13話 決行日はクリスマス
ルクスは、神城ユーナの好意に甘えてユミエラを預けに出かけた。
アリアから貰った食料と着替えを持って、ユーナの実家の豪邸へ行くとなんとメイドが出迎えてくれた。
ユーナの実家はダンジョン関連の道具を扱っていて、全国一位の采月ホールディングスで販売されている。
単発型ダンジョンを恐れて、大体のお金持ちもあまり大きな家を持たないので、この屋敷はより目立つ。
街中はクリスマスカラーなのに、神城家では祝っている様子はなかった。
「お嬢様はお出かけですが、気兼ねなくくつろいでくださいませ」
「お兄ちゃん……この家豪華すぎて怖いよ」
「ひるむな、お兄ちゃんもこんな穴あきスニーカーでこの絨毯を歩いていいか不安でいっぱいだ!」
ユミエラをお姫様だっこしながら、ルクスはそろそろと歩く。
可愛い装飾の部屋へと案内されて、そっとふわふわのベッドにユミエラを寝かせた。
ユミエラの衣服やベッドには比較的にいいものを買っていたつもりだが、こんな豪華なものとはくらべものにならない。
ユミエラも、喜ぶより怯えてしまっている。
短期間とはいえ、最後のアイテムは九月なのだ。
慣れてもらうしかない。
「じゃあ、行ってくるよ。ひと段落したら、ユミエラを迎えにくるから」
「……うん。絶対に帰ってきてね」
人目があるので、泣けないのだろう。
ユミエラがルクスに抱き着いてきたので、細い体を抱きしめ返す。
必ず永飢病を治すアイテムを手に入れるぞ、と改めてやる気に火が付いた。
メイドたちに頭を下げながら、ルクスはケニーとの待ち合わせに向かう。
バスに乗るお金もないので、ダッシュ一択だ。
「うわーーーー間に合え俺ーーー!!! 異世界まで付き合ってくれる先輩を待たせてはいかーーん!!」
クリスマスにカップルを押しのけて、ルクスは走る。
グランディア行きのゲートはひとけがなく、隣の永続型ダンジョンでは人がごった返していた。
ほぼ無人のゲートのほうで、防具と弓を持ったケニーが、ルクスを待っていた。
「お、お、お、待たせしましたーー!! 本当にすみません、ケニー先輩! 思ったより道が混んでて」
「そりゃあクリスマスの昼だからね。気にしてないよ!」
百七十センチ後半のケニーが、ルクスの長身を見上げる。
「なにか食べてきた? ルクスくん」
「もやし食べてきました!!」
「そっか、もやしか……」
主食がもやしになるつつあるルクス。
わけもなく物悲しくなるケニーだった。
「行こうか? 武器はあるんだよね?」
「はい、借り物ですけど」
ルクスはアイテムボックスから、鬼哭丸を取り出す。
ケニーの弓には弓矢がない。
ケニー自身の魔力が弓矢になるのだ。ハーフエルフのケニーの得意な武器である。
ゲートを潜ると、爽やかな風が二人を迎える。
日本とグランディアでは、季節は違うようだ。
「うわーー草原フィールドですねえ~。コート脱いじゃお」
「日本語の看板があるよ!」
ケニーが指さしたのは、木製の看板だ。
”西に5キロ……フォルミ村”
”東に5キロ……フォルン村”
「おおー! フォルン村が!! 結構近いですね!」
「そうだね、少なくとも一個目の村は確認できそうだ」
てくてくと歩きだすと、思い出したようにケニーがアイテムボックスからケーキを取り出した。
しかもホールだ。
「そういえば、クリスマスケーキ持ってきたよ。男二人で食べる?」
「わー、食べられるものはなんでも食べますよ、俺!!」
「フォルン村に着いたら食べようか?」
そんな呑気な会話をしていると、うさぎ型のモンスターが現れた。
鑑定・Cによると、レッドバーニーだ。
ケニーはケーキをしまうと、魔力の矢を練る。
「行くよ、ルクスくん!」
「はい、ケニー先輩……って、え? 俺も戦うんですか!?」
「いや、ルクスくんも戦えば強いんだよ……?」
「いやー、まさかすぎますよー!」
ボケた会話をしているうちに、一メートルほどのレッドバーニーはルクスを狙った。
”お客様は金づるです”と書かれた文字シャツを破きたくないルクスは、袖をまくって手を突き出す。
手のひらを呑まれたルクスは、慌てて剣を抜いた。
ケニーは、更に後方から追ってくるレッドバーニーを魔弓で貫いていく。
「えい! ……こいつ、早い!!」
長剣にまだ慣れないルクスは、再生したばかりの自分の指ごとレッドバーニーの首をはねた。
「あーー素材がーー!!」
「最初は仕方ないよ。ゆっくり行こう」
自分の指をスライスしたことより、ルクスはモンスターの素材のほうが気になってしまう。
倒したモンスターをアイテムボックスに入れていると、ケニーの尖った耳が動いた。
「……声がする」
「え? どこからですかー?」
「急ごう!! こっちだ!」
軽やかに駆け出すケニーを追って、ルクスも走る。
丘を越えたあたりで、悲鳴がはっきりと聞こえた。
助けを求める、その声が。
異世界グランディアに突入です




