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20:衝撃の冬休み(前編)

トムトム様から澤田さんを拝借するにあたり、いただいたネタの種を使用しております。ありがとうございました。

長文のため前後編になります。

「そっかあ、残念だな」

「すいません、天野先輩」

 天野先輩の残念そうな声をきくとちょっと胸が痛むけど今年の冬休みの予定は両親と話し合って実家で過ごすということが先に決まっていた。

 今は父の部下夫妻に貸していて俺の部屋もそのままにしてもらっているらしいけど……じつはちょっと気が重い。寮生活で他人との生活は慣れているけど、とりあえず正月まではお世話になって早めに寮に戻ろうと決めている。ほんとは年越しも寮でしたかったんだよなあ…昨年は白石寮長主宰で「闇鍋で何に当たっても完食するのが決まりだぜ会(もうタイトルだけで恐ろしいものがある)」だったらしく、それに参加した白戸は遠い目で“さわっち…鍋にグミって合わないんだよ”とぽつりと言っていた。

 しかし今年は青木先輩主宰なので「今年はまともな鍋ですよの会」らしく、白戸の喜び具合がすごくて俺と修吾がちょっとひいたのはここだけの話。

 大晦日まであと数日というところで、俺は地元に昼過ぎに到着するように寮を出た。駅までは修吾が一緒だ。

「ちーちゃんの実家はお父さんの部下夫妻が借りてるんだよな。なあ、もし居づらいんだったら、うち来るか?うちの家族、ちーちゃんに会いたがってるしさ」

「だからちーちゃんはよせっての。あのなあ、年末に行くのはどうかと思うぞ」

「うちはそんなの気にしないのに。ちーちゃんは真面目だなあ。あ、俺こっちだ。じゃーな、よいお年を!」

「修吾もよいお年を!」

 にぱっと笑ってぶんぶんと手を振る修吾に手を振った。それにしても修吾はいつになったら俺のことをちーちゃんと呼ぶのをやめるんだろう。


 昨年は天野先輩の実家でバイトをしていたので実家に戻るのは1年ぶりということになる。駅からのんびり歩いて行くと、久しぶりの実家が目に入った。父を通して今日戻ることは伝えてあるとのことなので、誰か家にいるはずだ。

 それにしてもやっぱり住人によって家の雰囲気は変わる。「澤田」の表札の下に「小池」の簡単な表札がぶらさがってたりしているだけで、もうここは実家じゃなくて「お世話になる家」なのだ。

 鍵は持っているけれど、さすがに勝手に入るわけにはいかないのでインターホンを押す。

「……あれ?連絡してあるはずなんだけどな…」

「すいません、どちらさまですか。うちになにか」

 再度押そうとしたとき、脇から声をかけられた。そこに立っていたのは30代前後と思われる男女。

「あ…お、僕は澤田千紘といいます。あの、こちらに現在お住まいの小池さんでしょうか」

 俺が名乗ったとたん女性のほうがえええっとものすごく驚いた顔をした。

「えっ!!?男の子なの?!ちょっと、私聞いてないんだけど」

 そういうと男性のほうにつめよっている。

「えっ!俺言ったじゃないかっ!部長の息子さんが年末年始に来る予定だって」

「うそ!!部長のお子さんが来る、しか聞いてない!!名前が“ちひろ”だから女の子かと思ってたのに!!ちょっとあなた、ほんとうに“さわだちひろ”さん?」

「おい、失礼だろう!!」

 外で大声出しちゃ迷惑だよなあ…と思っていたら奥さんらしき人の矛先が俺に向いた。確かに“ちひろ”って女子にも多いけど…なんか言った言わないで収拾がつかなくなりそうだ。ここに俺を知ってる第三者がいてくれればいいのに。


「いったいなんの騒ぎ…あら、千紘くんじゃないの!!」

 なんとラッキーなことに騒ぎに気付いた隣のおばちゃんが出てきてくれた。おばちゃんとうちの母は仲がいい。これは助かった。

「まあまあ、いつ戻ってきたの。元気そうねえ…ところで家の前でどうしたのよ」

「戻ってきたのは今日なんですけど、どうも父からの連絡で行き違いがあったらしくて…」

「行き違いって?小池さん、どういうことかしら?」

 おばちゃんに聞かれた小池さん夫妻はなんだかとても気まずそうな様子になった。

 結局おばちゃんが貸主の息子“澤田千紘”であると話してくれて、無事実家に入ることができたけど…ああ、居づらい。荷物を置くといって自分の部屋に来たものの…部屋から出て階下の居間には非常に行きづらい。

 この状態で年末年始いたくないなあ。とりあえず今日だけお世話にあって明日は寮に戻ろう。ため息をついて、青木先輩に電話しようと携帯を手に取った。

「……これはラッキーなのか?」

 天野先輩からの着信履歴がついていた。


後編は12/19(月)AM10時公開です。

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