104. 解放作戦
騒乱下のディオネ。暗い路地裏を進むと、一件のバーがあった。
暗闇を縫い、その扉を開ける者が一人。
「よお、マスター。元気か?」
「……エルゼア。閉店時間だが」
店主はグラスを拭きながら訪問者を見る。エルゼアは躊躇いなくカウンター席に座り、グラスを取って水を注いだ。
「調子はどうだ? 二日後には本格的に動くつもりだが……首都内の反乱軍の勢力を知りたい」
「反乱軍に協力する予定の勢力に関しては纏めておいた。電子機器が使えないように制限がかけられているから書類でな」
エルゼアは店主から書類を受け取り、ざっと目を通す。大部分の首都内の反国家軍は想定通りといったところだ。
今回の反乱ではディオネのグットラックも動かすことになる。踏み躙られる者を助けるのがグットラックの使命であり、国民は神聖国王により厳しい弾圧を受けているからだ。グットラックの創立は圧政から解放されようとした運動に端を発する。
書類を確認しながら、エルゼアは呟いた。
「そういや、アルスが見つかったらしい。輝天と、魔族の男と、魔導士が一人……協力予定だそうだ」
「アルスはともかく、輝天の協力は僥倖だな。采配は全てお前に一任する。俺が交渉を進めていた反攻勢力も自由に使ってくれ」
もうじきこの政変は終わり、平和は取り戻される。
確信はないが、信念が二人にはあった。エルゼアは義憤を抱えている。奪われる自由、失われる権利を手に入れる為にエルゼアはグットラックに入った。まさか現代にもなって、ここまで政治が急変するのは想定外だったが、今でこそグットラックが立ち上がるべきなのだ。
「しかし、このクーデターの裏側は何だろうな? 何者かが目的を持って引き起こしているんだろうが……読めないね。神聖国王はあくまで表層の傀儡だろうよ」
「こちらでも調べてみたが、分からんな。王城には魔結界が張られていて、機械や使い魔の侵入もできん。スパイも何も掴めていないみたいだしな。直接神聖国王に確かめるしかないだろう」
「……ま、そうだな。んじゃ、作戦は追って伝える。じゃあな」
「……」
マスターは、黙って去りゆく者の背を見つめていた。
表には出さないが、互いに不安を抱えていることが何となく伝わっていた。
「不気味」。それがこの政変の裏にこびりついているのだ。『神算鬼謀』でさえも計り知れない何かが蠢いている。
──多くの血が流れている。そしてこれからも流れる事になる。それでも、進まなければならない。グットラックの使命を果たす為に。
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翌日、僕らは反乱軍の本拠地を訪れた。
思っていたよりも人が多い。国民の大半は争いごとなんて御免だと傍観しているが、反乱軍の勝利を願っていることだろう。また、反乱軍の優勢を見て日和見していた人々も協力してくれているみたいだ。規模にして総勢二万人ほど。
まあ、問題は王国軍・反乱軍の勝敗ではないのだけど……召喚者に関しては僕らがを方をつけるしかない。
会議室には反乱軍の主要メンバーが集まっていた。これからエルゼアが作戦を伝える予定だ。
「よお、全員いるな? それじゃ、今後の作戦を伝える。明日がいよいよ本格的な衝突だ。大半の反乱軍は正面切って王城に進攻して、騎士団と幻影兵から成る王国軍と交戦することになる。ここに居る中でこの軍に参加するのはボクと……アリキソンだ」
「俺か……まあ、適任だろうな。俺が反乱軍の旗印になっていることは自覚している」
正面から、ということは別動隊もあるのか。まあ、そりゃそうか。僕とユリーチは召喚者を特定する為に王城へ行かせてくれと事前に頼んである。
「次に、電波塔だ」
電波塔?
王城付近に建っているが……何かあるのかな?
「電波塔でディオネのネットワークが遮断され、ジャミング魔術が国中に張られている。ここを取れば遠隔での連絡が可能になる。それと……もう一つ、電波塔の奪還を優先する理由はあるが、後で話す」
「ここを担当するのはベロニカ殿、タナン」
この二人か……大丈夫だろうか。実力に関しては何も心配していないが、手綱を握る者が必要では?
「よっしゃ、どこでも任せとけ!」
「アルス様。こいつら二人で大丈夫なのか、とお思いですね? 分かります、その目を見れば。ですがご安心ください、たまにはまともになりますから」
「ああ、はい……お願いします」
頼むからいつもまともでいてくれ。
皇女殿下として振舞っている時は普通の人なんだけどなあ……絶対師匠の悪影響だよなあ……
「次に、裏口から侵入する部隊だ。王国軍に所属している一部の騎士とマスター……ある男が交渉を進めておいてくれた。王城内に侵入する経路を確保してくれるそうだ。この部隊こそ本丸、神聖国王の討伐と……アルス達が色々知ってるみたいだが、黒幕がいるみたいで、そいつを倒してもらう」
召喚者か……まずは、何故こんな事件を起こしたのか問い詰めないとな。単純に国を混乱に陥れたい愉快犯なのか、明確な目的があるのか。
「少数精鋭でいくぞ。メンバーはアルス、ユリーチ・ナージェント、レーシャとかいう魔導士、後はルカとかいう戦士で。霓天と輝天以外の実力は不明だが、話を聞く限り問題なさそうだ。よろしく頼むぜ」
「うん、頑張ります」
「私の役目は大きいね……召喚者の特定と、解析。任せて」
「まあ、私が居れば何とかなるよ」
「フッ……我が破滅、見せてやろう」
平和のディオネを取り戻す。陛下の恩に報いる為にも。
「これで主な人員分けは終わりだ。ただ、王城に突入する部隊は伝えたい事項がいくつか存在する。それ以外は解散で良いが、四人は残ってくれ」
会議に出席していた面々は僕らを残して退室し、明日の決戦に備えることとなった。国を守りたいという意思を持つ者たちから成る、即席の反乱軍。アリキソンやエルゼアは、よくぞここまでまとめ上げてくれたものだ。僕もまた他国を守る為に立ち上がってくれた彼らに報いなければならない。ディオネを守る、霓天の家系として。
……空に逃げていたのは内緒で。
「それでエルゼア、何を話すんだ?」
「ああ、一番大事な作戦……というか、この圧政を潰す為の作戦を伝えるぜ」




