ故郷へ帰るわけにはいきません」


 見上げた忠義だと、リートは感じた。どこまでも忠義に篤く、どこまでも頑固な男だった。


「そうか……千七百四十、歳月が廻った頃にもわが国が続いていれば良いな」


「なぜ千七百四十……ああ、我らの同胞の数ですね?」


「やはり、お前なら分かるか。どうだ、そこまでわが国は続きそうか?」


「ええ、もちろんです。それ以上に続いてゆくことでしょう。なぜならこのディオネ神聖王国は神に愛されているのですから」


 リートに力を授けた神がいた。それはまさしく帝国が悪であり、ディオネが正義であると神が認めた証拠なのだから。何の神から力を授かったのかはイヤンは聞いていないが、リートは聖なる神槍で帝国の大群を薙ぎ払ったのだ。まさしく、そこに彼は「正義」を感じた。


 彼がリートに顔を向けると、先程の喜びとは打って変わって、どこか暗い表情を浮かべていた。


「ところで、イヤン。頼みが一つある」


「何なりと」


「若かりし頃はよき王であったが……やがて暴虐の王と化す話はよく聞く。もしも、私がそうなったら……」


 そこまで言葉を紡いだ時、彼はイヤンによって続きを遮られた。


「そうはなりませぬ。憂慮は必要ありますまい」


「もしも、私がそうなったら……民の幸せを忘れるような王となれば……私を殺してはくれまいか」


 しかし、リートは最後まで言い切った。彼の中に仄かな未来が見えていたのか、それとも気まぐれで告げた言葉か。

 こうして命を受けた以上、主君に捧げる返答は一つだけ。


「……承知しました」


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