19:イエス!焼き芋!
学園祭が平和に終わり、もう一つの秋の一大イベント“学園焼き芋大会”が近づいてきた。ほんとうに今年の学園祭はロボが暴走することもなく穏やかだった。俺はバスケ部のクレープ屋とクラスの”2代目おかんのカフェ“という非常に不本意なネーミングの店でともに調理担当として活動し、さらに生徒会として見回り…要するにとんでもなく忙しかった。でも皆が助けてくれたからなんとかなった。3年生になると、クラスや部の参加はなくなる。俺も来年はきっと普通に楽しめる…うん、たぶん。
もともとうちの学園には藩校だった頃に作られたさつまいも畑があって、作られた理由は食べ盛りの男ばかりの環境で食費の節約のため。収穫時期になると校庭のあちこちで焼き芋をしていたそうだ。食糧難の時期には学園側も自分たちだけではなく地元の人たちにも配っていたらしい。
焼き芋大会を仕切るのは料理上手な生徒会長の西月先輩ではなく、野菜栽培部。毎年学園祭とこの日に旬の野菜とともにさつまいもを手頃な値段で販売して活動資金にしているのだが、けっこうな人気でいつも発売時間前にたくさんの人が並んでいる。
今日は生徒会に野菜栽培部の部長である梨宮先輩が顔を出していて、会長である西月先輩と打ち合せをしている。
「今年も芋の収穫量はいい感じだよ。他もいろいろ収穫してきたから使ってよ」
「いつもありがとう。さっそく明日にでもなにか作るから食べにおいでよ」
「お、そうか。じゃあさっそく部員たちと行くからよろしくな」
「わかったよ。そういうわけで澤田くん、手伝ってね」
なるほど、こうやって野菜を調達してるのか…そういえば西月先輩の料理のために白石寮長が別枠で予算を組んでくれと理事長に直談判したって聞いたことがある。あれは本当なんだろうか。
あの人なら自分が美味しいものを食べるためにやりそうな気がするんだよな。そして調理助手としてのポジションな俺。天野先輩の助手よりはるかにマシなのでこれは受け入れている。
焼き芋大会当日は小春日和のいい天気。
「おおお、絶好の焼き芋日和!!そう思わないか?さわっち、くまっち!!」
「白戸、朝からうるさい」
「まったくだ。うるさいよ白戸」
焼き芋係になった白戸は朝からテンションマックスでうるさい。まあうちのクラスの焼き芋係である秋山も張り切ってたなあ。焚き火で変なテンションになるやつというのは一定数量いるもんだ。
俺と修吾は副会長と副寮長ということで、周囲を見回ることになっている。今は地元の人は参加しないのだが参加していた頃は不届き者がいたらしく畑の野菜が盗まれたとか、校舎に侵入されたとかいろいろあったらしい。酔っ払いが乱入してケンカ騒ぎになったこともあるらしく地元と学園で話し合った結果、一般人は正門近辺での野菜の販売所のみ入場可。それ以外の学園敷地内は侵入禁止となった。
だから今は学園内を見回るだけでいいんだけど…この時期は何かと開放的なのだ。
「なあ、ちーちゃん。今年は衝撃的な場面に当たらないといいよな」
「ちーちゃんって呼ぶなっての。でも止める権利は俺たちにはないし、恋愛は自由って言うだろ」
「そりゃそうなんだけどさ。俺はちーちゃんに欲情したことないぞ。女の子がすきだし」
「俺だって女の子がすきだよ」
「なに2人でこそこそ話してるんだよ。俺が寂しいじゃないか」
「白戸、そろそろ焼き芋準備じゃないのか?」
「あ!!やべえ!!梨宮先輩に怒られる!!じゃあな!!」
俺が腕時計を見せると白戸はちょっと焦って走って行った。白戸はチャラいが結構ピュアだからなあ…あいつが知らないほうがいい世界がこの学園にもあるってことだ。
校庭にキャンプファイヤーのような焚き火があがり、周囲を先生と生徒が囲んで焼き芋を待っている。軍手をしているのが焼き芋係の生徒と野菜栽培部だ。
あたりにただよう落ち葉の匂いと、それが焼ける匂い。さらにただよってくるさつまいもの甘い香り。学園にいると実家にいたときより季節を感じることに敏感になっている気がする。きっと季節ごとに組まれるイベントと自然の多いこの場所のせいだ。
「芋焼けたぞお」
梨宮先輩の焼き上がり宣言に、嬉しくなる俺たち。手で割るときれいな黄金色で、ふうふうしながら口にいれた焼き芋はとろりと甘い。
「うまいなあ」
「うん、うまい!」
「そうだろうそうだろう。俺の焼き方がよかったんだな!!」
「火花で前髪がこげた白戸に言われたくない」
「さわっち、言うなああ!!」
テンションマックス状態で火の面倒を見ていた白戸は、芋とともに自分の前髪を焦がしていた。しばらくのあいだ、俺たちに笑われつつも慰められていた。




