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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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105. それぞれの戦場

 月明かりの下、無機質な人工灯が掲げられ、大きく不気味な人型の影が揺らいでいた。 

 王城前には無数の幻影兵が配備され、厳戒態勢が敷かれている。反乱軍は今にも攻勢に出んばかりの勢いで王城前の広間に陣取り、両軍の睨み合いが続いていた。反乱軍の本格的な進攻は明日の早朝であるとのうわさがあり、王国軍の騎士たちには夜通し強制的な警備が任じられていた。


 未だに王国軍に属する騎士も、こうなることは分かっていた。ここまでの圧政・独裁を行って国民が反発しない訳がない。ここまでくれば首都に家族が居る者でも、反乱軍に寝返っても良いかもしれない。いや、賢い者は大半がすでにそうしているのだ。神聖国王側の勝利を望む者など居ない。故に、この政変の行く末は誰もが予想し、反乱軍はより勢力を拡大し、士気も上がっていた。


「マリー、疲れてないかしら? そろそろ交代の時間だけど」


「先生、お疲れ様です。私は問題ありません」


 マリー・ホワイトは未だに王国軍に残っていた。

 戦局を見誤るつもりは毛頭ない。あと少しで、彼女は王国軍から離脱するつもりでいた。誇りも名声も二の次にして、彼女は命を優先しなければならないからだ。臆病がちょうど良い。勇敢は愚鈍である。


「もうすぐ反乱軍が来るわ。あなたはどうする?」


「……撤退します。先生は?」


「私は残るわ。これでも武人、不利な戦況でこそ沸き立つというもの。家族も居ないから、死んでも良いしね」


 聖騎士には戦闘狂が多い。無論、国内で最上位の実力者なのだから当然の話だが、マリーからすれば理解し難い感性だ。彼女の強さの原動力は讐心、純粋に闘争を愉しむ彼らとは強さを求めるベクトルが決定的に異なる。師であるスピネ・リンマも彼女を理解しているが故に、軍からの離脱を引き留めようとは思わなかった。


「そういえば、アルス君が反乱軍に参加したらしいわ。お兄さんの元へ向かったらどうかしら?」


「いえ、やめておきます。私が取るべき行動はもう決まっていますから」


 もはや王城から騎士が逃げ出すことは監視が厳しいので不可能だ。その状況下で、反乱軍と交戦せず、彼女が自身の命を守る術。賢明な彼女には既に視えていた。


                                      ----------


 翌早朝。

 首都ディオネの中央広場から歓楽街にかけて。天を裂かんばかりの怒号と、義憤の熱気が満ちる。

 対するは、王城前に溢れんばかりの人影。しかし、心音が聞こえんばかりの静寂。無機質に、死の恐怖も消し去り、ただ彼らは佇む。


 反乱軍と王国軍の決戦の幕が切って落とされようとしていた。


「まさかボクが正面切って軍隊と相対するとはな……アリキソン、戦場での指揮は慣れてないからお前が頼むぜ」


「任せておけ。腐ってもルフィア騎士団の副団長、戦場での指揮は得意分野だ。……まあ、俺も本物の戦というものは初めて経験するが」


 二人とも軍を率いる身として平静を装ってはいるが、その実心臓が爆発しそうな程緊張していた。自らの判断一つで無数の命が失われるかもしれないのだから。

 アリキソンはディオネを無理やり抜け出して、ルフィアに帰っても非難は浴びなかったはずなのだ。それでも今、ここに立っている。正義と謳うつもりはない。だが、何かが彼を突き動かしたのだ。


「王国軍には、やむを得ない事情で神聖国王側についている騎士もいる。義勇兵にはできるだけ幻影兵だけを狙うように伝えてあるが……怒りが昂じて騎士に手を出してしまう者もいるだろう。そんな犠牲を極力少なくするのも俺らの仕事だ。良いな?」


「ああ、分かってるが……向こうには聖騎士も居るみたいだからな。そいつらの対処に追われてはどうしようもないぜ? まあ、救いは王国軍が戦略兵器を用意してないことだな……大昔の戦争って感じだ。さすがに神聖国王も民を虐殺するのは気が引けたのか、或いは単に現代技術に疎いだけか。どちらにせよ、対魔物に近い戦になりそうだ」


 エルゼアは『熱眼』で王国軍を覗いてみたが、特にミサイルや大爆兵器は用意されていないことが分かった。一応、それらを防ぐ術も考えてはいたのだが、使う予定はなさそうだ。超範囲魔術は魔導士たちに結界を張らせれば良いが、戦略兵器が結界で防ぎ切れないので問題視していたのだ。


「さて、激突の時間だ。アリキソン、号令を頼む」


「……了解。では、反乱軍の進撃を開始する」


                                      ----------


 同刻、電波塔。

 開戦の合図を確認したベロニカは小部隊に告げる。


「作戦開始です。速やかに電波塔を制圧し、ネットワークを復旧しましょう。魔術師の皆さんはジャミング魔術解除の為にできるだけ魔力を温存してください。あと、幻影兵ではない騎士の方々の命は奪わないように」


「まあ、俺が先行して幻影兵は全員ぶっ倒してやるし、騎士は気絶させてやる。お前らの仕事はないから安心しろ」


 タナンは後ろに控える部隊に気丈に言った。彼らはタナンの自信を見て安心したように頷く。


「あ、ベロニカちゃん。私のことちゃんと守ってね?」


 ベロニカの後ろから語り掛けたのは、アイドルのリーナ。またの名を、『白舞台』のシトリー。グットラックの一員である彼女はディオネ支部局長であるバーマスターの命を受け、エルゼアの計画に協力することになったのだ。彼女の役目は、電波塔の制圧後。この内乱を終わらせる為の一手に必要なのだ。


「リーナさん、任せて下さい。私が守ります」


「キャー! カッコいい! それじゃあみんな、頑張ってね?」


 彼女は部隊にエールを送り、異能によって全員に能力強化をかけた。

 これで準備は万端だ。


「では、突入を開始します!」


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