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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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106. 『碧天』対『剣豪』

 幻影兵の隊列の隙間を風が通り抜けた。刹那、絶命。

 厳密に言えば、魔力体であり神聖国王の一部である彼らに命はない。だが、彼らは生者と同様に、意識が絶たれた瞬間に何が起こったのか分からず、思考を放棄した。


「嵐絶──『大旋風』」


 陣の中に、敵兵が一人。その男は一瞬で、つまるところ雷速でその場に移動し、暴威の風刃で王国兵の軍隊を斬り裂いた。次に兵が彼を視認し、刃をその影に向かって振るった時、そこに実体はなかった。それどころか刃を突き立てられたのは幻影兵であったのだ。


『な、何が起こっている!?』

「碧天だ! 昔の人のあんたらは知らないだろうが、とにかくバケモンだよ!」


 現状を把握できない幻影兵に、騎士が伝える。幻影兵も騎士の表情と震えを見て状況の悪さを悟り、進んで前に出る。命の無い己が犠牲になる方が有益であると判断しての行動だ。

 しかし、その幻影兵よりも前面に進み出る壮年の男が居た。


「イベン様!」


 聖騎士第一位、『剣豪』イベン・ラルド。

 ディオネ神聖王国において最強の名を冠する剣士である。魔術が使えないにも関わらず、数多の強者を討ち果たした伝説。剣に生き、剣に死ぬ。その覚悟を内に秘めた生粋の剣士。


 誰にも見切れずにいた荒れ狂うアリキソンの剣戟を、イベンは二刀の内、左手の剣で受け止めた。


「ぬっ……!?」


 彼はすぐさま飛び退き、眼前に現れた二刀流の剣士に全ての注意を向けた。イベンから発せられる、ただならぬ闘気と殺気が彼の本能にある警戒心を極限まで引き上げた。最初の一合で眼前の剣士が尋常でない存在であると悟る。


「俺はディオネ神聖王国聖騎士第一位、イベン・ラルド。碧天のアリキソン・ミトロン殿とお見受けする。一手、願おうか」


「ああ、貴方のことは知っている。俺も剣士として憧れる存在だ。故に……受けて立とう。碧天、アリキソン・ミトロン」


 何故イベンが神聖国王側に与しているのかなど、アリキソンは聞かなかった。気にはなるが、この勝負の前においては無粋。

 ただ、剣で語るのみ。


「感謝を。他の者には手を出させぬようにしよう」


 無論、まともに動きを追う事すら出来ない以上、他者が介入する余地はない。今、この瞬間……二人の戦いが始まる直前でさえ、他の兵と騎士は剣気に押され、周囲には空間が出来上がっていた。


「お心遣い、痛み入る。では、参る!」


 刹那、雷糸が奔る。数秒遅れて、突風が巻き上がる。

 その突風の以前に、相対するイベンもまた姿を消していた。無数の銀閃が煌めき、残像とともに現れたのは剣を交える二人。

 互いに剣に力を籠め拮抗したまま、両者はどことなく愉悦を感じた。


「……ほう。なかなかにやる」


「お褒めに与り、光栄だッ……!」


 イベン・ラルドは沸いていた。久方ぶりに血が滾り、刹那の快楽に身を置いていた。

 最強と謳われるまでに登り詰めた彼が得たのは、栄誉、名声、財産、そして──虚無。「国に敵なし」といえば、聞こえは良い。しかし現実は、強さのみを求めて生きてきた者が、何者とも勝負を愉しめなくなってしまうということだった。

 まさに、生き地獄。アリキソンの存在はその地獄に垂らされた蜘蛛の糸であった。

 誰にもこの糸は渡しはしない、自分一人が独占し、救われるのだ。たとえ糸が切れようとも。


 二刀を手とし、脚とし、舞い続ける。アリキソンの繰り出す斬撃を舞台に、舞う。

 彼が全霊をかけて放つ二刀の斬撃、それを眼前の年若い少年は往なし続けていた。その事実に刮目しながらも、納得する。これが四英雄最強の神能を持つ者。

 雷の如き速さから繰り出される一撃を受け止めるには、相当量の魔力を使った身体強化を施す必要がある。魔術は扱わず、魔力の使途を身体強化のみに絞る彼でも、まともに受けるには重い一撃だ。


