ヤクザは何かとキャバクラに行きがち
「……おい、なあみかる、機嫌直せよ」
「……………」
「なあ、悪かったって」
拗ねて頬を膨らませるわたしの隣で、つばやさんがオロオロ焦っている。正直めちゃくちゃ面白くて笑いそうになるけど、ほんとに怒ってるのは事実だから、まだ「ぷーん」とわざとらしく顔を背けてやる。
つばやさんのヤクザジャケットからはプンプンお酒の匂い、タバコの匂い、香水の匂いに混じってキツイ女の匂いがしてる。くそヤクザめ、腹立つほんとに。
「仕方ねぇだろキャバクラぐらい行くわ、俺の仕事何だと思ってんだよ」
「暴力団組員。街から撲滅させるべき反社会的な犯罪者」
「は、犯罪者……」
めちゃくちゃ焦ってたつばやさん、何が刺さったのか知らないがピキーンと固まってしまった。いや事実だろ何にショック受けてるんだよこの強面極道。
「なぁお前さ、前から思ってたけどヤクザ普通に嫌いだろ」
「なんで好きだと思ったんです逆に。好きだったらもうちょっと媚びますって」
「なぁ、なんかいつもの5倍辛辣だな」
いや、ごめんつばやさん。いじめるのが楽しくてつい。こんなデカイ男がオロオロしてるのが見てて愉快すぎて、つい。そろそろ耐えきれなくなって肩が一回プルプル揺れた。
「……みかる、こっち向け笑ってんなさては」
「わ、わりゃって、ないです」
「おい嘘つけ笑ってんだろ」
ぐぎぎぎ、と頭を掴まれて無理やり振り向かされる。ぴくぴく口を引きつらせて怒りマークを額に浮かばせてるヤクザがいた。
「う、うへっ、な、なんですかその顔」
「人が悪かったって謝ってやってんのにおちょくりやがって」
「だ、だって、つばやさんが悪いんじゃないですか!」
厚い胸板をポカポカ叩くと、そのまま乱暴に抱き寄せられた。鼻が身体にぶつかって痛い。んで、また嫌な匂いがしてきて、なんかヤダ。
「みかるお前、ヤキモチなんか焼くようになったんだなァ」
ぐしゃぐしゃとわたしの髪の毛を撫でながら、つばやさんはニヤニヤした声で言う。
「え? ヤキモチ?」
びっくりして言ってしまった。
「つばやさん、わたし別にヤキモチ焼いてない。キャバクラ行ったのには怒ってるけど」
「は?」
ピタッと髪の毛を弄んでいた手が止まる。無理やり見上げて、わたしは本音をヤクザにぶつける。
「いや、あれっしょ。どうせおっぱい大きい姉ちゃんはべらせて『ドンペリ!』からの『ドンドンペリペリ!』からの『ドンペリーニョ!』だったんでしょ!」
半ば押し倒さんぐらいの勢いで、つばやさんに詰め寄る!
「なんだよ! わたしだっておっぱいをはべらせたいよ! ドンペリのみたい!」
「…………」
何故だか分からないが、つばやさんは呆れ返ってしまった。ゼロ距離に迫ったわたしをグイと押しのけて、ノソノソと酒を取りに行った。
「え、何飲むんです?」
「うっせェな何でもいいだろ」
待って、なんで怒ってんの!?
なんかわかんないけどブチ切れ極道つばやさんは、焼酎(最近買ってもらった! 二階堂さま!)を持ってきて乱暴に焼酎グラスに注ぐと、ぐいぐい一気に飲んでしまった。
「ちょっと、ほんと大事に飲もうよ。よくないよつばやさん」
「うるせェな、飲ませろ、やってらんねぇよ!」
「なに、ほんとどしたの、更年期なの? 何があった? おねーさんに話してごらん?」
「お前にキレてんだよ!」
なんなんだこの情緒不安定な男。
わけわかんないから、わたしもお酒飲むことにした。てか、おつまみほしい。夜中だけどお腹空いた。ガサガサとキッチンでなんかないか探してると、良いのがあった!
