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1554年 11月 上杉実虎(史実の謙信)
実虎は周辺諸国へ牽制の意味も込めて上京するということを手紙で伝えると雪で閉ざされる前に直ぐに向かった事もあり無事に京へと着いていた。
約一年程で戻ってくることになるとは思っていなかったがここで上杉の優位性を示すためにも必要なことだと実虎は割り切っていた。
「この度もよろしくお願い申し上げまする。」
実虎は近衛前久へと頭を下げ挨拶をする。
「良い良い、またこちらを訪れてくれて嬉しいぞ。」
前久の先導に従って館内を歩いていく。前に来た時と変わらず綺麗なままである。他の公家の館も見てきたがここはやはり別格だ。他の館も少しずつ良くなっているがここは北条の手がしっかりと入っており別格だ。
「伴のもの達は別格に詰めて貰えば良いかな?」
「はっ、お世話になりまする。」
「此度は、公方に報告があると聞いていたが、朝廷にもよって行くのかの?」
前久が流し目をしながらこちらに問いかけてくる。
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「ふむ、朝廷の方でもお主の活躍ぶりは聞こえてくるのでの。皆お主の話を聞くのを楽しみにしておる。」
「はっ、ありがたい事です。」
少し沈黙が落ちた。応接間に通してもらい2人きりになると先ほどまでの公家としての近衛前久がなりを潜め、旧交を温めようとする友としての近衛前久が出てきた。
「はぁ、ちと堅苦しかったの。ここなら人目も憚らず話ができる。ゆるりとしてくれ。」
「それは中々…。そういえば、京の様子は以前よりも良くなっておりますな。こちらにくる途中も整備された道や修繕された建物などが見えました。」
「うむ、氏政殿から送られてくる献金のうち一部を使って整えていっているのじゃ。主上が膝下の民だけでもと心を砕いておるのじゃよ。」
「なるほど、我々もできる限りお力になれる様に頑張りまする。」
上杉家としても越後上布や米などを献上しているが、個人としても銭などを献上しようと実虎は決めていた。
「そうかそうか、それは主上もお喜びなるじゃろうて。話は変わるが、お主と武田との争い。あれは勝ったのか?負けたのかのう?」
「あれは…両者共に勝ちといった所が正直なところにございまする…。武田は手に入れた領地を減らさずに済みました。ただ、上杉としても上杉との国境よりも先のところで武田との境界地を確定させることができました。我々としてはこれ以上武田が踏み込んでこないのであれば何もするつもりはございませぬ。」




