24:新しい生徒会役員
今年、うちの学園には珍しく有名人の新入生が入る。梨園の御曹司、松桜院 清隆(:しょうおういん・きよたか)くんだ。OBの1人から打診を受けた理事長が“うちの入試にトップクラスの点数で合格したらいいよ”などとお気楽に言ったら、本当に合格しちゃったらしい。
まあ、この学園の生徒って団結するときはすごいけど基本は個人主義なので相手が誰だろうと気が合えばつきあうし、そうじゃないなら当たり障りなく接するのが普通だ。だから彼が来ても大丈夫だと思うんだけど、歌舞伎の世界っていっつも稽古してなきゃいけないんじゃなかったか?学園に来て大丈夫なのか?
思わず俺がその疑問を理事長にぶつけると、理事長もそうだよねえと言う。
「私も一応、彼の家族にお伺いしたんだよ。ここから劇場まで行くのも大変だし、何より芸の方面で周囲から取り残された気分になるんじゃないのかなあって思ってさ。そしたら彼のお父様から“学歴は邪魔になりませんし、どうせなら最高の環境で学ばせたい”って言われちゃってさあ、思わずそういうことならいいですよって返事しちゃったよ」
いやー、まいったなあってなに笑ってんだ理事長。
「育った環境もあって注目されるのも慣れてるみたいだしさ、うちの学生が可愛い女の子ならともかく男に浮かれると思えないしね」
確かに男には浮かれないだろうな、見慣れてるし。まあ梨園の御曹司といっても学年違うからあんまり関わることないだろうし、と思っていたのだ。そのときは。
「清水くんが副会長で、あとは会計と書記か。人を選ぶのって難しいなあ」
俺が生徒会に引きずり込まれたのは犬山先輩に目をつけられたからでそのままずるずると…ほんと、なんであのとき屋上行ったんだろう。
「そうですよねー、俺は青木先輩から“清水くん、生徒会会計よろしくお願いしますね”って真っ黒オーラ満載で微笑まれました。あれは逃げられませんよねー」
「真っ黒オーラの微笑みかあ、それは逃げられないね。俺は当時3年生だった天野先輩の発明をのぞいたのがきっかけだったよ」
「へー、爆発明王の発明見てみたかったです」
「ばくはつめいおう?…何その呼び名」
「いつも発明品を爆発させてたんですよね、その天野先輩って方。一度会ってみたいです」
「……あー、イベントに来たら紹介するよ」
できればそのまま助手の役割も引継ぎしたいよなあ。はっ!いかん、今はそれより新しい会計と書記を探さねば。
「あ。会長、俺ちょっと思いついたことがあるんですけど」
「ん、何?」
「御曹司、生徒会にいれませんか」
「……清水くん、それはまじめに言ってるのかい?ふざけてるのならいくら俺でも怒るよ」
「オカン会長、俺はまじです。まあ聞いてください」
オカン会長という呼び名に多少引っかかりを感じるものの、いつになくまじめな清水くんの態度に僕は聞く体制をとった。
「御曹司…松桜院は副寮長の大和田と仲がいいです。あと、両親が公認会計士事務所を経営してて本人も目指している萬(:よろず)とも気が合うようで。俺は数学を愛してやみませんが収支計算は面倒くさい。このさい萬に押し付けたいです」
「清水くんの動機が微妙なのに、しっくり聞こえてくるのが不思議だよ」
「それと松桜院は書道が特技の一つらしいのできれいな字を書くそうです。萬とペアで会計と書記にぴったりだと思いませんか」
「パソコンはマニュアルあるし俺たちで教えればいいしね。でも、萬くんはともかく松桜院くんは忙しいんじゃない?」
「ま、そのへんは本人呼んで聞いてみませんか。それに松桜院は生徒会に入ってたほうが会長と寮長の目が光ってる感じがして、暇なやつが絡んでこないと思うんですよね」
清水くんの顔がなんだか青木先輩の真っ黒微笑みに似ているのは気のせいだと思いたい。
その後、清水くんの思惑どおり松桜院くんと萬くんが生徒会の一員になった。生徒会室にやってきた修吾がのんびりと茶をすすりながら、清水くんと仕事をせっせと覚える2人を見てる。
「ちーちゃん、結構いい人選したじゃんか」
「清水くんのプレゼンがよかったんだよ。この際だから会長職も引き継いじゃおうかな」
「会長、それは困ります。オカン会長の統率力は俺にはまだありません」
「そのオカン会長ってなに」
「ちーちゃんに言われると確かに言うこと聞かなきゃっておもうよな。わかるよ、清水」
「ですよねー、さすが大隈寮長」
なんだろう、この敗北感…西月先輩がオカンといわれていたときの複雑な表情を俺はふと思い出したのだった。