冷蔵庫から取り出したのは、油揚げとチーズ。……おっと、ベーコンもあった! へっへっへ! こいつで今から簡単ウマウマおつまみを作るぜ! 太る? 知らんね!
油揚げは、軽く洗って油を落としたあと、一口サイズより少し大きめに切る。あとはチーズ載せてオーブンで焼くだけだ! もう一個は……チーズをベーコンで包んで焼くだけだ!
マジで手抜きだが、美味しいのだ。よく貧乏アパートに一人で住んでた頃は作ってたなぁ。
いい感じに焼けたら、めちゃめちゃ良い匂い。トロトロに溶けたチーズが油揚げの上でプクプクしてる。ベーコンで巻いた方もトロトロ。こいつは、上からブラックペッパーかけて……うん、たまらんなこれ。
ウキウキでソファで飲んでるヤクザの前に置くと、
「またなんか作ったな」と苦笑いされた。
「お前ほんとツマミは作るの上手いのな」
「おつまみ度下がったら何も作れんですけど」
「極端なんだよ」
つばやさんはぱくっと油揚げチーズを食べた。わたしもパクリ。んんん、この油っこさと風味、チーズとマッチして旨味がじゅわわわわーっと口の中を駆け巡るーーー!!
二階堂さまをそのままキュッと頂くと、口の中の油分をさーっと流して、そして麦の風味に「んんん!」と唸るしか。いやほんとこれ焼酎に合う。そしてこの、飲みやすい口当たりと、ふんわりとした甘み……やはりさすが、二階堂さま! おいしいっ!
つばやさんを見ると「……うめぇ」と、ボソリ。さっきまで機嫌悪かったのが嘘みたいに、鋭い眼光をキラッキラさせてる。かわいい。
「ね、合うでしょ、天才でしょわたし」
「……天才かどうかは知らねぇけど、旨い」
「どーせ成金ヤクザは良い物しか食べてないんでしょうけど、こういう貧乏なおつまみにこそ夢と希望が溢れてるんです」
さぁて、お次はベーコン巻きチーズちゃんだぜ。熱い内に、お箸でつついてとろっとろのまま口に放り込む。
……………んんんー! ベーコンの塩味、肉々しさとチーズの旨味がぁ! フルスロットル!! これは大変だ! 奇跡のコラボレーション! ルパンVSコナン並の、奇跡のコラボレーション!!
「お、おいひいー」
また二階堂さまをキュッといくと、染み渡る、染み渡る。んんん、極楽。
「……なんか、美味いメシも酒も、今まで散々食ってきたけどよ」
頬を緩ませたつばやさんの、大きな手が頭にぽん、と載せられた。
「お前と食う飯と、酒が一番美味い」
「……え、なに、プロポーズ?」
「一言も言ってねぇよ、ンなこと!」
つばやさん、めっちゃ笑いだした。なんかわからんけどよかった。
散々飲み明かしたころには、お互い何に怒ってたのか、そもそも何で飲み始めていたのかも忘れちゃっててーー
ーーーーうん、つばやさんのジャケットから、キャバクラの名刺が出てくるまで。
マジで忘れてた。
「……ドンペリ」
「いやもう、うるせェ。悔しかったらキャバで働け。良いとこ紹介してやるから」
「いやですそんなヤクザの息のかかったところ!」
掴み合いの喧嘩みたいになって、またお互いお酒飲んで。出来上がった頃には空っぽになった二階堂さまの瓶が、床に転がってましたとさ。
総合46万pv並びに現実恋愛ジャンル3位、本当にありがとうございます!ひとえに読者の皆さまのおかげです、本当に感謝感激!わたしが石油王だったなら、ドンペリをひとりひとりに差し上げたいくらいですー!!
これからもよっぱらがーるをよろしくお願いします!
(ゴニョゴニョ……実は、ムーンライトノベルのほうに、短編上げてます。18歳以上の読者さま、良かったらそちらもどうぞ……! あ、でもだいぶ……なんか、アレな感じなのでイメージを損なう危険があります、ご注意ください……!)
これからもよろしくお願いします!
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