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16:サマーホリデイ(前編)

 学園にはOB専用のゲストハウスがある。これは藩校から全寮制の学校になったとき、初代理事長の “学園は皆の故郷である”というモットーから創設時に作られ、何度か建替えをし現在に至っているものだ。とはいえ希望者全員が利用できるということはなく抽選が行われていて、特に夏は涼しいので人気がある。

 そんなわけで、学園が夏休みのいまゲストハウスには当選したOBたちが遊びに来ている…それにしても、この人たちの場合は何か細工したんじゃないかと疑ってしまうのは俺だけじゃあないはずだ。


「助手~~!!久しぶりだな!!背が大きくなって!!」

 そう言って俺の頭をぐりぐりするのは天野先輩だ。

「あれ、木ノ瀬先輩はいないんですか」

「典は教授に頼まれたゼミの手伝いで来れなかったのだ。うーん残念残念」

 てことは。ストッパー役がいない?!大魔神様(:大久保会長)はいるけど、発動させたら1年生たちがあとで悪夢を見てしまうに違いない。

「ちーちゃん、なにを心配してるんだ。俺が佑をとめてやるって」

「白石寮長の言動がまず信用できません。というか騒ぎを起こす前提ですか」

 修吾は剣道部の合宿で学園にいないし、白戸は天野先輩にちょっとびびっているので無理だ。

「澤田くん、大丈夫ですよ。もう卒業したんですから寮で騒ぎを起こそうなんて天野先輩も白石寮長も思うわけないじゃないですか。ね、寮長?」

 青木先輩の空気が一気に冷え込んだ気がする。俺、疲れてるのかな。

「あああああたりまえじゃないか。俺たちはOBだぞ。寮で騒ぎなんて…なあ、佑」

「そ、そそそうだぞ。隼人。確かにいろいろ持ってきたけど、屋上でやるし!!」

「…………やることが前提なんですね」

 現寮長である青木先輩は深い深いためいきをつき、西月先輩は俺の肩をぽんぽんとたたいた。

「天野先輩、いろいろってなにを持ってきたんですか?」

「さすが俺の助手!そうだよなあ、知りたいよなあ。まずはこれ!!」

 天野先輩が、じゃーんと言いつつだしたのは手持ち花火が10本ほど入った袋。

「へ~、花火買ってきたんですか。今日は夜も雨ふらない予報ですから寮の前でできますね」

 すると天野先輩がちっちっちと指をふった。

「ノンノンノン助手。これは俺が作ったんだ~。名づけて“夏の楽しい夢ドリーミン花火”!」

「「「「「…………」」」」」

「和樹、佑の発明品の中身を確認しなかったのかな?」

「……悪い法哉。せいぜいすいか割りマシーンくらいかと」

「お!和樹鋭いな!!それもあるぞお。 “すいか割り武士たねのすけ”って言うんだけどさ、ごあんないざえもんの改良版なんだ。あとでお披露目な」

「事前に送ってきた荷物のなかにあったんですね」

「よく気づいた隼人!!」

「気づきたくありませんでした。そうそう天野先輩。すいかわりはいいですけど花火はだめですよ」

「え~!!昨年も一昨年も花火大会しただろう」

「それらの花火はプロの業者が作ったちゃんとしたものです。少なくとも暴走はしません」

「これだってちゃんとしてるぞ。火薬の薬品は大学の教授から紹介されたところで買ったし、作り方もちゃんと教わったんだから。まあちょっと俺の工夫がされてるけどさ」

「工夫ってなんだ、佑」

 その工夫って言葉に、白石寮長が興味を持ってしまったらしい。あ、なんかものすごく、やばい気がする。

「花火って楽しいけどちょっとはかないだろ?だから、ちょっと楽しい雰囲気をのこしていい夢見られるように香りを工夫したのだ」

 それはきっと悪夢になるんじゃ……ふんふんと聞いてる白石先輩と嬉々として説明している天野先輩以外は全員そう思っている。ただ、それを誰が言えるんだろう……ああ、木ノ瀬先輩がいてくれたなら。


「いい夢か。うん楽しそうだな。隼人、ゲストハウスの前なら他の学生に迷惑かからないよな」

「確かに校舎や寮からは少し離れてますからね。ゲストハウスの利用者も寮長たち以外はいません。西月くん、被害はどうやら最小限になりそうですね。どうしますか」

「僕に白石寮長を止めるのは無理だよ。まあ澤田くんもいるし」

 ああ俺はやっぱり逃げられないのか……昨年みたいに両親のところにいけばよかった。

ちなみに「ごあんないざえもん」とは7:愉快と混乱の学園祭(前編)&8:愉快と混乱の学園祭(後編)に出てくる佑作成ロボットです。

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