306
306
あの奇妙な雰囲気の宴会が終わった後細川藤孝と一部の幕臣達がひっそりと実虎の宿泊先を訪れていた。
「この様な夜分に申し訳ございませぬ。」
「いえ、私も考えを整理する時間が欲しかったので眠れずにいたところでございまする。」
白湯をそれぞれ飲むとどちらからともなくポツポツと話し始めた。
「では、公方様の感情の起伏が激しくなったのは最近のことだという事でしょうか?」
「はい、最近は特に激しく、夜中は酒を片手に必ず過ごしておりまする。そして、次の日の朝から剣を振るう日々です。」
「気鬱の病でしょうか。」
「もしかすると…」
この言葉の後に皆が黙りこくる。
「実虎殿は本当に北条と戦をするおつもりで?」
「したい、したくないに関わらずいつかは北条と戦をする必要がございまする。その時が早まっただけにございまする。」
「というと?」
「北条の方が良い内政をして、民が幸せで豊かなのです。どんどんと民は領国を離れ、北条は民が増える。緩やかに衰退して膝を折るか、戦をして一か八かにかけるかなのです。佐竹の様に上手く取り入ることもできるかも知れませぬが、それをするには上杉は大きく強すぎまする。」
「確かに…ご武運をお祈りしております。」
「有難いお言葉ありがとうございまする。」
〜〜〜
1555年 3月北条氏政
実虎が北条討伐を内密に引き受け、戦略を考え動いている間に幕臣達は義輝を焚き付け、実虎の為に動くという名目で東北各地や武田に檄文を送っていた。
その文を風魔達が見逃すはずもなく、その内容はすぐにでも氏政のもとへと伝えられた。
「ついにこの時が来たか。上杉方の動きはどうだ?」
「全くと言っていいほど戦の準備をしておりませぬ。また、上杉領内で忍びが動いている様子も無く不気味です。」
「公方が勝手に盛り上がっているだけで上杉は辟易としているのか?だが、事前の報告では上杉実虎と足利義輝は馬があい信頼関係があるとも入っていたな。」
「はい、酒を酌み交わし、刀について語り合い、心の友の様に振る舞っていた様子は有名ですが。」
「わかった。文を送られた勢力はどうだ?伊達 最上 蘆名 武田 他にも送っているだろうが大きなところだとここだろう。」
「伊達と最上に関しては消極的な賛成と言ったところでしょう。奥州以外のことに興味がないというより、奥州だけで手一杯と言うのが正しいかと。蘆名に関してはこちらに協力的です。送られてきた文をそのままこちらに横流ししてきております。武田に関しては沈黙を保っています。それと、佐竹や里見殿からも文がこちらに渡されました。手広く没落した家にも檄文を送っている様で…」




