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地獄のダイエット②極道激ヤセCOOKING

 何なの。ビール禁止って、息すんなって言ってんの。冷たい切れ長の目が、嫌に弧を描いて笑う。つばやさんは、気のせいじゃないとしたら、なんだか楽しそうな表情をしているのだ。


「…………わ、わたしにしねと」

「いや、死ねとは言ってねェだろ」

「いいい、一緒だから!」


 ついに箱から姿を表した体重計。くそっなんだその体脂肪率測定ってやつは! 黄色い可愛いメタリック。最新の機能は全く可愛くない。


 睨みつけていると、ごとん。床に置かれた。


「乗れ」

「…………い、いっかい、後ろ向いててくれますか」


 さっと電池を入れられ、生命を込められた体重計にそっと乗って。わたしは、おののき叫び、飛び上がり、


「ぎゃあーーーっ! な、なにこの体重ーーーっ!!」


と、高級マンション中に響くんじゃないかってくらい大声を出してしまったのだ。



○○。


 うーんと、たしか。わたしの身長は153センチだったはず。そして、無慈悲な体重計が叩き出したのは、54kgというやけにリアルな太り方の数字だった。 


 いやさぁ、100kgありましたー、とかなら、「あっはっは! 太りました、ちゃんちゃん♪」で済むじゃん。済まないけど。オチるじゃん一応。オチないけど。地獄落ちだけどさ。なに54kgってもう、微妙にまさにぽっちゃり越えしつつある体重っていうか。

 ガチで凹んで、ソファに突っ伏していると、つばやさんの声が上から。


「お前、前は何キロだったよ」 

「聞くな!」 


ぐぎゅるるるるる


 怪獣の鳴き声のようなお腹の音を、極悪ヤクザに「ぶっ」と笑われた。

 だって、つばやさんを楽しみに待ってて、何も食べてないのだ。つばやさんクッキングを楽しみに、お酒も飲まずに待ってたのに。いや、飲まずにっていうのは嘘だけど。チューハイ1缶開けたけど。


「体脂肪率は?」

「うっせえ、聞くな! 組長!」


 あっ。言ってから気づいた。いまのつばやさんに組長は禁句だった。新しい組の立ち上げ、諸々押し付けられたといって差し支えないあんな闇企業やこんな闇企業の案件で、ただてさえシワのよっていた眉間の谷が、さらに深くなってたというのに。あほなわたしは、自ら墓穴を掘った。


「……………お前、覚悟しとけよ? 絶対、痩せてもらうからな」


 ぞぞぞ。怖い声も、恐ろしいのは当たり前だけど。いまみたいな、やさしーい声もこわいんですけど!  


「か、覚悟ってなんだよ……」

 

 つばやさんは、またため息を吐いた。


「…………俺も責任感じてんだよ。お前を甘やかしすぎた。酒飲ませすぎたし図に乗らせた。俺も悪かったと思ってる」

   

 ほんとかよ。ほんとかよって思うけど、気まずそうにサングラス越しの目を泳がせるから、ほんとらしい。


「び、びーるほんとに、禁止?」

「………せめて、50kg切れ、な?」


 いやいやいや、それはハードル高い。首が取れそうなくらいブンブン振るわたしに、


「まァ待っとけ。楽しく痩せられるダイエット料理を、この齋藤鍔夜様が直々に振る舞ってやるよ」


 ぽんぽん、と頭をなでたヤクザは、にっこり優しく笑ってキッチンに消えていった。


 そ、そそそ、そんなの反則だーーーっ!


 惚れてまうやろ!!



○○。



「いいか。糖質を含む酒は、痩せるまで飲むの禁止だ。具体的にはビール、チューハイ、発泡酒、日本酒なんて言語道断だからな。お前が痩せるまで飲んでいい酒は、こいつらだけだ」


 ソファで倒れ込んでいたわたしの前に、つばやさんは酒瓶を置いて並べた。


「蒸留酒だな。こいつらは蒸留中に糖質がゼロになるから、まだ太りにくい」

「ぬぬぬ」


 睨みつけるのは、むぎ焼酎、ウォッカ、ウイスキー、ジンの4種類だ。


「の、のんでもいいお酒なのね」

「ただし、ちゃんと休肝日をとれ」


 サングラス越しに、すごーく睨まれている。まるでゴルゴ13。殺し屋の目だ。こくこく、頷くしかできなかった。


「だからってジュースで割るのもしばらく禁止だからな」

「わかったってもう、うるさいな。ごはんはまだですかー!」


 なかなか自分でもクズ言動かましてる自信しかない。つばやさんは「やれやれ」と呆れていた。


「もうできるから、もうちょっと待っとけ。言っておくぞ。お前が太ったのは、酒と一緒にツマミも食いすぎるからだ。だからカロリーの低いつまみで、カロリーの低い酒飲んで、しっかり動きゃ痩せるからよ」


