地獄のダイエット①早死にするそうです。
完結&1000ブクマ、その他諸々全てへの御礼! ありがとうございます!番外編「ダイエット地獄編」になります。時系列的には、本編完結〜卒業までの間ぐらいのお話になります。よろしくお願いします〜!
隣でみかるが「むにゃむにゃ、びーる、」なんて、幸せそうに寝ている。こいつ夢の中でもビール飲んでんのかよ。つい口元が緩んでしまう。可愛い奴め。頬に手を伸ばすと
ぶに。
…………と、やけに肉厚な感触がした。
…………あれ、こいつ、こんなところに肉ついてたか? だらーんとよだれを垂らして「からあげだー」と寝言を言うみかるを見て、なんだか嫌な汗が出てきたぜ。待てよ…………。
容赦なく着ているパジャマを剥く。
ぽってりと出たおなか。
アゴにもぽよんと、贅肉。
太ももまでむっちむちだ。
「……………いや、これは、これはだめだろ」
思わず笑いそうになるが、多分深刻な事態だ。みかる。お前太ったな。
○○。
朝、目覚めると珍しくみかるの方が先に起きていたらしい。起きたのはいいが、布団がまるでグチャグチャで、俺の分まで荒らしてんのはどうかと思う。いつものことなんだけどよ。
ベッドから降りてリビングに向かうと、何やらいい匂いがしてくる。
「ぐっもーにん、ヤクザ」
ニヘニヘ笑っているみかるの手には、サンドイッチが乗っていた。卵とレタスを挟んだホットサンドだ。普通に美味そうだ。
…………普通に美味そうなんだが、明らかにマヨネーズが多くねぇか?
「みかる、おはよう。サンドイッチ作ってたのか」
いつ指摘してやろうか、とりあえず視線を泳がせる。
みかるは「マヨネーズが途中で無くなったんですよ、少なめですけどね」と残念そうにため息をついた。どこが少ねぇんだよ、パンにマヨネーズが染み出てるのを少ないとは言わねぇからな。
「…………だから太んだよ」
ボソッと言ったが、「まぁとりあえずお食べ」と、サンドウィッチを俺に押し付け、フラフラキッチンに戻ってしまった。聞こえてねぇらしい。ため息をつきてぇのはこっちなんだが、まぁいい。ガラスポッドに紅茶の葉を入れて、ソファに座った。そして決めた。今日、家電屋に寄ってから帰ろう。
何も知らねぇみかるのごきげんな鼻唄をきいて、一人計画を立てていた。
○○。
うーん、疲れたーなんて。大学から帰ってのんびりしていると、つばやさんのご帰宅だ。描いてたまんがを置いて、玄関までお迎えに行く。
「帰ったぜ」と、今日も今日とてお疲れ様な様子だ。
しかし、手には何やら大きな紙袋。つばやさんは「みかる、いいものを買ってきたぞ」と偉そうに言う。
なんだ、酒か? 酒なのか? とウキウキしていたら、地獄に突き落とされた。電気屋の紙袋から取りだされた箱の正体は、この世で女子が、一番見たくない家電だった。
ーーーーそう、体重計。
体脂肪計測といういらん機能まで搭載された、体重計…………!!
「な、なんてもの買ってきやがりましたか!」
恐ろしい文明の機器を前に、尻もちついてガタガタ震えていると、上から冷たい声で言われる。
「乗れ」
「いやです」
ぺたぺたと、頬を触ってみるけれど、自分でもわかるのだ。なかったところにお肉が、ぽよんとついているのだ。
「絶対乗りません」
「いいから乗れ、乗らねえとごはんも酒も抜きだぞ」
なんだそれ、死ねって言ってんのか。死ねと、わたしに死ねと。乗るも地獄、乗らぬも地獄。どうしたものか、考えていたら腕を掴まれた。
「ぎゃっ、は、はなせ! けだもの!」
「だぁれがケダモノだ。デブ」
「で、でぶって、今でぶって言ったよな」
直球の悪口はさすがに堪える。つばやさんはイライラした顔で「チッ」と舌打ちした。
「お前な、太ってんだよ明らかに。元々細くはなかったけど、お前今はポッチャリ超えつつあるからな」
「や、やめてぇ、ききたくない、いーやーだー」
お尻をついたまま、自室に逃げようと後ずさるけれど、掴まれた腕を放してくれない。なんかね、体勢だけ見ると今にもキスされそうな雰囲気だけど、キスどころか傷つけられてんだよ今。
「デブ、乗れ早く」
「いやだいやですやめてください」
わたしのことデブって呼ぶのやめてくれませんか。何回目かわからない、ふかーい溜息のあと、つばやさんは手持ちのスマホをポチポチし始めた。
「生活習慣病のリスク」
「ヤクザの口から生活習慣病とか聞きたくないです!」
「BMI」
「ききたくない!」
「アルコール依存症チェッカーやったことあるか? お前、ほんとなら病院送りだからな」
「ま、まって、いまは体重のはなしでしょ!」
「体重も酒もな、どっちもだよ」
真剣な顔をされると、さすがに言葉に詰まる。うぐ。何も言えない。
「このままじゃお前は早死にするな」
「わ、わかんないよそんなの!」
「10人中、10人が言うだろうよ」
早死予言までされて、泣きそうなわたしの頭を、ぽんぽん、優しく撫でた。
「だから、ダイエットしような?」
「………………………は、はぁい…………」
この男、わたしをあやすのが実にうまくなったな。優しく「ふっ」と笑い、そのまま悪魔のような一言を吐いた。
「じゃあ、痩せるまでビールは禁止な」
「…………………っ、え、っは、はぁ!?」




