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25:アイスクリームと白戸

出遅れですが、5月9日はアイスクリームの日ってことで。

 交流合宿の打ち合わせが終わり、休憩ということで修吾や大和田くん、俺たち生徒会はアイスでも食べるかと購買に向かった。

 学園の購買ではアイスクリームは年中よく売れる。夏のくそ暑いときに冷たいアイスもいいけど、暖かい部屋でアイスクリームってのも美味しい。そういえば西月先輩からアイスクリームを作らなかったのは希望した機械の購入を理事長がさすがに許可をしなかったからだと聞いた。

 いったいどんな機械の購入をお願いしたのか恐ろしくて聞けなかった。


 購買に行くとアイス売り場のケースに“5月9日はアイスクリームの日だそうです”と書かれた紙が貼ってある。

「へー、5月9日ってアイスクリームの日なんだ。知らなかったなあ」

「昨年までは貼ってなかったよな、これ。それにしてもどうして夏じゃなくて5月なんだろうな」

 俺と修吾が話していると、あのうと松桜院くんが口を開いた。

「なんでもアイスクリームの業界が東京オリンピックの年にアイスクリームの消費拡大を願って設定したそうです。ちょうど今頃がアイスクリームのシーズンの始まりみたいで」

「へー、バレンタインのチョコレートみたいだね。物知りだね、松桜院くん」

「雑学好きだったのか、松桜院は」

「いえ、実は昨日購買に来たときにおばちゃんが紙を貼ってて、聞いたら教えてくれたんです」

「松桜院はおばちゃんに好かれるんですよ」

「そうそう。年上キラーなんだよな」

「な、なにいってんだよ。大和田も萬も一緒に聞いてたじゃないか!」

 大和田くんと萬くんに茶化されてあたふたする松桜院くんを見てると、ちゃんと歳相応で安心するなあ。なんだかほのぼのとした気分になってしまう。

「あれー。さわっち、くまっちもアイス買いにきたのか」

 そこに現れたのはジャージ姿の白戸だ。

「なんだ白戸もかよ。なんでお前ジャージなの。今日は部活ないだろ」

「ストレス解消でちょっと走ってきた…お、生徒会に大和田も一緒にいたのか。そういえば今月は交流合宿あるもんな。で、みんな何のアイスにするんだ?」

「これから選ぶんだよ。あ、白戸も一緒に食おうよ」

 今年の班編成では、白戸は俺たちと一緒にする予定なのでこの際1年生トリオはこのいいやつなんだがチャラいキャラに慣れておいてほしい…特に松桜院くん。今も未知との遭遇みたいな顔してるし。


 各々アイスを選び、俺たちは食堂に移動した。夕飯まではまだ時間があるせいか人はまばらだ。

「僕、こうやって放課後にアイスを食べるのは学園に来てからなんです」

 あずき味のアイスという渋いチョイスをした松桜院くんは嬉しそうだ。

「へー、学校帰りに買い食いとかしなかったのか」

「はい。学校が終わるとすぐ稽古なので、家から迎えが来ていましたから」

「あ、そっか。松桜院の家って歌舞伎やってるんだもんな。すっかり忘れてた」

 白戸の言葉に松桜院くんはとても嬉しそうな顔をした。そうだよな、彼の場合は常に「家」がつきまとっているのが普通なんだよな。

「白戸先輩が食べているのは、それって2本に分かれるやつですよね」

白戸が食べているのは2つに分かれるチョココーヒー味のアイスだ。

「そういえば白戸はいっつもそれな。お前、好きだよなあ」

「まあな。俺さ、このアイスでやってみたいことあるんだ~。知りたいか、くまっち」

「いや別に」

「そうか、知りたいか。俺さ、いつか彼女とこのアイスを分け合って食べたいんだよなあ。夏の暑い日とかにこうポキっと分け合ってだな」

「ま、いいんじゃない。俺はこの間別れた彼女とやったけど…そういえばつきあったきっかけもそのアイスだったな。何校かで合同合宿やったときに、たまたま分け合ったんだよな」

「へー、大隈寮長もですか。俺も中学のとき彼女と夏祭り見ながら分けました」

「大和田くんも?偶然だね」

「そこの寮コンビ!!なにそんな楽しいことやってんだよおお!!くっそお、俺は絶対さわっちよりさきにアイスを分け合う彼女をつくってやるうう!!」

「なんでそこで俺を引き合いに出す」

 俺があきれたようにいうと、1年生トリオと清水くんが肩を震わせて笑いをこらえている。アイスを分け合う彼女かあ…この学園にいるうちは無理だ。でも白戸には負けたくないなあ、とちょっと思ってしまった俺だった。

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