 しっかり動きゃ、というのは是非聞かなかったことにしたい。

 しばらくしていると、ふわっといい匂いがしてきた。さすが齋藤鍔夜。高身長、高収入、高級車の3Kである。高級車はちがうか。料理もできちゃうんだから、今流行りのスパダリ男子よ。ただし組長なんだけど。


 そわそわしているわたしのもとに、まずやってきたのは白いサラダだった。


「だいこん?」

「大根サラダだな」

「おいしそう!」


 細く切られた大根は、ツナと和えられている。マヨネーズかかってるけど、いいのかなあ。


「大根の辛みを柔らかくするのにマヨネーズ使ってるが、カロリーハーフの買ってきたからな。痩せるまで普通の禁止」

「ひゃ、ひゃあい」


 そう言って、またキッチンに戻ったつばやさんに着いていくと、次は何やら、バターをフライパンに落としている。そして、おもむろに大根を焼き始めた。


「だ、だいこん尽くしだー」

「安かったんだよ大根」


 主婦か!

 つっこみそうになる。両面いい感じに焼かれた大根に、つばやさんは何やら醤油なんかでつくったのか、タレを注いでじっくり味付けし始めた。


「大根ステーキ?」

「お、正解だな。お前はお腹いっぱいまで食いたがるだろ。これならヘルシーに腹満たせるぜ」


 さらに、ごそごそと冷蔵庫から取り出したのは木綿豆腐だった。


「最後に、こいつに大根おろしかけて食えば、ダイエットつまみ晩飯の完成だッ!」


 自信満々でドヤ顔するつばやさん。いいひとだなぁというのと、なにこのひとかわいいなぁっていう感情に同時に襲われて「むふふ」と笑ってしまった。



○○。



 さて、安かったらしい「大根」をふんだんに使われた食卓には、大根サラダ、大根ステーキ、木綿豆腐に大根おろしという、いろんな大根がにこにこ鎮座しているわけだ。お湯をわかして、焼酎グラスに注ぐのはむぎ焼酎。女性にも飲みやすい、軽やかな味わいが人気の、かのかちゃんである!


「いただきます!」

「食え食え」


 つばやさんは流石にごはんをよそって、ガツガツ食べてるけど、わたしにはこのお豆腐がごはん代わりらしい。ぷるん、とヘルシーなお豆腐を一口たべると、大根おろしがいい感じにだし醤油を含んでて、あぁ、これはこれであり! 


「大根おろしは痩せるらしいぜ」

「そうなんですかぁ」


 次にぱくり、と食べた大根ステーキ。たぶん、つばやさんの技が光ってるんだけど、まだ若干歯ごたえを残してくれてるおかげで、けっこう満腹中枢を刺激されそうな感じ。痩せそう。そして、絡んだバター醤油がたまらない。


「…………バター醤油だけじゃないですね、さては」


 ちょっとだけ、ふんわり香る別の何かは舌をぴりっとさせてくる。つばやさんは自慢そうに笑った。


「味付けはしょうゆとちょっとのみりん、酒、そしてわさびだ」

「わさびだと!」 

「わさびはな、ダイエットに効果がだな……」

「痩せるらしいぜ、ですね!」

「…………まぁ、そうだな」


 極道ダイエットつまみは、なかなかのクオリティだ。ごくっ、と飲んだお湯割りかのかちゃんに、癒やされつつ。大根とお豆腐ですっかり満足させられちゃったのだ。



…………の、はずだったんだけど。



 食べ終わって、つばやさんに「しっかり風呂で汗流してこい」と半身浴を命じられ、いよいよお前はわたしよりも女子大生か! と突っ込んでしまった。ほかほか、いい香りのお風呂から上がると「ぎゅるるる」とお腹が鳴ってしまった。


 それを目ざとく、風呂上がりの組長に見つけられる。


「だ、だいこんじゃやっぱ、おなかいっぱいにならないです!」


 おなかを抑えて、嘆くわたしに


「…………だから太んだよ」


 と、ぼやくつばやさんの呆れた目線は、わたしのおなかに向かってる。  


「何かつくってやるから、待っとけ」

「か、神ヤクザ!」


 ということで、極道ダイエットごはんの第2部が、夜22:00を回って始動してしまった。


※みかるは元々の摂取カロリーが高めだったので、どどんとヘルシーに変えてます。ダイエットは適度な食事と運動が基本です!

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