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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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103. 信じてるから

 どうして僕は怒られているのだろう……


「おいアルス、聞いてるのか!」


「ああ、うん……聞いてる」


 家に帰ったら白い光に呑まれて、絶命した。それだけのこと。

 たしかにレーシャには「危険だから先に行くな」と忠告されたが、それを無視したのがいけなかったのかな。


「そもそも、ずっとどこに消えていたんだ? 俺たちはかなり……かなり、苦労したんだぞ。反乱軍で戦い続けた後に、この異空間に閉じ込められて……」


 それはもう大変だっただろうな。お疲れ様です。

 僕たちはずっと空に逃げてました。


『ずいぶんと賑やかになったもんじゃの……小娘、なんとかせい。特にこの騒がしい男』


「いや、私に言われても……いきなり人を殴りつけるなんて、この人にはモラルがないのかな?」


 師匠は機械竜を珍しい物でも愛でるかのように殴りつけていた。


「ハッ! モラルなぞ闇の果てに置いてきた! なんだ貴様、やけに硬いではないか! 材質は何だ?」


「し、師匠……助けに来てくださったのですね!」


「う、うむ……まあ、そういうことだ。全て我が掌の上よ!」


 もはや事態は収集がつかなくなっていた。

 この事態を何とかできるのは異空間の支配者であるレーシャのみ。


「レーシャ、ここ閉じれない?」


「ああ、閉じよう。なんだかみんな慌ててるみたいだし。爺、帰るね」


『うむ。また来るが良い。それにしても、外界の文明も大きく変わったようじゃの……儂はまた眠るとしよう。しかし七人の管理者が斃れ、旧世界となったとは……眠っていたせいで気付かんかったぞ……』


 この異空間の支配者と思われる機械竜は、そう告げて動きを停止した。話を聞くに、アリキソン達はこの竜と死闘を繰り広げたらしい。どう見ても勝てる相手じゃないと思うんだけど……

 レーシャが生成した時空の裂け目から帰ろうとした時、アリキソンが僕を引き留めた。


「おい、質問に答えろアルス。今までどこに居た?」


 空です……


「ねえアリキソン、何でそんなに怒ってるの? 助かったんだから良かったじゃない。早く帰ろう?」


 その時、ユリーチが僕の気持ちを代弁してくれた。そうだよな、傍から見たら僕は何も悪くないよな!


「そうだぞアリキソン。何で一人でキレてるんだ? ユリーチもこう言ってるし、早く帰ろうぜ」


「おまっ……チッ、まあ良い。早く反乱軍の元へ帰らねば……この異空間に拘束されて何時間経ったのやら」


 悪態をつきながらも、彼は異空間から出て行った。それに続き、僕もまた出て行く。




 後には、レーシャとユリーチが残った。


「さ、ユリーチちゃんも出てどうぞ」


「ええ……それにしても、レーシャさん。この空間は何?」


「ん……知りたい?」


「うん」


「……うーん。教えない」


「……そう。じゃあ、出るね」


「……ちょっとあの娘、怖いかも」


                                      ----------


 久しぶりの我が家だ!


 異空間から出ると、そこはホワイト家の広間でした。見慣れたタイルに、カーテンに、グラス棚。あとは僕の飲みかけのお茶のペットボトルが転がってる。こっそり片付けた。


「ふむ、ここがアルスの家か! 金持ちか貴様!」


「そんなに大きくないですよ、この屋敷。使用人も一人ですし。コイツの家の方がよっぽど……と、あれ?」


 隣に居たはずのアリキソンに目をやると、既にそこに彼の姿はなく、玄関から出ようとしているところだった。


「おい、どこ行くんだ?」


「今すぐ反乱軍の本拠地へ戻る。エルゼアにすぐ帰ると言っておいたのに、ここに数時間拘束されてしまったからな……」


 たしかエルゼアが反乱軍を率いているのだったか。で、アリキソンも反乱軍に協力してかなり噂になっていたな。このままだと反乱軍の勝利は間違いない、とか。

 彼に続いて、皇女殿下とタナンも出て行こうとする。


「よろしければ、アルス様も後でいらしてください。貴方が協力してくださると心強いです」

「おう、ルス兄も来いよ! 王城にもうすぐ乗り込むらしいぜ!」


「ああ、後で行くよ。僕らも反乱軍に参加する予定だったんだ。ただ……エルゼアとは今後の予定を話し合って、策を練った方が良いだろうな。明日の朝向かうと伝えておいてくれ」


 僕に、レーシャに、師匠に、ユリーチ。この四人が加わるとなれば作戦も大きく変更することになるだろう。エルゼア……いや、エルムの策は信じておけば間違いはないから、立案は任せよう。徹夜で考えてくれ。


「お前はどこまでも呑気な……本格的な蜂起は二日後の予定だ。それまでには準備を整えておけよ」


「ああ、分かった」


 二日もあれば十分だろう。問題は、神聖国王側が仕掛けてこないか、だけど。


「あれ、ルチカは行かなくて大丈夫?」


「はい、問題ありません。ご主人様のご不在の間は、ベロニカ様にお仕えしていました。ご命令があれば、お申し付けください」


 ……ベロニカ様って誰だ?