「ハッ!」


 技名は無い。しかし、渾身の技をアリキソンに叩き込む。

 二刀を握る腕の速度のみを瞬間的に超強化し、あたかも一度に数十発の斬撃を放ったかのように見せる技だ。


「ぐっ……!?」


 予備動作なしに放たれた高速の斬撃をアリキソンは受け流し損ねる。雷速を誇る彼でさえも、この連撃は見切れなかった。

 右腕と胸を掠め鋭痛が走ったが、彼は敢えて踏み出し、攻勢に出た。急いで決着をつけねばならない理由が彼にはあったからだ。


「『凩之太刀』!」


 鋭利な疾風の穿撃がイベンの手元を狙い、駆け抜ける。長年の剣士としての直感からか、イベンは矛先を察知し、剣の柄でそれを防いだ──いや、柄が欠け、重心が僅かに逸れる。

 碧天はその隙を逃さない。全身全霊の一撃……雷が如く速く、暴風が如く強烈な一撃を叩き込む。速度と威力が合わさった、破壊の一振り。


 嵐が迫る中、歴戦の剣士が取った行動は、回避。彼はここ数年来、回避という『逃げ』の一手を打ったことはなかった。迫る攻撃は全て受け流し、斬り返してきたからだ。

 屈辱、そして高揚。彼の胸中には熱く、そして重い感情が渦巻き、若い頃の感動を無意識に思い起こした。

 大きく飛び退き、風刃を回避。迫る雷撃は躱し切れずに、右足を負傷する。


「……」


 イベンは二刀のうち左剣を破壊され、右足を負傷。対してアリキソンは身体に多少の傷を受けた程度。ここまでの現状を見れば、アリキソンが有利。

 しかし、アリキソンは自身にしか知らない要因で追い詰められていた。神能『嵐纏(あらしまとい)』による爆発的な力。一見すれば無条件に嵐を司っているように見えるが、行使した力の分だけ体力を消費する。一の刻にて百を為す、されど代償として要求される体力は百の刻にて百を為すのと変わらない。体力の鍛錬を最重要視して生きてきたが、それでも神能をフル稼働して動けるのは三分が限界だ。

 故に、長期戦ではじきに動けなくなってしまうのだ。事実、彼の動きは次第に鈍りつつあった。


「はあ……はあ……」


 作戦を変更する。賭けに出なければならない。今すぐに、この最強の剣士との戦いを終わらせる為に。


 先に動いたのは、剣豪。彼もまた、老体が堪えたか、早期の決着に出た。

 使い物にならなくなった片方の剣を捨て、一刀にて臨む。彼には技に名を授けた経験がなかった。

 これから放つ技は、無銘の「最強」。一生を剣に費やしてきた者の果て。


「フッ……」


 自然と、笑っていた。

 身体に魔力を通す。脚、胴体、視覚、そして最後に腕。幾度も重ねてきたこの動作を、今は全神経を駆使して行っていた。身体が軋む、激痛が走る。もはや互いの生死など考えてはいない。先のことなど考えてはいない。

 ──ただ一刀の下に斬り伏せるのみ。


「スゥ……」


 対する碧天は、ゆっくりと空気を吐いた。これまでの荒振りとは打って変わり、静々たる佇み。

 彼の吐息は風となり、雷を纏う。そして自身の身体に纏わりついた。正面を見据え、ゆっくりと剣を後ろに──脇構え、金の構えを取る。全身に滾る神気、停滞する世界の時。

 迫り来る彼の剣豪でさえも、嵐の前には緩慢たるそよ風。無我の境地に碧天は立つ。


 剣豪の目に、碧天はまるで無防備かのように映った。しかし、放つ気から、彼の構えがただならぬものであるとは一瞬で感じ取れた。そして、次の一瞬が決着の刻であると……そう悟った。

 油断はしない、全霊で叩き斬る。技巧の極み、力と速度の最高効率の配分を一瞬で弾き出し、剣に乗せる。この一刀、斬れぬ物は存在しない。


「無銘、我が生涯──」


 芸術的なまでの一閃が、碧天の眼前に迫る。刃が届く、その刹那。

 微かな静電気が、散った。


「嵐絶、奥義──『袖之羽風』」


 彼が身体に纏っていた風雷が、水が滴るように剣に落ちる。

 魔力と神気が収縮し、一呼吸置いた後に爆発。後方へと構えていた剣を──さらに後ろへ振り抜いた。


「……!?」


 イベンの一刀は、アリキソンに届く前に焼き切れた。静かに、されど鮮烈に奔った静電気……いや、轟雷が彼の刃を焼き切った。同時に駆け抜ける一風。それは剣豪の身体を浮遊させ、不可避の雷撃の俎上に載せた。

 白雷が、剣豪の身体を貫いた。


 須臾にして、暖雨が降り注ぐ。剣豪の身体が地に落ちる時、碧天の技によって生み出された雨は既に止んでいた。


「……見事」


 碧天、剣豪を破る。


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