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14:ちーちゃんの背丈

 俺は手元に戻ってきた身体測定表を見て思わずにんまりした。よっしゃああ!!身長が伸びてる!!ついに170センチ!!

「さわっち~、おっきくなったかあ?」

 そう言って俺の身体測定表を横から覗き込んできたのは隣のクラスの白戸。同じバスケ部だ。

「5センチ伸びて170になったよ」

「そっか、まあ俺は3センチのびて180だけどな。お~、くまっち」

「くまっち?」

 白戸が“くまっち”と呼びかけたのは、測定を終えて戻ってきた修吾。

「白戸、 “くまっち”ってのは微妙なんだけど」

「修吾、身長何センチ?」

「くまっち~、そんなつれないこと言うなよ」

「178。ちーちゃん、あとはレントゲンだけだな。白戸は?」

「俺はこれから視力検査なんだ」

 じゃあなと白戸は走って行った。


「修吾も白戸と知り合いだったんだな」

「あ~、春休み中にちょっとな。ちーちゃん、白戸ってものすごくフレンドリーだよな」

「そうだな。俺も入部申し込んだ日が一緒で、気づいたら話をするようになってた」

 健康診断は午前中に終わり、午後は普通に授業がある。俺たちは食堂でいつものように昼食をとっていた。俺はカレーライスとツナタマゴサンド、修吾はカツ丼とわかめうどん。

「さわっち、くまっち。隣空いてるよな。ま、分かってて声かけたんだけどさ」

 にこにこと白戸が食事のトレーを持って来た。持っているのは本日のおすすめ鯖のトマトソース定食だ。俺の隣に座ると白戸はさっさと食べ始めた。

 もうすぐ始まる交流合宿のことや、修吾が寮長である青木先輩と一緒に作成している裏地図の話をしているうちに身長の話になった。

「そういえばちーちゃんは白石先輩によく頭なでられてたよな」

「あ、俺も見たことあるかも」

「……2人とも言うな」

 前の寮長だった白石先輩をはじめ生徒会の先輩たちに天野先輩、木ノ瀬先輩までみーんな俺より背が高かった。ある日、何を思ったか寮長が俺の頭をぐりぐりしだしたのが始まりだ。

「な、なにすんですかあっ!」

「いや~、ちーちゃんってなーんか頭ぐりぐりしたくなるんだよな~」

「はあっ?!」

「俺も助手の頭ぐりぐりするーっ!」

 なんで天野先輩までぐりぐりと…俺の髪の毛はおもちゃか。ま、実験材料よりはましか…いや待て俺。思考が天野先輩に毒されてないか。というか、先輩たちはなんだか楽しそうだが、俺はぜんっぜん楽しくないっ!!

 そんな俺の様子を見ていた大久保会長がにこやかな冷気を漂わせて2人を止めてくれたからよかったものの、それからも寮長はときどき俺の頭をなでていたんだよな~。


「…さわっち、カレーとサンドイッチを一緒に食べるのが好きなのか?」

「ちーちゃん、その組み合わせはちょっと欲張りじゃないか?」

「…へっ?!」

 どうやら俺はいろいろ思い出してるうちに右手のスプーンでカレーをすくい、左手にタマゴサンドを持っていたらしい。

「……ちょっといろいろと思い出してた。ところで白戸はピーマンがきらいなのか?」

 白戸は定食についていたサラダのローストピーマンだけをきれいに残している。

「……目ざといな。俺さあ、基本好き嫌いのないいいこなんだけど、ピーマンだけはちょっとな」

 自分で“いいこ”って言うなよ、白戸。

「白戸、そのピーマンは甘くておいしいぞ。食え」

「え~~~。やだよ」

「白戸、好き嫌いのないいいこってのはピーマンもちゃんと食うと思うぜ~」

「くまっちまでさわっちの味方かよ。お前に嫌いな物はないのか」

「俺はない。いいこだからな」

 修吾、ニヤリと笑って“いいこ”って…。

「うっ…味方がいない」

「白戸、もう高校生なんだからピーマンくらい食べれるようになんなよ」

「嫌いなものに年齢は関係ねえよっ。くまっちのおっさん!」

「誰がおっさんだ!俺がおっさんならおまえは偏食のお子様だ」

「……2人とも、もっと静かに食事しようよ。白戸、そのピーマンは緑のものより甘いから食べやすいよ。試しに一口食べてみて。修吾もあんまり白戸をからかうなよ」

「「……」」

 俺が割って入ると2人がなぜかそろって無言になって俺を見た。

「なに?」

「さわっち、なんかオカンみたいだ」

「ちーちゃん、実は結構な世話焼きだからな~。オカンってぴったりかも」

「……勘弁してくれよ」

 

 この状況を見ていた同級生たちからオカンと呼ばれるようになったのは、それから間もなくのことだった。

後ほど、キャラクター一覧を更新します。→2016/05/05:キャラクター一覧更新済み

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