34.ももぐみのつばやウサギさん。
「もも組のツキヤうさぎさんは、うさぎたちのリーダーなんだが、その中の一匹がバーサーカーのうさぎさんだったわけだ」
驚くことなかれ、この強面ヤクザ真面目な顔で言い出したのだ。
バーサーカーのうさぎってもう初っ端から全然ファンシーじゃない。
「つばやうさぎさんは、そのバーサーカーうさぎさんに再三『おまえ〜いっつもやりすぎなんだよ〜加減しろよ〜あとがめんどくせぇんだよ〜』と言ってたのですが、ついにバーサーカーうさぎさんは勝手にしろ組リーダーの白鳥さんと喧嘩して、エーイ!と刺しちゃったのです」
子供が聞いたらなくぞ、この話。
つばやうさぎさんも大変だな………。
「バーサーカーうさぎさんも一応もも組のメンバーなので揉めに揉めた結果、もも組としろ組の争いになりました」
「もも組じゃなくて月壁組だろ! しろ組じゃなくて白羽鳥組ってとこなんだろ!」
おもわず突っ込んでしまった。そんな、幼稚園じゃないんだから。こんな幼稚園は嫌だって代表格だよこんなの。
「もも組のリーダーうさぎさんは、事が大きくなる前に口止めの拷問とかやりつつ、カチコミを指示しましたが逆にカチコミに合う次第です。問題の対処に当たってたつばやうさぎさんも抗争に巻き込まれました」
つばやさん、登場人物ファンシーに変えてもあんまり意味ない。
品宮さんは必死で笑いを堪えている。そりゃそうだ、もう一度言うがこのインテリヤクザ、マジの真面目に言ってるからな。
わたしも笑わないように頑張るから、そっちもがんばって、品宮さん!
「つばやうさぎさんは、覚えてないけど何発か撃たれました。結局、そのバーサーカーさんを始末することで合意を得て、決着がつきましたがなんとバーサーカーさん逃走中です」
なんかもう、どんな話だよ………。想像がつかなくて、絶句する。
「つばやうさぎさん、もうバーサーカーうさぎさんのことは死んだことにしてやり過ごす予定です。バーサーカーうさぎさんは女関係で揉めたんでね、もうね、女と二人で逃げてくれあとは知らんと思います。
………はい、以上が事の顛末だ。むしろこんな短期間でよく終わったと思うわ。長引いてもおかしくなかったのによ」
「いや、なんか、おつかれさまです」
全然ファンシーじゃなかったけど、想像のつかないようなことが起こってたことだけは認識した。
「アニキ、俺下っ端なんで、知らなかったっす。なんかヤバいってことしか」
「あァ? てめぇは上の言うこと黙って聞いときゃいいんだよ。ガキのくせに余計なこと考えんな」
つばやさんは、機嫌の悪いまま言う。でも品宮さんを大事にしてるんだろうなぁというのは伝わってきて、おかしくて笑ってしまった。
「なに笑ってんだ、みかる」
「べつに。そろそろ離してください」
「嫌だね。今日はここで泊まってけ」
本気かよこいつ。こんな狭い、男一人でみっちみちに狭いベッドしかないのに。床で寝ろっていうのかよ。
「あ、俺、受付で毛布もらってきますよ!」
「おう、わりぃな」
余計な気を効かさないで! 品宮さん!
ありがたいことに、不肖阪奈みかるのために毛布を取りに行ってくれた品宮さん。
「うそぉ…………」
と思っていたら、頬に口づけがされていた。
「………さみしかったんだ?」
「寂しいに決まってんだろ殺すぞ」
「殺さないでって、お願いだから!」
くくくっと喉を鳴らす笑い声に、やっと帰ってきてくれたことを感じて、あったかくなる。ぽつぽつ、話したかったことが口から出てきた。
「わたし就職きまったよー。ちょうちんメロンが雇ってくれるって」
「お前、働けんの?」
「失礼な………知ってる場所だったから意外と働けたって!」
「おめでとう」
わしゃわしゃと撫でられるあたま。ぎゅっと抱きついて甘えて、あー、わたしもわたしだなぁと。でも恥ずかしさより、甘ったるい幸せのほうが大きくて、つい自分がだめになる。
「あとね………そう、つばやさんが帰ってないせいで、わたしずっと落ち込んでたんですよ。反省して」
「わぁったって。…………フゥン、俺がいねぇとみかる、そーんなに寂しかったんだな?」
「うるっさいなー、日頃うるさいぐらい連絡寄越すのに、急に連絡なしにいなくなるから、誰だって心配しますよ!」
「はっ。良い気分だな、お前をそこまで心配させてなんて」
何余裕ぶってんだ、このヤクザ。
悔しいから、思い切り唇に噛み付いた。
「っおい、噛むなよ」
「うるひゃいなっ、今度おんなじようなことがあったら、わたし暴れるから」
本気な目のわたしに、つばやさんは何か感じ取ったらしくて。急に顔を青くさせ始めやがった。肩を掴む手が大げさに痛い。
「みかる、待て、おまえ何か企んでたな」
「いや、今回はたまたま、若頭さんの連絡が早かったから暴れずに済みましたけど。つばやさん、スピリタス砲って知ってますか」
「………………は? スピリタス砲?」
「まあ帰ったら見せてあげますよ」
「待て待て待て、お前」
ふ、と笑って緩んだ腕から逃れたわたしはリュックから焼酎を取り出した。
「まあ今日は、飲みましょうや、つばやの旦那ぁ」
「みっみかるさーん! 院内飲酒禁止ですって!!」
毛布を持ってきてくれた品宮さんに全力で突っ込まれた。闇病院のくせに、そこはちゃんとしてるのかよ!
結局、慌ててやってきた鯨さんに焼酎を没収されて「鯨、すまん、マジで悪い」と謝るつばやさんにベシッと叩かれたあとは。
ぎゅうぎゅうのベッドの上のつばやさんの隣で、久しぶりにゆっくりと寝てしまった。
次回またカオスです!