 ああ、皇女殿下か。


「もうすぐ夜になるし、明日に備えようか。えっと、夕食作れる? 五人分」


「はい、すぐに取り掛かります」


「ありがとう、僕も手伝うよ。あとは……ユリーチと師匠、客室に案内します」


 師匠は食事が必要なのか分からないが、一応作っておこう。あとはルチカの手伝いをして、浴場を準備して……レーシャが林檎を盗まないように冷蔵庫から救出しておく。よし、やる事は決まったな。


「うむ、存分に寛がせてもらうぞ! 一番いい部屋に案内しろ!」


 師匠は遠慮がないな。まあ、そこが彼の良いところだ。


「あ、私もルチカさん手伝うよ。大変だろうし」


 対して、ユリーチはえらい。二人の落差がひどい。

 しかし、みんな緊急事態とは思えない程にいつも通りだな。外では反乱軍と王国軍が日夜戦っているというのに。





「アルス君、ちょっと良い?」


 僕が師匠を二階の客室に案内し終えた後、レーシャがひっそりと話しかけてきた。


「なに? 林檎なら我慢して」


「いや、我慢はしないけど……そうじゃなくて、ユリーチちゃん? あの娘のこと教えて」


 ユリーチを?

 もしかしたら、今後の作戦に役立てるのかもしれない。たしかに、レーシャですら神聖国王の召喚者を割り出せなかったのに、彼女はそれが可能だという。同じ魔導士として、それなりに興味があるのかもしれない。


「ご飯の準備があるから、後でね」


「うん……」


 彼女はどこか複雑な表情をしていた。

 なにやら心配だし、一通りの作業が終わったらすぐに彼女の元へ向かおう。


                                     -----------


 結局、忙しくてレーシャと話すのは夜遅くになってしまった。師匠がなんだかんだと文句を言ってきたせいで対処に追われてしまったのだ。

 彼女が泊まっている、半ばレーシャ専用となりつつある客室をノックする。


「はい。……アルス君、どうしたの?」


 彼女は扉の隙間からこちらを見て、めんどくさそうに欠伸をした。


「忘れてるし。ほら、ユリーチの話が聞きたいとか言ってたよね」


「あー。それはもういいや。自己解決した」


「ええ……何が気になってたの?」


「……入って」


 彼女は部屋の外を見回して、誰もいないことを確認する。恐らく誰にも聞かれたくない話なのだろう。

 ……机に林檎の皮があるんだけど、どこから持って来たんだ? 冷蔵庫のは回収したはず……。


 彼女は僕の林檎に注がれる視線を遮りながら、話を始めた。


「彼女、ユリーチ・ナージェントは良い子だという事が分かったよ」


「いや、知ってるけど」


 何を言ってるんだこの娘は。

 レーシャは見た目で人を判断するような性格じゃないと思うんだけど。そもそも、ユリーチは見た目からして悪人じゃないだろう。


「最初に見た時、私は彼女から不吉なものを感じた。まあ、色々と分析してみて彼女の力が何なのかは判明したよ。たしかに、私からすればあんまり良くない力だったんだけど……彼女なら悪用しないって確信したんだ」


「不吉なもの?」


 不吉、良くない力……か。よく分かりません。

 輝天の神能、『光喚(ひかりよび)』ではないのか?


「でもほら、アルス君にも近いものを感じるから……どこで手に入れたのかは分からないけど」


「ん、僕も良くない力を持ってるの?」


「そうだね……良くない、っていうのは語弊があったね。アルス君も、ユリーチちゃんも『その』力を持ってるけど、力の使い方は当人に委ねられるからね。たとえば……君が世界を滅ぼす力を持っていても、世界を滅ぼそうとは思わないでしょ?」


「当然だね。共鳴(アンチスフィス)すれば、世界を滅ぼすくらいの力に匹敵するかな? 災厄以外に行使したら僕が死ぬから、命がけになるけど。世界を守る為につくら……生まれてきた僕が、滅ぼそうとする訳ないよ」


 我ながら重すぎる使命だ。だが、折れはしない。

 ユリーチも世界を滅ぼす……は言い過ぎだけど、すごい力を持ってるのか?


「うん、そうでしょ? 私も君を信じてるし、君も世界を愛してる。……だから、これから君が何を知っても、創世主(アテル)に何を告げられても……世界を守ってくれるって信じてるから……」


 彼女が言いたいことは、何となく分かってしまった。

 アテルが僕に隠している事実。邪剣の魔人エンドを倒した時、僕が消滅するという事実だ。それをアテルは世界の継続の為に告げず、レーシャは良心の呵責に苛まれて告げられないでいる。

 まあ、それはとっくに受け入れたことだし……この宿運よりも、レーシャが悲しんでいるのが僕にとっては何よりも苦しい。だから、話を逸らしてしまおう。


「……ところでレーシャ。君の後ろにある林檎の皮は、」


「あ、ああそうだ! もう夜も遅いし寝ようか。私も眠くなってきたよ」


「はは……じゃあ、おやすみ」


「うん、おやすみなさい」


 彼女に無理やり部屋を追い出されて、外に出る。

 もうみんな寝たのか、しんと屋敷は静まり返っていた。


 廊下の電気を消して、部屋へ戻る。

 何気なく見遣った廊下の先は、べたついた闇が支配していた。

 どこまでも、深い闇だ。




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