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1554年 10月 北条氏政
「なに?上杉殿が上京していると?」
氏政は、上杉からの使者から届けられた文を開き読み進める内に声を上げていた。
上杉は武田との休戦と冬の雪による天然の防御を利用して、このタイミングで幕府に挨拶をしに行っているようだ。
「十中八九、この前の戦で力を示したことによる領内の統治が成功したのでしょうな。」
秀吉は既に使者から話を聞いていたようだ。
「だろうな。あのお方は幕府に今回の勝利者は上杉だと思ってもらうために出向いているのだろうよ。それに、将軍と親しければ跳ねっ返りどもも何かと難癖をつけづらくなるというのも狙っていそうだな。」
「どうされますか?上杉殿が出払っている間に領内を掻き回しておきますか?」
「そうだな、何やらきな臭い動きがありそうだ。越後の民を離散させる目的で動かしてくれ。反抗を唆すような事はしないでいい。」
「はっ!」
側に控えていた風魔の者が直ぐに動いていった。
ドタドタドタ
うるさ過ぎない足音だが、女子としては明らかにはしたないと言われても仕方がない歩き方で誰かがこちらにやってきていた。
「お市様!お待ちください!そちらは殿の仕事場にございまする!ご勝手に入られるのは控えてくださいまし!」
多分お市につけている女中(風魔)であろうものの声が聞こえるも既に時は遅かったようだ。
ガタッ
襖が勢いよく開けられた。堂々とした立ち姿で氏政のことを目線で探すが直ぐに見つかり顔をパァッと明るくしていた。
「どうしたのだ?市?」
「寂しかったから会いに参りました!」
市はまだ6歳、望んでこちらに来たとはいえまだまだ甘えたがりの子供だ。それに対して俺は一回りも大きい大人、甘えたくなるのだろう。
「そうか、それはすまなかったな。では、この後に城内の庭でも少し回ろうか。」
「はいっ!お待ちしております!」
女中がやっと追いついたと思ったら直ぐに市は踵を返して自分の部屋へと戻っていったようだ。
女中は顔を青ざめながら申し訳ございませんと頭を下げてきたが、特に気にしていないと態度と言葉で示してそのまま市を追いかけさせた。
「市姫様はお元気ですな。見ていてこちらも元気をもらえそうです。」
「そうだな。こちらにきて気落ちされるよりは全然良いことだ。それに城内のものに積極的に話しかけて交流しているようだし、父上達と茶や囲碁などをしているようだぞ?」
「それは…中々豪気な事ですな…」
秀吉の苦笑いに合わせて氏政も同じような顔をしながら市とのお出かけのために手を素早く動かし始めたのだった。




