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24.クレイジーガール、やーこの暴走

 やーこから突然電話がかかってきたのは、とある夕方だった。つばやさんち(というか私の家?)の自室でゴロンと寝転び漫画を読みつつポテチを食う……いわゆる暇だったので、ぽちりとボタンを押して電話に出る。


「おう、どうしたよー、珍しいな電話なんて」

『おいみかる、おまえいつの間に引っ越しやがった』


 言われて気づく。生活に馴染みすぎて忘れていたが、この友人たちに引っ越した事実を伝え忘れていたのだ。


○○。


『はぁ?同棲?ちょっと前まで喪女だったくせに、段階がはええんだよ。そのうちデキんぞ』


 やーこの口の悪さは一級品だ。マシンガンのように飛び出す悪口は聞いてて何故か爽快感がある。一方で真面目な人にはとことん嫌われる、通称ただの嫌な奴なのだ。


「………てか、なんで引っ越したの知ってるの?」


聞くと、


『おまえんちに酒持って押しかけようとしたのに、空き部屋になってたからな! もー、みかるの馬鹿野郎め!』


 電話越しにブリブリ怒られるけれど、理不尽極まりねえ。


「え、どしたのほんと、わたしでよかったら飲みたいよー!」

『そうだろうよ。みかるなら突然酒持っていっても喜ぶと思ったし』


 なんかほんとに酒で釣れば良いと思われてるな、さては。それでも嬉しいものだ。たまには休肝させてやろうと思って牛乳を飲んでいたけど、酒に変更できまりだな。


『で、おまえ今どこに住んでるの』

「え…………えっとヤクザの家」

『おう、で、どこだよ』

「待て待て待てっ、本気で来るつもりか!」 

『あたしんち、今人が入れる状態じゃないんだよ。いいから入れやがれ』


 こう言い出したらやーこは止まらない。しかし困った。つばやさんと、この頭おかしい女を会わせていいのだろうか。大丈夫だろうか………。


「と、とりあえず聞いてみるから」

『別に普通なんだろ? アキラも会ってるんだろ、良い人だったって言ってたし、あたしも普通に見てみたいから』

「だめって言われたら諦めてな……!じゃないと今晩二人で東京湾に沈むから!」

『わかったわかった。で、どのへん行けばいいのよ』


 近くのスーパーの名前を出しておいた。オッケーと上機嫌で言ったやーこは、もう向かっているに違いない。つばやさんに「クレイジーな友達が酒持って押しかけてきてる」とメッセージを送って、とりあえず迎え入れる準備を始めた。



○○。


 やーこは大学に入ってからの友達で、仲間内では一番の美人で常識人だ。礼儀作法とか完璧だし、見てて分かる育ちの良さ。しかしそれは仲良くなったら決壊する特性でもあった。

 とにかく美人のくせに口も性格も悪くて破天荒な傍若無人ガール。これがやーこの本性だった。そんなところが大好きなんだけど困ることもある。ほら、今日だって来ると言えば聞かないような奴だから。

 まあ、お酒持ってきてくれるなら全然いいけどね!

 勝手に冷蔵庫を開けると、料理好きなつばやさんはいろいろ材料を買いだめしているわけだ。なにつくろうかなぁ。相手はやーこだし多分持ってきてるのもチューハイだから、チューハイに合うおつまみ………。


「お、わかった、あれ作ろう。簡単だしな!」


 いいことを思いついた。じゃがいもを5個出して、細く切って水に晒す。時間も頃合いだろう。家を出てやーこを迎えに行った。


○○。



「うっわー、でけぇマンションー。東京でこのでかさって家賃えげつないたろ。さすがだなみかるの彼氏」


 着いて早々に飛び出したセリフがこれだ。遠慮の無さは天下一品。

 大体、学校にとんでもない噂を流した主犯もこの女なのだ。アキラは横で笑ってただけで、ほぼこいつのせいだと言っていい。

 でもビール見せられたら文句言う気も失せるよね!


「こっちのねー、8階でして」

「ハチカイィ? 高層マンションの上の階ってカーストも高いって、前見てたドラマでやってたぜ」

「それ多分、ママ友ドロドロドラマだろ。ヤクザ多分関係ねえからな」


 やーこをお招きすると「中まで広い!」とはしゃぐ。


「というか、きれいだなー。生活感無いっていうか。みかる、おまえが住んでるとは思えないよ」

「だって散らかしたら怒られるんだもん」


 さてと、テーブルにどちゃっと置かれた大量のお酒にウキウキしつつ、私はキッチンへ。じゃがいもの水気を切って、軽く小麦粉をまぶして低温からじっくり揚げれば……!


