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36.品宮です。アニキがこわいです。

不憫下っ端、品宮さん視点です!

「品宮、コレみかるが持ってきてくれたんだよ。手作りのガトーショコラだ。お前も食っていいぜ」


 尊敬するアニキ、齋藤鍔夜。その強靭な逞しい身体とキレる頭で、若くして幹部まで上り詰めたアニキの手には、呪いの箱が載っている。


 えっ。ガトーショコラ?


「い、いえっ、自分マジお見舞いに来ただけなんで」

「うちのみかるのケーキが食えねぇのか?あぁ?」


 ひいっこわい。アニキは本質的にはお人好しなのだが、やはりヤクザなので同業者には基本情け容赦ないことでも有名なのだ。


 普通はまだ起き上がることも難しそうに見えるのに、スタスタと当たり前のように部屋に備えられた冷蔵庫へと歩き、そこから取り出された呪いの箱(仮)には「グラサンヤクザ」「テキーラぶんぶん!」「龍が如くにでてた?」「焼き鳥」「アウトレイジビヨンド」など見るに耐えない落書きが書かれていて。


 えっ、ガトーショコラ? みかるさんの? コレ?


「それ呪いの箱じゃないんっすか」 

「俺にもそう見えるけどな」


 はっはっはー! と高笑いする小さなみかるさんを想像するだけで足がすくんで震えてきた。マジで怖いもの知らずか! こんなことアニキにやったら沈められるどころ済まない、普通は! ヤクザいじりがあまりに執拗すぎる!!

 

 開けられた、見ているだけでも恐ろしい呪いの箱の中には、見た目は普通なガトーショコラが半分入っていた。半分はもうアニキが食べたんだろうか。それよりも、開けた途端にわかるぐらいラム酒の香りがする。みかるさん、どんだけ入れたんっすか……!

 

「お、俺、車で来てるんで」

「……………このぐらい大丈夫だろと言ってやりてぇが、大丈夫じゃねえ量なんだよなこれが」


「はぁー」とアニキに重いため息を吐かせるのは、大抵は仕事とみかるさんだと相場は決まっている。


「お前、最近どこで働いてたの」

「自分は外回りの荷物持ちでした、最近は」

「大変そうだな、そりゃ」


 ヤクザの下っ端の下っ端はこき使われてナンボ。そんな自分にも「ちょっと面倒みてやったことがあるから」という理由で今でも気にかけてくれるアニキは、もはや心のアニキと言うべきか。歳はそんなに離れていないはずだが、とにかくアニキはアニキだ。


「自分、ほんと、族から上げてくださったアニキには感謝しきれないんで。今回もお役に立ててよかったっす」

「…………お前、族から上げたって。社会的には突き落としてるからな」


 自分から闇の道に走ったアニキ、説得力があります。


「ところで、話ってなんですかね。ガトーショコラを食べさせたかったわけではないですよね」

「あァ…………てめェにゃ迷惑かけたから、ネタバラシしておこうか、とな」


 悪辣に笑うアニキ。でもその表情には甘さも含まれている。嫌な予感がします、アニキ。 


「…………その前にな、おい盗み聞きすんな入ってこい」

「あっ、バレてたー鍔夜、やっほー!」


 朝熊聖。  

 上司の上司の上司で、現在何故か俺をこき使い回している張本人が登場してきた。    


〇〇。


「うっわー、無様〜。なっさけな〜い鍔夜、あっこれみかるちゃんが作ったの?うわっ酒つよっ、うーん43点」


 相変わらずの飄々とした感じで、ゲラゲラ破顔する朝熊さん。交渉と取引にかけては右に出るものはいないと言われる、鍔夜のアニキに引けを取らないほどの有能な人だ。有能な人なのに、無駄にフレンドリーで油断を誘うから性質の悪い。 


 荷物持ちにさせられているのも「あっ鍔夜の舎弟なんだよね。よしコキ使ってやろう」という思いつきだったのを思い出して頭が痛くなってきた。

 苦手なんだよな、このひと。


「120点だろ殺すぞ」

「いや、鍔夜さ、マジみかるちゃんに甘すぎだから。コレ何? めっちゃ面白いんだけど写メっていい?」


 パクパクとガトーショコラを食べながら朝熊さんは呪いの箱をスマートフォンで撮していた。アニキがさすがにイライラしていて、こめかみがピクピクピクッと跳ねてる、めっちゃ動いてる!


「何しに来たんだてめぇは、笑いに来たのか」

「えっ笑いに来たんだけど」


 一触即発の雰囲気に、慌てた俺は「あ、アニキ! ネタバラシって何ですかね!」と間に割って入るようにして叫んだ。意地悪く微笑むキレイな顔と、強面が一斉にこっちに向く。勘弁してください。


「俺も聞きたいな」

「てめぇ安全なところからひっかき回すだけしやがって」

「俺、関係ないもーん」


「はぁ」と何度目かのため息をついたアニキは、まず「品宮、おまえを騙してそこは悪かったと思ってるんだぜ」といきなり謝り始めた。


「えっ俺騙されてたんですか!」


「あァ。起こってたことも俺が直接ぶん殴りに行ったのもぜーんぶ事実だが1個だけ嘘をついてるんだよ。俺、実はなぁ、スマホも壊れちゃいねぇしこのぐらいの怪我なら大したことねぇんだよ。こんな入院とかする必要ねぇんだわ。今すぐに退院して良いぐらいだ」


 いやいやいやいや、入院レベルっすよ、それ。突っ込みたいが、包帯のままベッドに腰掛けた状態で身体をボキボキィと鳴らし「身体が鈍って仕方ねぇ」とぼやく始末だ。マジなんだろう、きっと。


「えっ、てかスマホも壊れてないって」

「何台かあるからな、別に1個壊れようが大した損じゃねえんだよ」


 朝熊さんが「うっわ引くわ」と笑顔のまま言う。


「な、なんのためにそんな嘘を?」

「いやァ…………」


 ぞくぞくっと震えが足に来るぐらい、真っ黒な笑みと声で言った。


「俺がもし死にかけたら、あいつはどうなるんだか見てみたかったんだよ」


「……………………ええっ」


 開いた口が塞がらないとはこのことか。じゃあ、俺がアニキのこと必死に心配してたのは、なんだったのか! 敵(彼女)を騙すなら味方(舎弟)からってことか!


「クックック………愉しかったなぁ、俺が無事か分からないって言われた途端落ち込んでなーんもしなくなったあいつを見てるのは」

「また盗撮してたんだ変態」

「愉しみがねぇと、こんなことやってやれっか」


 彼女を落ち込ませるのが楽しみなのか。ちょっと今まで信じてた「理想の兄貴、齋藤鍔夜」がガラガラ音を立てて崩れていくのを感じた。朝熊さん、アニキ変態っす……。


「待ってください、ってことはカシラも風山さんもグルっすか」 

「カシラはグルだ。あの方もみかる気に入ってんからなァ。ニコニコとオーケーしてくださったぜ。風山さんは………大将にゃ言ってねぇがバレてそうだな。みかるのこと雇ってくれるらしいし物好きだぜありゃ」


 なんてこった。

 いつの間にか敷き詰められたヤクザによるみかる包囲網。脱力しそうになって「わ、わぁーすごいっすぅ」と棒読みで言ってみると、なぜか朝熊さんに足を蹴られた。


「いっ痛いっす!!」 

「ごめんなんかムカついたから」

「なにがっすか!?」


 あっ、このひとたちヤクザだわぁ。遠くなりそうな意識の中、「みかるさん、逞しく生きてください」と、お星様に願っておくことにした。

迷惑なヤンデレ

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