17:サマーホリデイ(後編)
天野先輩がゲストハウスから持ってきた“すいか割り武士たねのすけ”は、先輩のいうとおり文化祭のときに暴走したごあんないざえもんの改造版で、竹刀をもち剣道のメンのかまえをしてる。
職員室で許可をもらい道具室にあったブルーシートを広げ10畳くらいの中央にたねのすけを置く。
「モニターですいかを確認して、割りやすい角度を算出してそこをえいって割るんだ」
「目隠しをしないんですか?」
「助手、食べ物を無駄にしてはいけないだろ?」
そういえば天野先輩ってどんな発明をしても、ぜったい食べ物を犠牲にするようなことはなかったな。だとすると数少ない成功例になるのではないだろうか。
すいかを買いに行っていた白石寮長と大久保会長が戻ってきてシートの中央に置き、天野先輩がたねのすけにスイッチをいれた…
「まあ、これはこんなものだろうな」
「そうだね。佑って食べ物が絡むと暴走しないものね」
「法哉も和樹もうるさいぞ」
「いや佑の数少ない成功例がようやく増えたなと思って」
「典に画像つきのメールも送っておいたよ。よかったね、佑」
「2人とも喜び方がつめたい!!なあ、助手そう思うだろ」
「すいか甘くて美味しいですね」
「助手もひどい~!!」
「天野先輩、きれいに割れてていいじゃないですか」
「そうですよ天野先輩。とってもきれいに割れたじゃないですか」
「隼人、涼輔~~」
そう、たねのすけは無事にすぱっとすいか割りを終え現在はスイッチオフだ……問題は夜のドリーミン花火だ。
ゲストハウスに近寄る学生はあんまりいないだろうし、先生方には許可をもらったから(ものすごく同情されてしまった)、青木先輩がいうとおり“被害は最小限”になるはずだ。
どうせなら、花火が全部しけるとか予想外の大雨降らないかな…思わず願った俺だった。
俺の願いもむなしく、夜空はきれいで花火がしけていることはなかった。とりあえず天野先輩の実験に慣れている俺たちしかいないし、もちろんバケツに水は満タンだ。しかも3つも用意したのだ。花火は10本なのに。でも天野先輩の発明品だ。油断大敵である。
「さー、つけるぞお。いざ、夏の楽しい夢ドリーミン花火!!」
火をつけると花火は普通にシュワシュワと火をふき、ぱちぱちと音を立て光を放つ。お、見た感じは普通の手持ち花火だ。天野先輩の発明品なのにまとも……と思っていたのに。
まず顔をしかめたのは白石寮長と青木先輩だった。
「ん?!なんだこのこげた臭いは!!」
「これは……なにかをいぶした臭いでしょうか」
とにかくやたらこげくさい臭いがあたりにただよう。しかも、この花火は普通の花火より燃焼時間が長い。ということはこのこげた臭いが続くのも長いわけで。
「佑!!お前、なにがドリーミンだ!!こりゃ悪夢の臭いじゃねえか!!」
「俺の予定ではイチゴの香りだったのに~」
「イチゴ、ねえ。そうとうこげくさいイチゴだね。佑?」
暗闇のなか、花火片手ににっこり笑いつつもほんのり大魔神を降臨させている大久保会長は相当怖い。
「ううう。法哉がこわい」
「天野先輩、これ残りはつけなくていいですよね。このまま処分しますから。澤田くん、未使用のものも全部水につけてくれるかな」
「分かりました、西月先輩」
現生徒会長、西月先輩の判断でドリーミン花火の実験は終了した。
まだこげくさい臭いがただようなか、花火の処理を終えて俺はふと夜空を見上げた。
「ちーちゃん、夜空見上げてどうした」
「白石寮長、星がきれいですよ」
「お。そうだなあ。そういえば学園にいるときは俺もよく星を見てた」
白石寮長、まさかのロマンティストだったのか。あ、でも意外と繊細だからありえる。
「ところでちーちゃん、今年の修学旅行はどこに決まったんだ?」
「京都と奈良です。俺、中学に続いて2度目なんですよ」
「まだ2度目だからいいじゃねーか。地元だってやつよりはましだ」
そういや、クラスに京都と奈良出身がいて“なぜ修学旅行で地元に行かなきゃいけないんだ”ってがっくりしてたっけ。
「もちろん自由行動に大学巡りは入ってるんだろ?」
この学園、修学旅行の自由行動で必ず大学巡りをいれることが決まりなのだ。全国の有名大学にOBの学生および教授がいるため、独自に案内をしてもらうためだ。
「ええ、俺たちも何ヶ所か案内してもらうことになっております」
「俺のときもOBの皆さんが案内してくれてすごく参考になった。きっと、ちーちゃんのためにもなる」
「はい、俺しっかりいろいろ見てきます」
「あ、でも逆ナンパには気をつけろよ。毎年それで集合時間に戻ってこないやつがいるんだよ。まあ、ちーちゃんにその心配はないか」
やっぱり、寮長は寮長だった。