「ホクホクポテトフラーイつくったよー!んはー良い匂い」

「さすがみかる!めっちゃ美味そう!」


 ちょっと贅沢にバジルソルトをかければ、簡単ご家庭で楽しめるフライドポテトの完成だ。テーブルに置いて、やーこが持ってきてくれたビールを開ける。


「かんぱーい!」「乾杯!」


 その他やーこが買ってきたお惣菜のコロッケやらサラダ、枝豆をテーブルに並べる。

 さてさて、お味はどんなものか、ポテトちゃん。熱そうだから、ふぅと息をかけて恐る恐る噛む。熱々のカリッとした外側、そして中からホクホクがふんわり……! さらに、バジルソルトが薫りまできらびやかに演出してくれる。じゃがいもの甘みと、バジルソルトの辛味が絶妙……、たまらん。


 そして相変わらず、ビールは美味しい。幸せを感じつつ、なにやら神妙な顔をしている友人に話を振った。


「で、急にどうしたんだよ」

「あーそれね、そう、すっげー飲まないとやってられなくて」


 ポテトを食べて、チューハイを一気に飲むやーこ。ペース早くないか? もう無くなったらしいチューハイの缶がぐしゃりと潰された。そして驚きが告げられる。


「振られた」

「………………ええええ!!」


 やーこは「あーっムカつく!」と言いながら新しい缶を開ける。まてまて、冗談だろ……。

 聞いての通りの破天荒ガール、やーこには同大学の同級生の彼氏がいる。高橋くんという文系好青年なのだが、やーこの破天荒にも怒らず微笑む、まさに仏のような青年なのだ。だから「仏」と一時期呼んでいたぐらいなのに、その高橋くんが振るってことはよっぽど怒らせるようなことしたな!


「なにやったんだよやーこ………、びっくりしすぎて酔い冷めたわ」


 二缶目のビール。やーこが大量に買ってきてくれてるおかげでまだまだアルコールは尽きない。これは荒れるぞ今日………!


「………あー、昨日泊まったんだよ啓介の家に」

「う、うん」

「そんでちょっとした喧嘩になったんだ。……啓介が、就職は実家の愛知に帰るって言うからさ、このまま行けば遠距離なのよ。それで着いてきてくれとか言うから、嫌だ東京からは死んでも出ないって言って」

「うっわ。泥沼じゃん」


 地元が関東じゃない私からすれば、実家に戻りたいという高橋くんの気持ちも分からなくもない。まあ、わたしは絶対帰らないけど。


「このパターンの喧嘩初めてじゃないんだけどねー」

「初めてじゃないならどうして振られるまでの事態になったんだよ……」

「あんまりムカついたから、啓介が寝てるときに全身の毛剃ってやった」


 イエーイと、ピースサイン。

 そしてフライドポテトを口に放り込んで、また酒。


 まさかここまでの馬鹿野郎とは思ってなくて呆然とした私に「あそこまで怒らなくてもいいじゃんね。ちょっとふざけただけだろ」とイライラしたやーこは言う。


「………ひゃはははははっ!!やーこ、おまえとんでもないなぁ!」


 びっくりのあとに笑撃が襲ってきた! だって、腕も足もつるっつるってことだろ! ゲラゲラ笑いすぎて床を叩いてしまう。笑い転げてたら、やーこもおかしくなったのか「グフフフ、うはははは、わははははは!!」と笑いだした。


「え! やーこ、高橋くんツルツル!?」

「腕も足もツルツル! ケツ毛もチン毛も剃ってやったわ! あいつ、全然起きねえの! 今にも体中の毛が剃られてんのにな!」

「ひぃー、ま、まって、しぬ、笑い死ぬ、いっひひ、ひひひ、あはははは、むり、しぬ」


 さらによくないことに、ツルツルのつばやさんまで想像してしまった。一度落ち着いた笑いの波がまた襲ってきやがる!


「あははははは! つばやさんもツルツルにしたらやばそう、ひぃ、わたし殺されるわ」

「毛ごと沈められんぞ!」

「なんだよ毛ごとって、はははは!」


 笑いすぎて気づかなかった。時刻は間もなく21:00を回る。背後になんだか殺気を感じて振り向くと怖い顔をしたヤクザが仁王立ちしていた。



○○。



「お、おかえりぃ、つばやさん」

「ツルツルのつばやさんなんかにしたら、タダじゃすまねぇぞコラ」


 ドスの入った声で言われるのは、いつまでたってもビビる。大きな足で背中を踏まれる。


「ぐえ」

「で、お前がみかるの友達か。わりぃな遠いとこに来させちまって」

「いーえ、とんでもない。こんな高級マンション入ることなんて無いですし。みかる、すぐ部屋汚くするから大変でしょ」

「既にこいつの部屋汚えしな」


 背中踏んだまま会話するの、やめてもらえないでしょうか。重いし、酒が逆流しそう。


「すいませんね、突然来ちゃって」

「いや大丈夫だ。こいつの家でもあるしな。……おい、みかる」

「は、はいっ」

「あんま騒ぐなよ」

「お、おっしゃる通りで」

「おもしれー。みかるが女になってら」


 叱られてるわたしを肴にチューハイ煽るのやめろよ、やーこ。

 というか、私でさえビビってる「ヤクザ齋藤鍔夜」に全く物怖じせず堂々と酒を飲み続けるから、大したやつだと思う。あにきのガクブルっぷりが嘘のようだ。本当にいつも通りなやーこ。


「お前、俺のこと怖くねぇのか?」


 勝手にやーこの持ってきた酒をあけて、つばやさんは飲み始めた。


「まあ、良い人だって聞いてますしね。怖くはないですよ」

「やーこ、きをつけろ。このアウトレイジはキレたら手がつけられないのだ」

「お前は余計な事言うな」


 グイと体重をかけられたかと思えば、やっとヤクザの足蹴から開放された。


「つばやさんも一緒にのもうよ、そしたら」

「お、いいのか」


 やーこの暴挙と今後の展望についてヤクザにも意見をお伺いすることにしよう。



やーこVSヤクザ、果たしてどうなる!


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